2023年7月27日木曜日

世界のはしっこ、ちいさな教室

猛暑日。ヒューマントラストシネマ有楽町エミリー・テロン監督作品『世界のはしっこ、ちいさな教室』を観ました。

ブルキナファソの首都ワガドゥグに幼い子どもたちを残し、600km離れたティオガガラ村へ未舗装の道路をバスとリアカーに揺られて到着した新任教師のサンドリーヌ

ロシア連邦シベリアの遊牧民エヴァンキ族。トナカイとともに大雪原を移動して生きる彼らキャンプ地にテントが張られ、エヴァンキ族出身のベテラン教師スヴェトラーナがトナカイの引く橇に乗って来る。10日間の移動小学校が始まる。

バングラデシュのスナムガンジ地域は、一年の半分は水没している。孤立した村の子どもたちは通学できない。ブリキの船を学校に改装し、生徒たちを迎えに家々を巡る。教えるのは22歳のタスリマ

けっして豊かとはいえない、教育の行き届かない地域の小学校で奮闘する3人の女性教師のドキュメンタリー映画です。フルキナファソは約1年、シベリアは10日前後、バングラデシュは半年程度と異なる撮影期間の3箇所を、82分の上映時間に行き来する、リズミカルで歯切れ良く無駄のない編集が冴える。この夏観るべき趙良作と言っていいと思います。

電気も水道も通っていないティオガガラ村でサンドリーヌが担任した50人のうち、公用語のフランス語を話せる児童は一人だけ。村では5つの異なる言語が使われている。エヴァンキ族の伝統的な詩は退屈だと子供たちは興味を示さない。鮮やかな民族衣装のタスリマは、児童婚で教育機会を奪われそうな5年生のヤスミンの母親を説得する。

貧困や格差を乗り越えるためには教育が重要だということを我々は知識として持っていますが、現実を目の当たりにすると一筋縄では行かないことがよくわかります。イスラムの教義を否定するつもりはありませんが、カメラの前で悪びれることなく行われる児童婚の交渉現場は、西側の目で見れば人身売買そのもの。貧しさに理解を示しながら冷静に正義を伝え、性差別と対峙するタスリマの毅然とした姿。3人の信念と根気と忍耐強さに感銘を受けました。

タイトルは「世界のはしっこ」ですが、世界が球体である以上「はしっこ」は生じ得ない。日本の過疎地とは違い、本作の舞台になった3地域には子どもたちがたくさんいて、未来がある。複数存在する世界の中心のひとつ(三つ)ではないかと僕には思えました。

 

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