2011年12月30日金曜日

Poemusica vol.00

西麻布Ojas Lounge、渋谷SPUMA、茅ヶ崎TOIYAA CAFEなど、東京のサブカルシーンで常に注目されるスポットを手がけてきた土屋友人氏が、今年の2月に下北沢にオープンしたWorkshop Lounge SEED SHIPは、ライブスペースとは思えない2面ガラス張りで陽光の差す明るい室内、白煉瓦と木の質感を生かしたシンプルな内装と柔かな音響が魅力です。

左の画像は出演者控え室の照明。白熱球の灯りが小さな円形の金属板に乱反射して壁をミラーボールのように照らしています。井上侑さんが「きれいですねえ」と感心していると「ここがこの店で一番きらきらしている場所。お客さんは入ることができない、出演者だけの場所だから」とはオーナーの土屋氏の弁。

そんな丁寧で細やかな気づかいが、お客様にも、出演するアーティストにも、それぞれに向けられている、素敵なハコです。

今回ご縁があってお声掛けいただき「Poemusica vol.00」と題する、詩を感じさせる音楽と音楽的な詩をテーマにしたシリーズのパイロット版に参加させてもらいました。

共演者を紹介します。

Makoto Tanaka Piano solo unit は作曲家の田中マコトさんのピアノソロ。たとえていうなら、単館上映されるヨーロッパ映画の架空のサウンドトラック。叙情的な旋律と和声、緩やかなテンポが、言葉にはならないストーリーを感じさせます。

井上侑さんはピアノ弾き語り。キュートなビジュアルでアイドル的な要素も持ちながら、Tom Waits ばりに曲を途中で止め客席やスタッフに語りかけるステージ度胸もあり。今年180本のライブをこなしたのも伊達じゃない。ドラマチックな表現力もあります。

yojikとwanda東京在住のyojikさん(女性vo)と大阪から深夜バスで来たwandaさん(男性g)の遠距離デュオ。Rickie Lee Jones meets Nick Drake。あるいは初期のEBTGTUCK&PATTIを思わせるような。ガットギターの優しい音色を生かした心地良い音楽です。なぜか途中からyojikさんがオノヨーコに見えてきて、歳末感満喫でした(笑)。

僕はそれぞれのセットの合間に3篇の詩を朗読しました。田中さんがドビュッシーの「月の光」をリハで弾いているのを聴いて、当日演目に加えた「無題(静かな夜~)」、その次に「Doors close soon after the melody ends」、井上侑さんの演奏をはさんで「クリスマス後の世界」。

一年の締めくくりにぴったりな心あたたまる時間を過ごしました。ご来場のお客様、共演者とスタッフのみなさん、どうもありがとうございました。そしていつもこのブログにお越しいただいているみなさんも、どうぞ良いお年をお迎えください!


2011年12月24日土曜日

サウダージな夜 第15夜

中村加代子さんといえば、僕にとっては小森岳史さんtrixistextsで毎月ショートストーリーを連載している、いわばレーベルメイト。チャーミングな文章を書き、美しい写真を撮り、「秋も一箱古本市」を主催する青秋部部長の肩書きを持つ多才な方で、しかも美人。10月に古書信天翁さんTKレビューにいらしてくださり、打ち上げでお話した際に「一番好きなのは歌うこと」とおっしゃっていました。

その中村さんが、千駄木の古書ほうろうさんで毎月開催されている吉上恭太さんの「サウダージな夜」にゲスト出演するとうかがって、いそいそと出かけて行きました。

まず恭太さんのソロ。ザ・ビートルズの“With a Little Help From My Friends”、ACジョビンのボサノバ・スタンダード、オリジナルと全6曲をガットギターで弾き語り。声を張らずに訥々と進む演奏は「レイドバック」なんていう懐かしい単語を思い出させるものでした。

そして「シノバズの歌姫」と紹介された中村加代子さんが登場。細野晴臣の「悲しみのラッキースター」のカバー。その第一声から引き込まれました。武満徹「死んだ男の残したものは」「」、メル・トーメの“The Christmas Song”、カルメン・マキの「アフリカの月」。聴くものに何も強要せず、ただそこにある声。ビタースイートなアルトに満員の客席が包み込まれました。

