2016年10月1日土曜日

< present >

都民の日の東京は細かい雨が降ったり止んだり。JR中央線信濃町駅と東京メトロ丸の内線四谷三丁目駅のまんなかあたり、金木犀の香る住宅街を抜けて。The Artcomplex Center of Tokyoで、櫻井あすみ個展< present >を鑑賞しました。

昨年の芸工展、根津さんさき坂カフェの展示『ここからの世界』で、櫻井さんの作品をはじめて観て「いいな」と思い住所を書いたところ、今回の個展のご案内を送ってくださいました。その間に第34回上野の森美術館大賞展優秀賞(産経新聞社賞)を受賞したりと、活躍が目覚ましい。

モノクロームに近いくすんだ画面には都市の風景。それも高層建築が立ち並ぶ再開発エリアではなく、古びたトタン屋根や電柱が並ぶ旧市街。日本画の画材と技法を用いていますが、一点透視遠近法による陰翳の深い遠景、キュビズム的な画面分割など、西洋画の発想も上手く取り込んでいるのが印象的です。

街中に人物は多くなく、あっても後ろ姿で、顔の表情も描かれていませんが、そこには人々の暮らしが息づいています。自己と他者との距離感が作品群の主題だという。人の思考や感情に必要以上に踏み込みたくはない。それでも誰かと、世界と、いつも関わってはいたい。そんなSNS時代の新しい日本画。

一方で、原画ならではの岩絵具や銀箔による鉱物質の輝きに「直接」ということを想わされずにはいられない。そのアンビヴァレンツを精密なデッサンと画面構成力でまとめ上げる力量は確かです。来春には東京藝術大学大学院の修了作品展が予定されているとのこと。若い才能のこれからがとても楽しみです。



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