2016年10月16日日曜日

オーバー・フェンス

日曜日の東京は薄曇り。テアトル新宿山下敦弘監督作品『オーバー・フェンス』を観ました。

仕事と妻子を失い故郷に帰った白岩(オダギリジョー)は、失業保険を受給しながら函館職業技術訓練学校建築科に通い大工仕事を教わっているが、特段大工になりたいというわけでもない。唐揚げ弁当と缶ビール2本の夕飯。

同じ建築科の生徒である代島(松田翔太)に誘われた店で働く情緒不安定なキャバ嬢サトシ(蒼井優)と出会う。サトシは昼間は函館公園こどものくに(遊園地)で働いている。

故佐藤泰志の函館が舞台の小説の映画化は、『海炭市叙景』(2010)、『そこのみにて光輝く』(2014)に続いて3本目。監督は3本それぞれ異なりますが、本作の山下敦弘監督の過去作は『リンダ リンダ リンダ』『天然コケッコー』『マイ・バック・ページ』『味園ユニバース』など、まあまあ観ているほうです。

「いまのうちにたくさん笑っておいたほうがいい。すぐに面白くなくなるから」。日々の暮しに夢や希望を見いだせない底辺に生きる人々がいかに生きるべきかという佐藤泰志の小説の主題に、旬のアイドルを撮っても必ずブルージィな仕上がりになってしまう山下監督の作風は合っていると思います。

リアリティには欠けるが感触がリアル。閉園後の夜の動物園。おびただしい数の鳥が突然鳴き出し、鳴き止んだ途端に空から雪のように白い鳥の羽が降ってくる。自転車二人乗りで坂を下る。荷台のサトシが両手で白い鳥の羽を次々に空に放つ。

普段軽乗用車を運転しているサトシですから、坂の上の遊園地への通勤は当然自動車だろう。翌日の出勤を考えたら白岩の自転車で帰るなんてありえない。そんなリアリティ批判がまかり通る昨今ですが、そういうくだらない言説はここではあえて唾棄したい。フィクションにはフィクション的リアリティが、映画には映画的リアリティがあり、それが表現たらしめているのだから。

めずらしく主人公に感情移入してしまいました。白岩は、恋人サトシに「その目で見られると自分がゴミのように思えてくる」と、元妻(優香)には「あなた、私のこと要らないと思ってたでしょう」と言われる。僕も近しい間柄の人に、男女問わず、それも自分としては大事に思っている人に「馬鹿にしているでしょう」とか「私の話に興味無いよね」的なことを言われることがあります。とても悲しい気持ちになるので、そういうの本当にやめてもらいたいです。



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