2023年11月23日木曜日

シンデレラガール

勤労感謝の日。新宿K's Cinema緒方貴臣監督作品『シンデレラガール』を観ました。

「私ははじめて見る自分の足の骨を美しいと思った」。高校生の佐々木音羽(伊礼姫奈)は、小学6年生で骨肉腫により右膝下を切除し、その後中学校に入学したが入退院を繰り返し、入院中の卒業式の当日級友たちと担任が病院の屋上でサプライズの卒業証書授与式をした動画がSNSで拡散され話題になったことでティーン誌のモデルになる、という自身の半生を描いた再現VTRを観て覚えた違和感を母親に共有する。翌日の教室で親友の朱里(佐月絵美)は「あれ音羽じゃなくね?」と笑ったが、他のクラスメートたちは感動を伝えてくる。

健常者の俳優が障がい者を演じるTVドラマを健常者の俳優が演じる障がい者が批判的に評するという二重の入れ子構造から映画が始まり、61分という短い上映時間に重層的な問題提起がある。退院後に病院で開かれたハロウィンパーティの帰りに交通事故に遭い左足も失った音羽の今後について、モデル事務所のマネージャー(辻千恵)、看護師(泉マリン)、母親(輝有子)の3人が当人不在の病室で話し合うシーンの緊迫感を、二本の松葉杖と一本の義足で廊下の端から端まで何度も往復する音羽の足音が更に増幅し、3人の女性の立場の狭間で我々観客の感情が激しく揺れます。

長い暗転が多用され、その沈黙は我々に問いかけ、思考を促しているように感じました。そしてなによりラストカットのランウェイで赤いドレスを纏う音羽の透徹した眼差し。重なる不運に対して感情的にならない主人公の強さがその眼に宿っています。緒方監督はこの表情を撮りたくてこの映画を作ったんだろうな、と思いました。主演した17歳の伊礼姫奈さんは『推しが武道館いってくれたら死ぬ』ではコミュ障のアイドル役を好演していましたが、本作で役者としてひとつステージが上がったのではないでしょうか。

 

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