2016年3月21日月曜日

BOOKWORM at Pompon Cakes

鎌倉の桜は三分咲き。観光客でごった返す駅前から長谷を抜けて、梶原口の閑静な住宅街にその店はあります。Pompon Cakes はオーガニックでジャンクなアメリカンスタイルのケーキ屋さん。あたたかな春先の祝日の午後にBOOKORMが開かれました。

詩のオープンマイクはたくさんありますが、大抵は読み手の気持ちが強くて、どちらかというと一方通行になりがち。BOOKWORMの良いところは「言葉をシェアする」というコンセプトを参加者全員で育てているところだと思います。

この日は19人がマイクに向かいました。印象に残ったのは、フアン・ラモン・ヒメネスウンベルト・サバの詩を朗読した土屋由美子さん、遠藤コージさんの尾道の話とボトルネックギター演奏、Jonathan Leask氏の日記体/オノマトペ詩作品の緻密に計算されたユーモア、山﨑円城さんのボブ・ディラン "All I Really Want To Do"、等々。

なかでもカズエさんが南米の盆踊りの新聞記事から引用し、現代日本の盆踊り事情に重ねた体験談は、BOOKWORMの理念でもある「人は自分の好きな物について語る時、 とても上手く語る事が出来る」というミヒャエル・エンデの言葉を体現していました。

そして最後にマイクを握った店主レオくん(画像)の挨拶が素晴らしかった。「ただ商品を提供するだけではなく、人々が集まり交差する場になりたい」。ネットで何でも手に入る時代のリアル店舗のあり方として、コミュニティに愛される場を目指す。イベントの最中も地元の顔馴染みが途切れずに訪れる様子に、その実現が伺われます。

僕は、カワグチタケシ(同姓同名の別人です)『女王陛下の補給線』(講談社KC)、カリル・フェレマプチェの女』(ハヤカワ・ミステリ文庫)、オリヴァー・サックス音楽嗜好症: 脳神経科医と音楽に憑かれた人々』(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)、3冊の本を紹介しました。


 

2016年3月20日日曜日

家族はつらいよ

春分の日は晴天。ユナイテッドシネマ豊洲で、山田洋次監督作品『家族はつらいよ』を鑑賞しました。

2013年の『東京家族』から、橋爪功吉行和子の老夫婦と三人の子どもたち、西村雅彦中島朋子妻夫木聡、その配偶者・恋人に夏川結衣林家こぶ平蒼井優、という基本的な家族構成はそのままに、しかし設定を大きく変えて。渥美清のようなアウトサイダーこそ登場しませんが、タイトルどおりの喜劇映画です。

スモーク』に対する『ブルー・イン・ザ・フェイス』みたいなもの、と言っても、ポール・オースターのファンにしか通じないか(笑)。

むしろそのウェルメイドな感触はウディ・アレン。ただし小洒落たところはありません。「お茶」と言えばお茶が出てくる、「タバコ」と言えばタバコが差し出される。既にノスタルジーの中にしか存在しない古き良き頑固おやじ像。この映画がヒットしているのは、中心的な観客層である60~70代がそのような保守的な家族観に対する憧れをどこかで捨てきれないからなのだと思います。

夫婦は常に対立し、感情がすれ違い、時にいさかいが生まれる。それが笑いを生むのですが、一方でその連鎖に疲れたところに、妻夫木聡と蒼井優がフレッシュな空気を吹き込む。このへんのバランス感覚も実に計算されています。

市民会館の警備員役の笹野高史が僕的にはベストアクト。出演時間は短いですが、フィジカル面においてもスラップスティックを見事に演じており、コメディセンスとは真に選ばれし者のみに与えられる恩寵なのだなあ、と思いました。

 

2016年3月6日日曜日

Poemusica Vol.47

3月初旬としてはあたたかい曇り空。下北沢Workshop Lounge SEED SHIPでPoemusica Vol.47 が開催されました。

桂有紀乃さん。Poemusicaにご出演いただくのはVol.2643に続いて3回目です。彼女の歌を聴いて感じるひりひりしたものと大きな愛情。有紀乃さんを衝き動かしているもの。あえてクリシェ(常套句)を積極的に用い、そこに真実の響きを与える歌声の切実さがあります。いつもお菓子を手作りしてきてくださいますが、この日はシナモンの効いた金柑のタルト。みんなで美味しくいただきました。