クリスマスイブにぴったりのしみじみとした良いライブでしたが、歌や演奏もさることながら、会場の古書ほうろうさんが不忍ブックストリートの中心のひとつとして、地域コミュニティに愛されていることが素晴らしいな、と思いました。恭太さんのオリジナル曲なんか歌詞がみんな谷根千ネタだし。お客さんたちの持ち込みの飲食物ものすごい物量だし(ごちそうさまでした!)。このお店の十数年の努力と工夫があってのことですが、みんな古書ほうろうが大好き、ってことが本当に伝わってきて。ちょっと感動的でした。

そんな年末。僕もライブが一本入りました。すこし急で、しかも年の瀬もかなり押し詰まった29日ですが、年末年始は東京で、野球もサッカーもオフシーズン(でもないけれど)、テレビは再放送と特番ばかりで退屈。そんな人は是非いらしてください。

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Poemusica vol.00
日時:2011年12月29日(木) Open 18:30 Start 19:00
会場:Workshop Lounge SEED SHIP
世田谷区代沢5-32-13 露崎商店ビル3F
03-6805-2805 http://www.seed-ship.com/
料金:前売り¥2,000/当日¥2,500(ドリンク代別)
出演:Makoto Tanaka Piano solo unit
http://jp.flavors.me/tanaka_makoto
井上侑 http://www.inoue-yu.com/
yojikとwanda http://www.yojik-wanda.com/
カワグチタケシ http://kawaguchitakeshi.blogspot.com/

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今回共演する三組はいずれも気鋭のミュージシャン。ピアノソロ、ピアノ弾き語り、ギター&ヴォーカル。みなさんはじめましてなので、僕自身楽しみです。

今回がパイロット版となるSEED SHIPさんの「Poemusica」。2012年にシリーズ化されたあかつきには、僕もブッキングや出演で全面協力する予定です。お楽しみに!

2011年12月3日土曜日

ロータリー・ソングズ

東京が今年一番の冷え込みを記録した金曜日。地下鉄を乗り継いで渋谷まで。京都在住の画家足田メロウさんからお誘いをいただいて、UPLINK FACTORYで開催された「ゆーきゃん 3rd Album ”ロータリー・ソングズ”発売記念ライブ 東京編」へ。

ふわふわの茶髪に黒縁眼鏡、純白のシャツ、ベルボトム・ジーンズ、裸足で登場した今日の主役ゆーきゃんは京都西陣に暮すシンガーソングライター。生ギターを爪弾きながら、オフマイクでささやくように優しい声で歌うそのスタイルは、さしづめ大人になった星の王子さま。

旋律にも和声にも歌詞にも演奏にも、表面上どこを取ってもエッジの見あたらないその音楽が、逆に強靭なスタンスを感じさせるから不思議です。サポートするふたりの腕利きミュージシャン、エマーソン北村(key)、田代貴之(b、ex.渚にて)も、その柔かな空気を守るように大切に丁寧に音を紡いでいきます。

そして今回の新譜のジャケットと歌詞カードを描いた足田メロウのライブペインティング。曲の雰囲気に合わせて、あるいは歌詞のストーリーに寄りそうように、淡く儚い線と色を添えていきます。今回は生成りの画用紙に水彩とパステルで描き、それをビデオカメラとプロジェクターを使って、ステージ後方のスクリーンに投影するという手法でした。

メロウさんのライブペインティングを言葉で説明するのはとても難しいです。手のひらにしぼり出した白い絵の具を画用紙に置く。そこから偶発的に発生する白い面にパステルで線を加えて具象化する。たとえば鳥、たとえばウサギ、女性の横顔、小さな家。一本の線はあるときは木の幹となり、曲が進むのにつれて葉をつけ、花を咲かせる。あるときは地平線となり、愛犬の待つ我が家が建つ。

通常の絵画制作のように、画家の内部に完成形が存在し、そこに向って筆を加えていくというよりも、一枚の絵の過程のいくつかがそれぞれ複数の完成形であり、それを破壊することで次のヴィジョンに向かうというような。しかもそのひとつひとつがきゅんきゅんくるという。すみません、全然説明できてないですね。全くもって百聞は一見にしかずです。

