2024年9月8日日曜日

キング・クリムゾンの世界

真夏日。角川シネマ有楽町 "Peter Barakan's Music Film Festival 2024" にてトービー・エイミス監督作品『キング・クリムゾンの世界』を観ました。

2018年のワールドツアーのリハーサルから映画は始まる。1969年の1stアルバム『クリムゾン・キングの宮殿』の衝撃的デビューから50年以上、分裂、解散、再結成を繰り返している英国のプログレバンド キング・クリムゾンのドキュメンタリーフィルムです。

「私にとって最も深い経験は静寂の中にある」。全活動期間を通して在籍しているリーダー、現在78歳のロバート・フリップのインタビューを軸に撮影時に存命の過去と現在のメンバー、ツアースタッフ、数名の観客のコメントで構成されています。

パブロ・カザルスをリスペクトし、スーツにネクタイ、眼鏡姿でステージ後方の椅子に座って演奏し、ツアー中も毎日4~5時間を運指練習に費やすフリップは、ロックバンドのギタリストでありながらセックス、ドラッグ、アルコールとは縁遠く、理想の音楽を体現できないメンバーは即刻解雇する偏屈で冷徹な完璧主義者と言われている。実際そうなんだろうなという面と血の通った人間的な面が垣間見られます。

1974年に最初の解散をしたのちフリップは、グルジェフの弟子筋にあたる神秘主義者J.G.ベネットに傾倒しワークショップに通った。最晩年のベネットを回想するフリップが、突然カメラの前で数分間の沈黙し、涙を流すクローズショット、1969年最初の全米ツアーの移動中に自ら脱退を告げたオリジナルメンバーの故イアン・マクドナルドの「ロバートを傷つけてしまった」という悔恨は本作で特に印象に残るシーンです。

結腸癌を患ったドラマーのビル・リーフリン(ex.Ministry, NIN etc.)を鍵盤奏者として復帰させたり、初期メンバーが初期楽曲を演奏する 21st Century Schizoid Band、中期メンバーによる BEAT、 The Crimson ProjeKCtCrimson Jazz Trio など、権利関係で揉めそうなカバーバンドを複数公認し、且つそこからキング・クリムゾン本体に抜擢したりしている。フリップ個人のエゴよりもバンドのヴィジョンが優先し、それが一周してフリップの強烈なエゴになってもいる。

緊張感溢れる画面において、60~70代のメンバーがライブ直前に組む緩い円陣は微笑ましく、尼僧服でライブに全通し「プログレ修道女」の通り名でメンバーにもスタッフにも認知されているオスロ在住のドミニコ会聖職者シスター・ダナ・ベネディクタの存在に心和みます。

 

2024年9月6日金曜日

きみの色

真夏日。ユナイテッドシネマアーバンドックららぽーと豊洲山田尚子監督作品『きみの色』を観ました。

「変えることのできないものはそれを受け入れる心の平安をください」。校内礼拝堂のレッドカーペットにステンドグラスの影が差している。坂道の上にあるカトリック系女子校私立虹光高等学校の寄宿舎に暮らす主人公日暮トツ子(鈴川紗由)は、幼い頃から人を色彩として認識する感覚を持っており、同級生の聖歌隊リーダー作永きみ(高石あかり)に憧れている。

きみが体育の授業で投げたボールがきみに見とれていたトツ子の顔面に直撃し、トツ子は気を失う。きみは翌日から登校してこない。生徒たちの噂では、退学し商店街の書店で働いているという。トツ子は市内の書店をしらみつぶしに探すが見つからない。舗道で出会った猫に路地裏の古書店しろねこ堂へと導かれる。レジ奥でリッケンバッカー360を弾くきみと再会する。

古書店の常連客の高校3年生影平ルイ(木戸大聖)に「ふたりはバンドをやっているんですか?」と聞かれて「メンバー募集中です!」というトツ子の咄嗟のでまかせに「やりたい……」と、きみも同意する。

現代の長崎と五島を舞台に溌溂としていない側の高校生たちを描いています。『けいおん!』『聲の形』『平家物語』の山田尚子監督は京アニ出身。本作の制作会社サイエンスSARU湯浅政明監督が水の描写に定評があるのに対して山田監督は光の表現がこのうえなく美しい。陽光を反射して凪いだ内湾を渡る海鳥の描写にはため息が出ました。

主人公トツ子がぽっちゃりなのもいい。声優初挑戦の鈴川紗由さんのおっとりしたテンポが心地よい。「善きもの美しきもの真実なるものを歌えばそれは聖歌なのです」と説くシスター日吉子(新垣結衣)は在学中にロックバンド "GOD Almighty" を結成していた。この伏線回収は爽快。

TVアニメ『平家物語』は全人類にお勧めできる大傑作でした。簡素で迷いのない描線や特徴的なまつげはキャラクターデザイン高野文子氏の仕事だと思っていたのですが、本作でも踏襲されており、目のアップが多い。一方、人を色で認識するトツ子の特性はストーリー上あまり影響がないです。山田監督が光と色彩を描きたかったゆえでしょうか。

音楽は『平家物語』に続き牛尾憲輔。『サイダーのように言葉が湧き上がる』や『子供はわかってあげない』で聴かせたフォークトロニカ的アプローチに加え、木製の打鍵音を強調した生ピアノのアンティークな響きが効果的です。バンド形態は『けいおん!』から『ぼっち・ざ・ろっく』に至るアニメの定型であるボーカル、ギター、ベース、ドラムではなく、ギター&ボーカル、ツインキーボードで、曲調もThe xx的なダークでマットなもの。そして高校生の初ライブらしく適度に拙い(テルミンは上手)。

