「飛行機は美しい夢だ。戦争の道具でも、商売の道具でもない」。第二次世界大戦中、零式艦上戦闘機(ゼロ戦)を設計した堀越二郎(声:庵野秀明)を主人公にしたこの映画は、公開直後から賛否両論を呼んでいます。
ジブリ映画の新作ですから注目を集めるのは当然ですが、否定的な意見は主にイデオロギー面から。主人公が軍需産業に従事する過程に葛藤が無い。宮崎駿ともあろう者が戦争賛美に転じたか、というもの。それか、庵野監督の台詞が棒読み過ぎる(笑)。
「国を滅ぼしてしまった」「一機も帰ってこなかった」という控えめな台詞では反戦のメッセージが伝わらない。確かにそうかもしれません。兵器を作る暇があったら、病気の新妻をもっと献身的に看病しろ、と。
ナウシカや『もののけ姫』のサンのように失われつつある自然を取り戻すために闘うヒロインはこの映画には登場しません。実在の人物を描いているのに、夢で始まり、夢で終わる。
それでも、この映画で最も心を動かされたのは、菜穂子(声:滝本美織)がサナトリウムに帰ったことを知ったときに、二郎の妹加代(声:志田未来)が路上で号泣するシーンです。それはきっと死を美化しない人間のあがきがきちんと描写されているからでしょう。
ちなみに、堀辰雄の『風立ちぬ』のヒロインの名前は節子。菜穂子は別の小説『菜穂子』からとっているのだと思います。
加えて、今秋公開の高畑勲監督作品『かぐや姫の物語』の予告編の太い色鉛筆だけで描かれた疾走感溢れる画面表現が素晴らしかった。期待大!
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