2023年10月7日土曜日

アジア オーケストラ ウィーク 2023

秋晴れ。東京オペラシティで開催された令和5年度(第78回)文化庁芸術祭主催公演『アジア オーケストラ ウィーク 2023』最終日を聴きに行きました。

2002年に始まり、毎年秋にアジア各国のオーケストラを招くこのイベント。2014年にヴェトナム、2018年にフィリピン、2019年に香港の管弦楽団を聴き、どれも印象に残る演奏でした。今年はトルコと韓国のオケが来日して、僕は4年ぶりの参加です。

ヴァイオリン:ユン・ソヨン

シューベルトの一音めから重厚な響きと音圧に圧倒されました。管楽器や打楽器の入らない約30名の弦楽アンサンブルは指揮者を立てず、音楽監督兼コンサートマスターのキム・ミン(Vn)が時折きっかけを示しますが、基本的には楽団員同士の呼吸とアイコンタクトで進んでいく。Yellow People による White Music。

アルゼンチンのアストル・ピアソラのタンゴ曲をロシアのヴァイオリニストのギドン・クレーメルがウクライナの作曲家デシャトニコフに依頼して弦楽アンサンブルに編曲した「ブエノスアイレスの四季」が今日の演目の白眉でした。ソリストのユン・ソヨン(Vn)は安定感と華やかさを持ち合わせた音とアクションでアンサンブルをまとめあげる。ピアソラの四季はエモーショナル。夏から始まり春で終わるのですが、真夏の輝きよりも晩夏の切なさ、真冬よりも雪解け水が流れる冬の終わりの光の乱反射を描写しているように感じられました。秋と冬では主席チェロ奏者パク・ノウルがソロを演奏し、ユン・ソヨンのヴァイオリンとの掛け合いで大活躍。鳴りやまない拍手の中、ソリスト・アンコールで演奏したIgudesman作曲の無伴奏ヴァイオリン曲 "Funk the Strings" のグルーヴも強烈でした。

ユン・イサン(1917~1995)は日本統治下の朝鮮出身の現代音楽家。武満徹よりひと回り上の世代です。東ベルリン滞在中の1967年に北朝鮮スパイの疑惑がかかって韓国軍事政権に強制送還され、裁判で死刑判決を受けるが、ストラヴィンスキーカラヤンが中心となった請願により釈放されドイツに亡命という波乱の人生を送った。演奏された「タピ」はタペストリーの意。1987年の作品でアジアンテイストは薄く、シェーンベルクの12音階の進化形といってもよいと思います。この曲だけキム・ミンがタクトを振ります。

ドヴォルザークはひたすら流麗典雅。Georg Malmsten "EROKIRJE HEILILLE" と Hee Jo Kim "Gyeongbokgung Taryeong" のダブルアンコールはサービス精神満載です。演奏後に舞台上でハイタッチや握手やハグでお互いを讃え合う楽団員たち。クラシックのコンサートでは稀な光景ですが、大変幸せな気持ちになる良い演奏会でした。


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