2022年2月12日土曜日

ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ


1957年合衆国NY市。白人女性ジャーナリストから「黒人でいる気分は?」と訊かれたビリー・ホリデイアンドラ・デイ)は「ドリス・デイにも同じ質問できるの?」と答える。

さかのぼること10年。1947年マンハッタンのジャズ・クラブ「カフェ・ソサエティ」の専属歌手となった32歳のビリーは、米国南部の人種差別リンチ殺人を告発する楽曲「奇妙な果実」により、全米で盛り上がりを見せる公民権運動を扇動しているとみなされFBIにマークされていた。

映画のなかでビリーは麻薬不法所持容疑で4度逮捕されます。1度目はガチ。執行猶予のつかない13ヶ月の懲役刑。ビリーの恋人でもあった白人女優タルラ・バンクヘッドナターシャ・リオン)の尽力で刑期は短縮される。2度目は仕組まれた罠。違法収集証拠により不起訴を勝ち取ります。3度目はコメディ。4度目は純粋にスケープゴートとして。

社会活動家があらゆる面で清廉潔白である必要はない。が、大衆はそれを求める。故に、スキャンダルの標的になりやすく、FBIもそこを突きたい。黒人初の連邦捜査官となったジミー・フレッチャー(トレバンテ・ローズ)は黒人社会から裏切り者と目されているが、ドラッグがブラックカルチャーを崩壊させるのをなんとか回避させたいと考えている。ビリーのツアーバスを追尾するうち、バンドメンバーとも打ち解け、やがてビリーと恋仲になる。

全米ツアーの途中で草むらで小用を足そうとしたビリーが、リンチに遭い木に吊るされた黒人男性と泣き喚く家族に出会う描写がありますが、彼女は本質的にアクティヴィストであったのか、という疑問を僕は持っています。作品中で本人が語っているように、彼女のレパートリーは甘美でほろ苦いラブソングばかり、プロテストソングは「奇妙な果実」のみです。

ビリーに「プレズ(大統領・社長)」と名付けられ、音楽面で支え続けたレスター・ヤングテイラー・ウィリアムズ)の包容力が泣かせます。ビリー・ホリデイというプレッシャーのかかる役柄を圧倒的歌唱力でねじ伏せたアンドラ・デイはお見事。「奇妙な果実」より"All Of Me" が、劇伴含め耳に残ります。

 

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