真夏日。夫の三回忌を終えた喪服の市野井雪(宮本信子)が陽炎の立つ横断歩道を渡ってくる。涼を求めて入った書店でBLコミック『君のことだけ見ていたい』を手に取る。レジを打つ高校生アルバイトの佐山うらら(芦田愛菜)は隠れ腐女子。祖母と孫ほど世代の異なるふたりの友情が始まる。
芦田愛菜さんのお芝居がすごい。スクールカーストの中の下あたりでぱっとしないうららに100%同化しており、芦田愛菜という本来は強い演技主体を微塵ものぞかせない。そのことで芦田愛菜ブランドを強固なものにしているという逆説。
雪の自宅の縁側でBLを語る生き生きとした瞳、怖じ気づいてコミティアの会場から帰り溢れる悔し涙、幼馴染みのイケメン河村紡(高橋恭平)に対する自身の気持ちを測りかね、その恋人でカースト最上位の橋本英莉(汐谷友希)に向ける完全に死んだ目は、CMやバラエティで見せる溌剌とした姿とは別人のもの。振れ幅の大きなそれらをひとつながりの人格として統合させ且つ作為をまったく感じさせない。
宮本信子、光石研、生田智子ら、熟練の名優たちの演技が作られたものに見えてしまう。しかも芦田さんは彼らの演技を潰しには行かず、常に融和の可能性を見いだそうとする。うららとは台詞のやりとりのないBL漫画家コメダ優役の古川琴音が光ってみえたのはそのせいか。
モノローグを廃した岡田惠和の脚本と芝居の力を信じた狩山俊輔監督に応えて、役者たちが表情、発声、身体性で登場人物の内面を真摯に表現した良作です。
ブルースデュオT字路sの劇伴もいい。エンドロールで流れる芦田愛菜と宮本信子のデュエットでカバーしたT字路sの「これさえあれば」の芦田さんの歌声が芝居と同じぐらい素晴らしい。将来の夢が叶って医師になっても、歌うことだけは止めないでもらえたらと思います。
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