「魔法(よりもっと不確か)」「扉は開けたままで」「もう一度」という各々20代、30代、40代女性を主人公とした約40分のショートフィルム3篇からなります。
3つの物語のあいだにはストーリー的にも登場人物的にもつながりがなく独立しているのですが、偶然と想像というテーマでひとつの大きなバイブスを形成しているように感じました。
「怒っているとしたらこの運命にかな」「リズムがあるじゃない? 私たち、口喧嘩してても」(魔法(よりもっと不確か))、「言語化できない未決定な領域に踏み止まる才能です」(扉は開けたままで)、「一番大事なことのために戦わなかった後悔」(もう一度)。
隅々までよく練られた緊張感のある戯曲(とあえて呼びたい)を持つこの作品における濱口監督の演出は舞台演劇的。台詞の発声が明瞭で抑揚を強調せず、基本的にひとりの役者の声を相対するもうひとりの役者の声に重ねることがない。感情や身体性よりも言葉の意味をより強く打ち出してきます。
そのなかで異色を放つのが、映画冒頭のタクシー内における雑誌モデル芽衣子(古川琴音)とヘアメイクつぐみ(玄理)の親友同士の長尺の会話。つぐみの恋バナにつっこみを入れる芽衣子のタイム感が絶妙に心地良く、古川琴音さんの技術の高さ、センスの良さが光ります。恒松祐里さんと並んでこの世代では群を抜いているのではないでしょうか。
各篇の幕間とエンディングに流れるシューマンの『子供の情景』以外、生活音と俳優の声だけの音響です。淡々と進む展開だからこそ、インターネットの遮断された世界で最後に交わされる女性ふたりの抱擁が感動的です。
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