「今夜ご紹介するのは存命中のアメリカの作家で最高の人です。はじめてテレビに出演するウィリアム・バロウズ氏です!」と紹介され、1981年のサタデーナイトライブの公開収録で小説『ノヴァ急報』を朗読するバロウズのアップから映画は始まる。
そしてカメラは『ガラスの動物園』の舞台でもあるミズーリ州セントルイスへ(作者のテネシー・ウィリアムズは1911年セントルイス生まれで、バロウズと同じくゲイだった)。かつて生家のあった通りを歩きながら幼少期に関するインタビューに答えるスリーピースにソフト帽の70代のバロウズは一見ジェントルマンだ。
ビート・ジェネレーションを代表する作家のひとり、ウィリアム・バロウズ(1914-1997)の存命中に制作されたドキュメンタリー映画がバロウズ原作の新作映画『クィア QUEER』の公開に合わせ4Kレストア版がリバイバル上映されています。
現在はほとんどが故人となった1910~20年代生まれのビートニクの詩人や作家が登場し、バロウズの人となりを語ります。なかでもアレン・ギンズバーグ(1926-1997)の鷹揚で温和な人柄が印象に残りました。またバロウズが作家になる前からヘロインやモルヒネを取り引きしていたハーバート・ハンケ(1915-1996)は「あいつの書くものは理解できない」と正直です。
執事やメイドや庭師を雇うほどに裕福な実家から40歳近くまで高額の仕送りをもらって各国を転々とし、酒と麻薬と男色に溺れ、内縁の妻をウィリアム・テルごっこで射殺した。そんなヤバい奴にも家族がいる。家業と両親の介護を押し付けられた兄モーティマーに「『裸のランチ』は途中で読むのをやめた。露悪的な描写の必然性が感じられない」と目の前で酷評され苦笑。
射殺した妻との間に生まれたウィリアムJr.(1947-1981)は出来が悪く、同世代の秘書兼愛人のジェームズ・グラウアーホルツ(1953-)は自分こそがバロウズの精神的な息子だと主張、ジュニアはアルコール依存による肝臓疾患で本作の製作中に34歳で逝去する。実の親子の対話シーンのバロウズが不器用過ぎて胸が詰まります。
本作中のバロウズ自身による自作の朗読がどれも素晴らしいです。冒頭のTVショーでは原稿を見ず、ずっとカメラ目線で、沈没していく客船の医務室で行われる凄惨な手術シーンを淡々と読み上げる。その静かな狂気に満ちた真っ青な瞳。なのに客席は爆笑に次ぐ爆笑なのだ。『デッド・ロード』が『シティーズ・オブ・ザ・レッド・ナイト』が『ワイルド・ボーイズ』が映像やインタビューとシンクロする。
監督のハワード・ブルックナーもゲイで1989年にHIVにより34歳で亡くなっています。ニューヨーク大学映画学科の卒業制作である本作は同級生のジム・ジャームッシュが音響を担当している。エンドクレジットにジェネシス・P・オリッジの名前が映るので、スロビング・グリッスルやサイキックTVのファンのみんなは目をよく瞠って見ましょう。
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