主人公大槻美雪(池田エライザ)は県立塩戸田高校の3年生。一学期後半に転校してきた園田保彦(阿達慶)と付き合い始めるが、未来に帰ると保彦に言われ20日後に別れる。保彦は美雪が書いた小説を読んで300年後の未来から来たと言う。美雪はその小説を書くことを約束し、保彦から受け取った錠剤を飲んで10年後の自分に会いに行き、小説を書くように説得する。
10年後、小説家になり結婚した美雪がやっと書き上げた『少女は時を駆ける』の出版は難航している。実家に帰り、10年前の自分が訪ねてくるのを待つが現れない。小さな街なので美雪の帰省の噂はすぐに広まり、同級生たちが連絡してくる。クラスの世話焼き役だった茂(倉悠貴)は同窓会を企画し、事故死したムードメーカー室井(前田旺志郎)以外の33名全員を集めようと奔走していた。
タイプリープものといえばのヨーロッパ企画の上田誠が脚本を書き、監督は『ちょっと思い出しただけ』の松居大悟。原作の舞台は静岡ですが、映画は尾道。主人公の母親役に『ふたり』の石田ひかり、高校の担任教師に尾美としのり。天寧寺、御袖天満宮の石段、ラベンダーの香り、故大林宜彦監督の尾道三部作へのオマージュ作品となっています。
機能不全家族で育ったコミュ障の文学少女友恵を演じる橋本愛は別格の存在感だが、久保田紗友、山谷花純、大関れいか、森田想、前田旺志郎ら若手巧者のなかで映画初出演の阿達慶(ジュニア)の棒芝居が逆に未来人らしくて絶妙。男子生徒役では倉悠貴の可愛さが際立っています。
池田エライザはお人形のような愛くるしい顔立ちで軽めの作品に起用されることが多い印象でしたが、『古見さんは、コミュ症です。』『海に眠るダイヤモンド』『舟を編む』など、近年は役の幅を広げており、NHKの歌番組で見せた松田聖子の「Sweet Memories」のフライングVの弾き語りも様になっていました。深夜の尾道のアーケード街を大人になった同級生たちと歩く姿は美雪の鬱屈を自然に表現していて格好良いです。