2021年10月19日火曜日

ジャズ・ロフト

夜のにわか雨。Bunkamuraル・シネマで、サラ・フィシュコ監督作品『ジャズ・ロフト』を観ました。

報道写真家ユージーン・スミス(1918-1978)は出版社との摩擦、家族との離別により、郊外の豪邸を出て、NY市マンハッタン6番街821番地、花問屋街に建つ老朽化したアパートメントに住まいを移しスタジオとする。そこにジャズマンたちが集まり、夜更けから明け方までセッションを繰り広げた。

1957~65年、8年間の記録を膨大なポートレートと、当時を知るミュージシャン、写真家、元隣人、音楽ジャーナリスト、研究者たち、50人以上の証言を編集したドキュメンタリーフィルムです。

「常にジャズは居場所を求めていた」「当時は演奏できる場所は少なかったが、クリエイティブな空間があると評判になっていた」。

映画は大きく3つのパートで構成されています。第一にユージン・スミスの栄光と挫折、第二にズート・シムズを中心とするジャムセッション、第三に "The Thelonious Monk Orchestra At Town Hall" のセロニアス・モンクホール・オーヴァートンによるリハーサル。

ユージーン・スミスは動画を撮影しておらず、ロフトの風景はモノクロのスチール写真のカットアップと音声によって表現されます。スミス自身が高価な機材を購入し録音したテープは演奏だけでなく会話や電話の音なども録音状態が良く、当時の空気が生々しく伝わってくる。特に、モンクの "Little Rootie Tootie" のエキセントリックな和声をピアノで解析しホーンアレンジに昇華するオーヴァートンとのやりとりは興味深い。ミュージシャン以外に、サルバドール・ダリノーマン・メイラーの姿も写っています。

ジャズにはつきもののドラッグですが、朝まで眠らずに仕事を続けるためにユージーン・スミスはアンフェタミンを常用していた。おそろしいほどのエナジーが渦巻き、「25歳でバーンアウトしてしまった」というドラマーのロニー・フリーの言葉にマスネのオペラ『マノン』のアリアが重なる終盤は痛々しいです。

スミスの写真の技法についても言及されています。現像した印画紙が乾く前に漂白剤を浸した綿棒で擦ることでハイライトをつけて、あのドラマチックな陰影を作っていたんですね。知りませんでした。

 

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