2012年1月29日日曜日

ヒミズ

園子温といえば詩集『東京ガガガ』の印象が強く、僕のなかでは自分が詩を書き始めた頃に現代詩手帖ユリイカに載っていた現代詩人という位置づけなのですが、今ではすっかり巨匠映画監督。遅ればせながらその作品を初めて観ました。

タイトルの『ヒミズ』とはモグラの一種。太陽を見ずに生涯を過ごすから「日見ず」。イントネーションは「ヒミツ」と同じみたいです。

古谷実の同名漫画を原作とした映画は、2011年の東日本大震災で瓦礫となった石巻の風景から始まります。そして、少年と少女の救いのない日々が怒号と暴力のなかでダイナミックに描かれます。

冒頭のシーン。二階堂ふみが制服のスカートの下からパンツを覗かせながら、ずぶ濡れになって川土手を転げ落ちる。画面には入らない放水車からの雨は土砂降りだが、空は青く晴れ渡って、登場人物たちの影が地面にくっきり映っている。

その光の対比がこの映画の枠組みを「虚構ですよ!」「ファンタジーですから!」と宣言している。この入口さえ見つけることができればあとは簡単。洗濯槽に隠された拳銃も、小ぎれい過ぎるホームレスも、寝床の周囲に置かれたたくさんのキャンドルも、すべて虚構、ファンタジー。観客はフィクションの渦中に身を置いて、役者たちの演じる喜怒哀楽に共感したり反発を覚えたりするだけでいい。

主演の若いふたり、染谷将太二階堂ふみは、ヴェネツィア映画祭でのダブル受賞も納得の熱演です。特に茶沢さん役の二階堂ふみは『ガマの油』や『熱海の捜査官』で見せた芯の強さと天真爛漫な自己中キャラが増幅されて炸裂。彼女がスクリーンに登場するだけで、この救いのない話に光が差す。女優が一番輝いている瞬間に映画館の暗闇で立ち会えるのは幸せなことです。

脇役では、ひさしぶりに動いているところを見た窪塚洋介が相変わらずの格好良さ。その恋人役の吉高由里子も数十秒だけの登場ながら存在感を見せています。

 

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