高校の卒業式を2日後に控えた梨帆さん。対照的にクリシェを意識して回避するタイプのソングライターです。初期RADIOHEADを想わせるスケール感のある楽曲に乗せる歌詞は10代のリアルな感情。身の回り数メートルから発して、広く普遍化させる声の力がある。特に高音の瞬発力は抜群。今は若さの勢いに任せたようなところがありますが、それでいいのだと思います。

新大阪からこだまに乗っていおかゆうみさん(画像)が唄いにきてくれました。彼女も3度目(Vol.2931)、2年ぶりのPoemusicaです。その間、別の会場で(時にはホーム大阪で)何度かライブを観ていますが、毎度成長に驚かされます。今回はスローで静謐な曲を中心にしたセットリストでした。一音一音がとても丁寧な演奏で、しかもフレッシュさ、危うさを保っているのが素晴らしいです。

おつかれーずさんはVo&Gt杉本拓朗さんのソロユニット。歯切れの良いロックンロールと抒情的なミドルテンポナンバーを抜群の声量とテンションで唄い上げます。18歳の梨帆さんに触発されたのか、MCは杉本さんの10代の頃の修羅場恋バナに(笑)。サポートで入った鎌田瑞輝さんのピアノがリリカルで美しかった。

この日はSEED SHIPがオープンしてちょうど5年。2011年3月6日、東日本大震災の5日前のことです。その頃のことを思い出しながら「Doors close soon after the melody ends」「ANGELIC CONVERSATIONS」「コインランドリー」「We Could Send Letters」の4篇を朗読しました。「We Could Send Letters」は、2011年3月20日、はじめてSEED SHIPに出演した際に朗読した訳詞です。

SEED SHIP5周年おめでとうございます。開店した2011年の12月から始まったPoemusicaもお店と共に歩んできました。店主土屋さん、スタッフわかちゃん、お客様と共演者の皆様、いつもありがとうございます。これからもよろしくお願いします。


2016年3月5日土曜日

春待ち遠しい音楽会+お食事会

JR中央線西荻窪駅北口を出て女子大通りを西へ。ちょっと不安になるぐらい歩くとそのお店があります。ブラジル料理の名店カフェcopo do diaさんで、まえかわとも子さん(左利き)、RINDA☆さん尾花毅さんご出演のライブ『春待ち遠しい音楽会+お食事会』に参加しました。

まえかわさんアカペラの新曲『田植えうた』で始まったこのライブ。一昨年、西伊豆松崎町に転居し、農業を始めたまえかわさんが自分で収穫したお米を握ったおむすびが付いています。お米だけではなく、お野菜も松崎町のご近所さんから分けてもらったもの。それら土地の恵みをcopo do diaの伊藤シェフが素材を活かして手際よく調理し、音楽と共に味わうという好企画。

まえかわさんの歌声の素晴らしさは繰り返し書いていますが、ギターの腕も上げたなあ、と思いました。従来のアルペジオ主体のアンビエントなスタイルに加え、しっかりとしたストロークでリズムを組み立てられるようにもなっていました。尾花さんとのギター2本の絡みも美しかった。

パンデイロとピアニカのRINDA☆さんは終始笑顔で正確無比なグルーヴを叩き出し、尾花さんのパッショネイトな7弦ギターが会場の温度を上げる。終盤には、まえかわさんとRINDA☆さんも参加しているBanda Choro Eletricoのスルド奏者ちっちさんが客席から加わり、大きな掌でゆったりたっぷり会場を揺らす。

まえかわさんとRINDA☆さんのオリジナル曲に定番のMPBカバー、加えて僕の訳詞集からFairground Attraction "Allelujah" を歌ってくれたのもうれしかったです。

良い音楽と美味しいお料理があれば、お酒も会話も弾みます。タイトル通り、春の訪れを告げるような素敵な夜になりました。


2016年2月21日日曜日

都電ライブ〜黄色い電車にゆられて〜

春の嵐が通り過ぎて日曜日の朝にはすっかり良い天気。最近ライブハウスでよくご一緒するまりさんの企画 『都電ライブ〜黄色い電車にゆられて〜』へ。

都電荒川線は東京に唯一残っている路面電車です。僕が子供の頃にはまだ複数の路線が走っていて、亀戸のいとこの家に行くときなどによく乗りましたが、いまでは地下鉄や都バスに変わってしまいました。

