2024年9月6日金曜日

きみの色

真夏日。ユナイテッドシネマアーバンドックららぽーと豊洲山田尚子監督作品『きみの色』を観ました。

「変えることのできないものはそれを受け入れる心の平安をください」。校内礼拝堂のレッドカーペットにステンドグラスの影が差している。坂道の上にあるカトリック系女子校私立虹光高等学校の寄宿舎に暮らす主人公日暮トツ子(鈴川紗由)は、幼い頃から人を色彩として認識する感覚を持っており、同級生の聖歌隊リーダー作永きみ(高石あかり)に憧れている。

きみが体育の授業で投げたボールがきみに見とれていたトツ子の顔面に直撃し、トツ子は気を失う。きみは翌日から登校してこない。生徒たちの噂では、退学し商店街の書店で働いているという。トツ子は市内の書店をしらみつぶしに探すが見つからない。舗道で出会った猫に路地裏の古書店しろねこ堂へと導かれる。レジ奥でリッケンバッカー360を弾くきみと再会する。

古書店の常連客の高校3年生影平ルイ(木戸大聖)に「ふたりはバンドをやっているんですか?」と聞かれて「メンバー募集中です!」というトツ子の咄嗟のでまかせに「やりたい……」と、きみも同意する。

現代の長崎と五島を舞台に溌溂としていない側の高校生たちを描いています。『けいおん!』『聲の形』『平家物語』の山田尚子監督は京アニ出身。本作の制作会社サイエンスSARU湯浅政明監督が水の描写に定評があるのに対して山田監督は光の表現がこのうえなく美しい。陽光を反射して凪いだ内湾を渡る海鳥の描写にはため息が出ました。

主人公トツ子がぽっちゃりなのもいい。声優初挑戦の鈴川紗由さんのおっとりしたテンポが心地よい。「善きもの美しきもの真実なるものを歌えばそれは聖歌なのです」と説くシスター日吉子(新垣結衣)は在学中にロックバンド "GOD Almighty" を結成していた。この伏線回収は爽快。

TVアニメ『平家物語』は全人類にお勧めできる大傑作でした。簡素で迷いのない描線や特徴的なまつげはキャラクターデザイン高野文子氏の仕事だと思っていたのですが、本作でも踏襲されており、目のアップが多い。一方、人を色で認識するトツ子の特性はストーリー上あまり影響がないです。山田監督が光と色彩を描きたかったゆえでしょうか。

音楽は『平家物語』に続き牛尾憲輔。『サイダーのように言葉が湧き上がる』や『子供はわかってあげない』で聴かせたフォークトロニカ的アプローチに加え、木製の打鍵音を強調した生ピアノのアンティークな響きが効果的です。バンド形態は『けいおん!』から『ぼっち・ざ・ろっく』に至るアニメの定型であるボーカル、ギター、ベース、ドラムではなく、ギター&ボーカル、ツインキーボードで、曲調もThe xx的なダークでマットなもの。そして高校生の初ライブらしく適度に拙い(テルミンは上手)。

聖バレンタイン祭で演奏するオリジナル曲は3人のメンバーが1曲ずつ書いた設定だと思いますが、四七抜きで耳に残る「水金地火木土天アーメン」を書いたトツ子がソングライティングの才能があると思います(実際は3曲とも作詞:山田尚子、作曲:牛尾憲輔)。演奏開始後に遅れて最後列に入場したルイの母親が小幅に横スライドしてベターなポジションを見つけるやつ、僕もライブハウスでやっちゃうなあ、と思いました。

 

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