共演した二組もよかったです。アニス&ラカンカは、ニュージャージーから来た幼馴染(嘘)二人組。大勢の羊や牛と暮していて、鍬ですくったかいばをぶつけあってふざけているときに作った曲(大嘘)を演奏します。実は、埋火見汐麻衣mmm(ミーマイモー)が組んだハードコア・アシッド・フォーク・デュオ。おっかなくてキュートでちょっと笑える。たとえて言うなら、歯車の外れた大貫妙子がふたり、ソニックユースを従えて歌っているような感じです。

長谷川健一さんも京都から。アコースティックギターでベースラインを正確にくっきりと響かせる技巧は本物でした。

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2011年12月1日木曜日

梨田真知子フリーライブ

東京は遅い紅葉。12月の雨が上がって、気温が急激に下がりました。風邪など引いてはいませんか? どうかあたたかくしてください。

日暮里駅から雨上がりのゆるい坂道を上って下りて古書信天翁へ。今日は梨田真知子さんのフリーライブが開催されました。

10月22日のTachyonic Knuckleball Revueにゲスト出演していただいたのがご縁で今回のブッキングとなりましたが、これが事実上の初ソロライブ。それがライブハウスやホールやストリートではなく、書店で、というのがまず素敵。梨田さんの清潔で硬質な抒情を湛えた音楽にぴったりです。

倍音を多く含んだその声は、声量が豊かで音域が広いだけでなく、同じピッチでも歌詞に合わせて地声とファルセットを使い分けたりと、実はとてもスキルフルなのですが、それ以上にエモーションがまっすぐに聴衆の心臓に届くのは、歌うことに対する彼女の純粋な衝動が強く表れているからだと思います。

今回は書店ということを意識してか、いつもよりミディアム~スローテンポの多い選曲で、苦手だというMCも長め。そのぎこちなさがむしろチャーミングで、はじめ固かった客席の空気を図らずも和ませていました。

演奏されたのは全部で8曲。ワルツのオリジナル曲「くらげ」や2つのカバー曲、フィッシュマンズの「いかれたBABY」、アンコールで歌われた長澤知之の「狼青年」では、抑えた表現が逆に歌い手としての力量を表わしていました。どちらも良い曲です。

冬の海風を含んだような誰にも似ていない特別な声、叙情的で美しいメロディ、無駄のない歌詞とその歌詞以上に物語を感じさせる歌唱。音楽を聴く喜びを無心に味わった40分間でした。

2011年11月6日日曜日

妄想中華雑貨店/ステキな金縛り

11月だというのにこのあたたかさ。僕の好きな11月はもうちょっと乾いてきりっと冷えた空気なのですが、今年に限っては寒くならなくてもいいかな。新しいマフラーを買ったのに、しばらく使う機会がなさそうです。

すこし朝寝坊した土曜日は、メトロに乗って飯田橋へ。神楽坂を徒歩で上って横寺町まで。ギャラリーうす沢「場 横寺」で昨日から開催中のハラダノリ帽子展『妄想中華雑貨店』におじゃましました。

今年4月の春夏コレクションでは、triolaさんといっしょに震災復興支援ライブを開催させていただきました。うす沢のマダムは今日もチャーミングな大人の和装、緑色のアンティーク着物でお出迎え。

ノリ先生の作品は春夏も素敵でしたが、やはり秋冬物は落ち着きますね。そして、手に取るとびっくりするぐらい軽い。「頭に乗せるものだから」とノリ先生。フェルトづかいのリバーシブルベレーやキャップ、マフラーや今年注目のポンチョなど、お洒落女子必見のアイテムが目白押しです。11月9日(水)まで開催中!