早稲田で14時に乗車して終点の三ノ輪橋まで。約1時間の道中、窓から入る日差しで背中がぽかぽか温かい。明るい午後の街をがたごと走る可愛らしい車両で、mueさんあべたかしGOLD&キラキラみさこさん、2組の歌と演奏を楽しむ小さな旅。

音響機材の整ったホールやライブハウス、一箇所に留まって演奏するストリートライブとは違う。モーターやブレーキ音、線路の響きで車内は賑やか。生音で奏でられる演奏も歌詞も、座席や演奏場所によっては、聞こえかたもところどころ途切れがちですが、そこはみんなで協力して、集合的無意識を結集して補い合って。この楽しさは、ミュージシャンも観客も同じ揺れ、同じ慣性の法則に従って移動しているという運命共同体的な一体感から来るものでしょう。

レトロな復刻塗装が施された7022号車の写真を撮る人もたくさん。停留所で都電を待つ人や信号待ちの歩行者たち、反対方向にすれ違う都電の乗客や併走する乗用車の運転手。不思議そうな表情や笑顔で人々が覗き込む数秒から数十秒の時間。「こんな電車が走ってたよ!」と、うちに帰って話すのかな。

駄菓子や入浴剤などお土産どっさり、あべたかしGOLDさんが表紙を描いたパンフレットにまりさんが書いた出演者の紹介文も素敵でした。

 

2016年2月11日木曜日

となりの駅の猫のこと

建国記念の休日。5年連続で同じ作家の個展にお邪魔しています。狙ったわけではないのですが、たまたまその同じ日に。

イラストレーターであり、ミステリーを中心とした多くの書籍の装幀も手がける佐久間真人さんの個展『となりの駅の猫のこと』。昨年までは銀座7丁目のシャトン・ド・ミューで開催されていましたが、オーナーの引退に伴う閉廊により、2丁目のギャラリー銀座へ。

裏通りのビルの4階から、マロニエ通りに面した1階に移り、よく晴れた祝日の午後、通りすがりにちょっと覗いていこうかな、というお買いもの帰りとおぼしき方も。

佐久間さんご本人も在廊で、ひっきりなしに訪れるお客様にひとりひとり丁寧に対応されていました。

目に慣れた独特のすんだ色調の作品群のなかで、ひときわ目を引いたのが「コマドリ」と題された絵。ハリントン・へクストの『誰がダイアナ殺したの?』の新訳(論創海外ミステリ)の表紙画です。コマドリが流した血の色の赤が目に焼きつきました。

「マザーグースですか?」と尋ねると「そうなんですけど、この小説が『パタリロ!』クックロビン音頭の元ネタなんですよ」と教えてくださいました。

今週末2月14日までの展示です。銀座のデパ地下でチョコレートをお求めの皆様、昭和通りを渡っていらしてみてはいかがでしょうか。

2016年2月7日日曜日

バイリンガル詩集TOY BOX完成記念朗読会

古民家というより商家もしくは町工場。神田川を渡る石切橋に程近い、広い三和土のある木造家屋をリノベーションしたsuido cafeで、芦田みのりさんが主催し、僕も2010年から参加しているバイリンガル詩集の5年ぶりの第2集『TOY BOX 2015』の完成を記念して、小さな朗読会が開催されました。

日本語の詩を英語に、英語圏の同時代の詩人の作品を日本語に翻訳し、作者と訳者が朗読する。かとうゆかさん(日本語)とマエキクリコさん(英語)が2ヶ国語でMCします。

ひとつの作品を複数言語、複数の声によって表現することで、別の響きと景色が与えられます。作品数を詰め込まずゆったりとした進行ながら、刺激のある時間を過ごしました。

自作の「すべて」は、僕の日本語と訳者マシュー・ホロメキー氏(カナダ人)の英語で、アメリカの詩人Jan Lewisさんの"From the Republic of Words"(邦訳:言葉の共和国より)とアイルランドの詩人Nora McGuillenさんの"Knife Sharpener"(邦題:ナイフ砥ぎ機)の日本語訳を朗読しました。小さい声でゆっくり読んで声にどれだけ質量を乗せられるか、というのを最近は追求しているのですが、生声でもようやく成果が出せるようになってきたように思います。

江戸川橋は20代中盤を過ごした懐かしい土地。終演後、次のお座敷まですこし時間があったので、当時暮らしていたアパートに寄ってみました。「コインランドリー」を書いた屋上の洗濯場はなくなっていましたが、築30年以上のいまもきれいに使われているようでした。