寒さがすこしだけやわらぎました。薄曇りの土曜日。ユナイテッドシネマ豊洲にて山田洋次監督映画『小さいおうち』を鑑賞しました。
山形の寒村から東京に出て女中になったタキ(黒木華)。二軒目の奉公先は玩具会社常務平井(片岡幸太郎)と専業主婦時子(松たか子)、ひとりっ子恭一(秋山聡)の三人家族。大田区(当時大森区)の高台に赤いとんがり屋根の一軒家をローンで建てたばかりです。
ときは日華事変。正月の挨拶に訪れた夫の部下板倉(吉岡秀隆)のアーティスティックな一面に惹かれた時子はやがて板倉と不実の仲になってしまう。そして板倉に召集令状が届く。
老人になったタキ(倍賞千恵子)は1935年から1945年の10年間をノートに綴り、大学生の健史(妻夫木聡)に読ませる。という構成。
山田監督の作品としては、クリアで明るい色調が特徴的です。昭和の場面は柔らかなセピア調の安定したフレームワークですが、一箇所、明日出征する板倉に時子が逢いに行こうとするのをタキが止めるシーンだけ手持ちカメラで、ふたりの複雑に揺れる心情を象徴しているようでした。
戦争が始まっても郊外の小さな暮らしは続いている、という昭和のシーンに比べて、現代のパートが特に反戦のトーンが強く、山田監督のメッセージをより明確に伝えるために映画版に書き加えられたのかな、と思いましたが、調べてみたら中島京子の直木賞受賞小説の設定のままなんですね。
健史は喪服にコンバースを履てしまうような感じの男子。それなりにモテます。ひとりぐらしの大叔母の家に入り浸り、家電やガス器具の修理を手伝うかわりに揚げたてのトンカツをご馳走になる。タキもそれを見越して食材を多めに買っているんだろうなあ。
僕は大変なおばあちゃん子だったので、彼の気持ちはすごくよくわかります。自室より居間よりも祖母の暮らす離家の居心地が良くて、大人になってもしばらくは、自宅いる時間の大半を祖母の部屋で過ごしていました。
山田組の音楽は冨田勲の印象が強いのですが、前作『東京家族』に続いて久石譲が担当。控えめでリリカルでノスタルジックな雰囲気の画面にとてもよく合っています。科白回しや独特の間が小津映画のようで、松竹の伝統はこうして継承されていくのだなあ、と思いました。
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