2013年12月14日土曜日

船に乗れ!

この方とも長い付き合い、知り合ってから15年です。詩の教室を始めて13年半。ほぼ毎週のように顔を合わせますが、その間ふたりで食事したのは一度だけ(笑)。作家で書店フィクショネス店主、藤谷治氏の自伝的長編小説『船に乗れ!』がミュージカルになりました。

チェリストを目指す津島サトルは東京芸大付属高校の受験に失敗し、オルガン奏者である祖父(小野武彦)が理事長を務める三流私立音大付属高校に入学する。卒業までの3年間、青臭い自意識、芸術的挫折と苦過ぎる失恋を45歳になったサトル(福井晶一)が回想する。

バッハ、ベートーヴェン、モーツァルト、メンデルスゾーン。誰もが耳にしたことのあるクラシック音楽の名曲にメロディを乗せて登場人物たちが心情を歌います。主役サトル役の若きミュージカルスター山崎育三郎、ヒロイン南枝里子を演じた二十歳の小川真奈(左利き)。このふたりの歌唱力が光ります。

もともと器楽曲ですから人間の咽喉で歌いやすいようには書かれていませんが、それをきちんと歌いこなす技術は本物です。その点、ラフマニノフの「ヴォカリーズ」はやはり自然で、感情移入できました。

一番面白かった場面は1年生の夏合宿。はじめてオーケストラで合奏をすることになった生徒たちが全く演奏できずパニックになるところ。チャイコフスキーの「白鳥の湖」に乗せて、高校生役の10数名が喚き、歌詞は重なって聞き取れず、それがよけいに混沌を伝える。このシーンの増田有華(元AKB48)のコミカルな動きは笑えます。

この原作小説の最大の美点は、音楽を精神性や作家論で語らずに、あくまでもフィジカル/メカニカルに楽器演奏を捉えて文書表現しているところだと思うのですが、それが最も端的に現われているシーンではないでしょうか。

また、このお芝居の最大の特徴は40人編成のフルオーケストラが舞台上で生演奏をするところ。東邦音楽大学の学生オケが、舞台2日目にも関わらず安定した演奏を聴かせます。きっと夏休み返上で練習したんだろうなあ。舞台上の物語の夏合宿とシンクロして趣き深いです。

氏の初舞台化作品が、下北沢駅前劇場でもザ・スズナリでもなく、いきなりシアターオーブという超メジャー展開でビビりましたが、どっこいスケールの大きな意欲作になりました。いろんな意味で珍品?怪作?として後世に語り継がれていってほしいです。

 

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