2024年8月12日月曜日

ボレロ 永遠の旋律

真夏日。TOHOシネマズ シャンテにてアンヌ・フォンテーヌ監督作品『ボレロ 永遠の旋律』を鑑賞しました。

泥濘を踏むハイヒールのブーツの足元のクローズアップ。ロシア出身のバレエダンサーのイダ・ルビンシュタインジャンヌ・バリバール)は作曲家モーリス・ラヴェルラファエル・ペルソナ)から郊外の工場に招かれる。バレエ音楽を依頼したものの未だ納品されなず不機嫌なイダに対してラヴェルは機械音こそが音楽だと熱弁する。

「物語なんてどうでもいい。私が欲しいのは官能よ」と舞踏会でイダはラヴェルに言う。豪奢なドレスの衣擦れやダンスの足音がフェードアウトしてピアノだけになり、静寂をより際立たせる。ガブリエル・フォーレクロード・ドビュッシーと並びフランス印象派を代表する作曲家ラヴェル(1875-1937)が代表曲とも言える「ボレロ」を書いた1928年を軸に、学生時代の挫折、第一次世界大戦に従軍し負ったトラウマ、親友シパ(ヴァンサン・ペレーズ)の姉で資産家の妻ミシア(ドリア・ティリエ)への恋慕、晩年の闘病などを描いています。

時空を自在に前後させていますが、周囲の登場人物や舞台となるパリの街が変わらないのでわかりづらいといえばわかりづらい。良く言えば観客の読解力を下に見ない、悪く言えば分かる奴だけ分かればいい、その点においては、実にフランス映画らしい作品だと思います。

「僕の頭の中で鳴っている音楽を僕は書くことができない」。ラヴェルの創作意欲は1920年の「ラ・ヴァルス」でほぼ尽きており、その後1937年に62歳で没するまでの17年間で4曲しか発表していませんが、その内「ボレロ」は最も愛された曲であり「左手のためのピアノ協奏曲」(1930)「ピアノ協奏曲 ト長調」(1931年)の2曲も今日においても演奏機会の多い名曲です。1927年以降は失語症に悩み、最晩年は文字も書けなくなっていました。本作にもその描写があります。

生涯独身を貫いたため、同性愛者説もありますが、人妻ミシアへの強過ぎる思いがそうさせたというのがフォンテーヌ監督のスタンスです。

エンドロールに「世界中で15分に一回、誰かがボレロを演奏している」と字幕が出ます。実際にタイトルバックで次々にカットアップされる世界中の音楽家、オペラや合唱やジャズやロックやレゲエや民族音楽、HIPHOPなどあらゆる様式にアレンジされたボレロの演奏には心躍るわくわく感がありました。フランク・ザッパ&マザーズ・オブ・インヴェンションも一瞬映ります。

 

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