「僕が里伽子と出会ったのは2年前、高校2年の夏。こんな日だった」。JR中央線吉祥寺駅のホームから物語は始まる。大学1年生の杜崎拓(飛田展男)は電車で羽田空港へ向かい、旅客機で故郷の高知に帰る。
中高一貫の進学校の高校2年生の杜崎は夏休みにアルバイト中の居酒屋で松野豊(関俊彦)から電話を受け、早退して夏休み中の教室で待つ松野に会う。東京から来た転校生の武藤里伽子(坂本洋子)が1階の職員室で説明を受けているところを教室の窓から見下ろす。
杜崎と松野の出会いは更に2年遡る中学3年のとき。校内放送で突然告げられた京都への修学旅行の中止。松野の抗議文を読んだ杜崎はその大人びた考えに尊敬の念を抱いた。
高二の二学期に転校してきた里伽子は体育も勉強もできて目立つ存在だが、クラスに馴染めずにいた。地味でおとなしい小浜裕実(荒木香恵)とクラス委員の松野だけが里伽子を気にかけていた。やがて季節は冬。中高で一本化された修学旅行の行先はハワイ。ホテルのロビーで杜崎は里伽子に「お金貸してくれない?」と突然言われ、アルバイトで稼いだうちから6万円を貸す。
故氷室冴子氏が『月刊アニメージュ』に1990~1992年に連載した原作小説をスタジオジブリが日本テレビ40周年記念作品としてアニメ化し1993年に地上波放送された本作を劇場リバイバル上映で観ました。台詞は八割方土佐弁です。
ヒロイン里伽子が主人公杜埼とその親友松野を心情的にも物理的にも振り回す。里伽子の不安定さは思春期そのものでもあるが、現在だとメンヘラもしくはサイコパス寄りにカテゴライズされそうで、共感できないのがいい。そもそも物語に「共感」を求めすぎる風潮を僕は疑問視しています。自分が経験できない別の人生を想像力を駆使して体験できるのが物語であって、理解できない、共感できない人物と出会えることも物語の醍醐味だと思っています。
宮崎駿が初めて関わらなかったジブリ作品である本作で描かれる思春期の揺れは『耳をすませば』や『猫の恩返し』の源流となり、笑わないヒロイン像はのちに『コクリコ坂から』で結実しました。
作画は流石のジブリクオリティ。緻密で美しく古さをまったく感じさせない一方で、永田茂が手掛けたサウンドトラックのYAMAHA DX-7やFairlight CMI系統のデジタル音による生楽器の模倣の平板さは逆に、『もののけ姫』(1997)以降のジブリ作品の音響の奥行と陰影の深さを再認識させます。
羽田空港からモノレールに乗り浜松町駅でJR山手線に乗り換え新宿駅の小田急線の改札へ。成城学園前駅は線路がまだ地上を走っており、都庁は建ったばかり。吉祥寺駅のホームからTAKA-Qや横書きのオデオン座の看板が見える。往年の吉祥寺を描いた作品を吉祥寺の映画館で鑑賞できて楽しかったです。
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