聖バレンタイン祭で演奏するオリジナル曲は3人のメンバーが1曲ずつ書いた設定だと思いますが、四七抜きで耳に残る「水金地火木土天アーメン」を書いたトツ子がソングライティングの才能があると思います(実際は3曲とも作詞:山田尚子、作曲:牛尾憲輔)。演奏開始後に遅れて最後列に入場したルイの母親が小幅に横スライドしてベターなポジションを見つけるやつ、僕もライブハウスでやっちゃうなあ、と思いました。

 

2024年9月2日月曜日

aespa: MY First page

晴天。TOHOシネマズ日比谷キム・ジソンチョ・ヒョンジョン監督作品『aespa: MY First page』を観ました。

2023年と2024年に東京ドーム2DAYS4公演を完売させたK-POP発のグローバルガールズグループ aespaの2020年10月のデビューから12ヶ国21都市31公演を回る初のワールドツアー aespa LIVE TOUR 2023 'SYNK:HYPER LINE' の初日2023年2月26日までを追ったドキュメンタリーフィルムです。

「レンズを割るぐらいの気持ちでがんばらないとインパクトは残せない」。コロナ禍でデビューし、無観客配信ライブしかできず本当にファンがいるんだろうかと不安を募らせる日々。初めての有観客公演は2022年6月、LAのYouTube Theaterのショーケースライブ「aespa Showcase SYNK in LA」。6,000人の大歓声を浴び感極まるメンバーたち。

「私たちの最大値はまだ見せられていない」。ワールドツアーのコンセプト会議に参加し、自ら設定したクオリティに向けて連日の超ストイックなリハーサルにもカメラが入る。今年4月に公開された『aespa: WORLD TOUR in cinemas』はライブ映像中心、本作はインタビューと舞台裏にウエイトを置き、4人のパーソナリティを掘り下げています。

韓国生まれの2センター、アバター以上にアバターと言われビジュアルの強いKARINAさんと歌唱とダンスのパフォーマンス面をリードするWINTERさんに注目が集まりがちですが、NYの国連本部における持続可能な開発目標に関するハイレベル政治フォーラムで流暢な英語でスピーチする日韓ハーフのGIZELLEさんの知性と自己肯定感が高くいつも強気な中国ハルビン出身のNINGNINGさんの存在感、4人の役割と補完し支え合うシスターフッドを映像を通して理解することができました。

ツアー初日のライブパートは初期楽曲中心です。aespaといえばVRなのですが、生身の人間の振り付けをアバターに寄せているようなところがありました。2023年5月リリースの "MY WORLD" 以降はよりナチュラルな新機軸を打ち出しており、その成果が "next PAGE" として届けられるのが楽しみです。

4人のソロコーナーはいずれも見ごたえ聴きごたえがありますが、あえてダンスを封印し一歩も動かずにスローバラードを歌い上げたWINTERさんの "LIPS" にぐっときました。

同じ事務所の先輩、東方神起少女時代SUPER JUNIORRED VELVETSHINeeのメンバーが初日の楽屋見舞いに訪れるシーンは心温まります。私服がみなさん地味めなのもリアルでよかったです。

 

2024年9月1日日曜日

CUICUIのDOKUDAN2

9月1日は防災の日。そしてキュイキュイの日。下北沢CLUB251で開催された『CUICUIのDOKUDAN2』に行きました。CUICUIの5年ぶり2度目のワンマンライブです。

会場BGMのNewJeansFrankie Goes To Hollywoodの "RELAX" に変わり客電が落ちるとメンバー4人が登場。

2017年リリースのデビューEPから「リツイートする機械」の思い切りテンポを落としたAYUMIBAMBIさんのディストーションベースのイントロ(King CrimsonをサンプリングしたKanye Westへのオマージュと推測)から瑞穂玲(ルィスィリュー)さんのキック&フロアタム2打で会場の熱が一気に上がる。

ERIE-GAGA様が書くCUICUIの歌詞は一貫してSNS時代のディスコミュニケーションを主題にしているように思えます。コミュニケーションを求めるからディスコミュニケーションが苦しい。それが脱コミュニケーションへ連なり、時には不条理を歌うのだが、適度な距離を置き、いつもユーモアを忘れず、ポップソングとして高次元で成立させる。センスとバランス感覚が抜群のソングライティング。

リーダーのマキ・エノシマさんは今日は3回お立ち台に立つと指定されていたそうで、2回はギターソロでしたが、3回目はアンコールの最終曲「彼はウィルコを聴いている」のなんてことないコードストロークで、そういうところも好き。

前回2019年4月29日の「CUICUIのDOKUDAN」はロッカジャポニカラストライブと重なって行けませんでした。初めて本気で推したアイドルの最期を見届けられて後悔はないのですが、僕にとっては今日が初めてのCUICUIのワンマンライブでした。演奏機会の少ない「ちりめんじゃこはあたりつき」「Nightcrusingggggg」「アップデートを忘れずに」などのメロウチューンが聴けてうれしかった。新曲2曲は切れ味最高、「ぼくたちのナツ」と「サマーガールニッポン」の新旧サマーアンセム(for陰キャ)ではシンガロングで会場が一体に。

本編最終曲「皆殺しの天使」はココ・シャネルを歌っていますが、今後のCUICUIのマニュフェストのように僕には聴こえました。「YouTubeのない時代」「パンはいつでもはだかんぼう」等、他にも聴きたい曲がたくさんある。次は5年後と言わずワンマンライブの開催をお願いします。