それから地下鉄で豊洲に戻り、ユナイテッドシネマで三谷幸喜監督作品『ステキな金縛り』の夕方の回を鑑賞しました。

グランドホテル、ギャング、法廷劇と、古き良きハリウッド映画のフォーマットを借りて、ウェルメイドなコメディを豪華キャストで丁寧に紡いでいます。主演女優深津絵里の野暮ったい髪型にはときめきました。もうひとりの主役、落武者役の西田敏行とデュエットした主題歌"Once in a Blue Moon"。ふたりとも歌がとても上手なんですね。

深津絵里が赤いコートを着てバスを降りる「落ち武者の里」のシーンでは、道祖神がみんな前のめり。

とてもよくできたお話でしたが、最後の5分は要らなかったかも。中井貴一が法廷の階段を去るところで終わって、あとはエンドロールのスチールで見せるぐらいのあっさりした感じで充分じゃないでしょうか。

今夜CX系地上波で放送していた関連番組『ステキな隠し撮り』も楽しかったです。竹内結子が特によかったな。キッチンの濡れた床で滑るシーンは本気だったと思います。


 

2011年10月23日日曜日

御来場御礼

DOUBLE TAKESHI PRODUCTION PRESENTS T.K.REVUE05 TACHYONIC KNUCKLEBALL REVUE タキオニック・ナックルボール・レビュー
~詩の朗読とうた~ 終了しました。

御来場いただいた皆様、遠くで気にかけてくださった皆様、会場の古書信天翁のおふたり、ありがとうございました!

明け方激しく降った雨も午後には上がり、曇っていて残念ながら夕陽は見えませんでしたが、楽しい晩になりました。

今回はゲストの梨田真知子さんのパフォーマンスが素晴らしかった。僕はステージに近い場所で、時々客席を眺めていたのですが、みんないい表情で梨田さんの歌を聴いていました。

彼女にとって人生初だというアンコールも含めて6曲。その魅力を存分にお伝えすることができたのではないでしょうか。信天翁さんで単独ライブも決まり、近々詳細発表があるはずです。

小森さん、僕たちもがんばらないとね。

僕の今日のセットリストは以下の通りです。まだ詩集に載せていない作品が増えてきました。

1. クロース・トゥ・ユー(Hal Davidの歌詞のカワグチタケシ訳)
2. 星月夜
3. バースデー・ソング
4. チョコレートにとって基本的なこと
5. 虹のプラットフォーム(新作)
6. 声(新作)

 
 

2011年10月10日月曜日

Dear John

三連休の最終日は早起きしてユナイテッドシネマ豊洲へ。ラッセ・ハルストレム監督の新作『親愛なるきみへ』(原題"Dear John")の初回上映を鑑賞しました。

春休みに実家に帰省した米陸軍特殊部隊員ジョン(チャニング・テイタム) は、両親の別荘に友達と遊びに来ていたサヴァナ(アマンダ・サイフリッド)がボードウォークから落としたバッグを、素潜りで海底から拾い上げたのがきっかけで、恋に落ちる。

2週間の休暇が終わり、ジョンは任地へ、サヴァナは大学へ戻る。1年後に除隊して再会することを約束して。ジョンの任地は、アフリカ、中央アジアなど、ネットワーク環境のないところ。ふたりは毎日手紙を書き送る。そして9.11。

やや影のあるイケメンマッチョと天真爛漫なブロンド美女が、想い合い、すれ違うフツーの恋愛映画です。が、映像は終始うっとりする美しさ。浜辺を吹く風。一度だけあるセックスシーンでヒロインの金髪の一本一本を輝かせる照明。中東米軍キャンプの乾いた風景。再会シーンで農場の逆光にシルエットだけうかびあがるヒロイン。

主人公ふたりの衣装も素敵。タッタソールチェックのシャツにネイビーのクルーネックセーターのジョン、一夜明けるとそのセーターをサヴァナが着ている。ヘンリーネックの白ロンTにカーキショーツのジョンと生成りのルーズなケーブルニットのサヴァナがビーチを並んで歩くシーンなんかは、L.L.ビーンの通販カタログを眺めているようでした(笑)。

脇役ですが、ティムを演じたヘンリー・トーマス(E.T.のエリオット少年の30年後)と、自閉症の息子アラン役のブレーデン・リード(左利き)の芝居はお見事です。

マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ』(1985)の印象があまりにも鮮烈過ぎて、ハリウッドに渡ってからのハルストレム監督の評価はもうひとつですが、『ギルバート・グレイプ』(1993)、『サイダーハウス・ルール』(1999)、『ショコラ』(2000)と、少なくとも3本の傑作を撮っていると思います。がんばれ、ハルストレム監督!