2020年12月、小河恵子(岸井ゆきの)は荒川区出身のプロボクサー。2019年のデビュー戦を1R1分52秒でKO勝ちしている。感音性難聴で生まれつき耳が聞こえない。
現存する東京最古ボクシングジムでトレーニングをしているが、会長(三浦友和)が高齢となり施設も老朽化しており、廃業が決まった。
聴覚障害者が主人公ということですが、オープニングからエンドロールまで劇伴も主題歌もなく、同居している弟(佐藤緋美)が部屋でつま弾くアコースティックギター(と小音量だが商店街やホテルのBGM)以外に音楽がありません。そのかわりに、便箋に手紙を書くペン先の音、氷を嚙み砕く音、遠い救急車のサイレン、鉄橋を電車が渡る音など、微細な生活音が画面から聴こえてきて、それで逆に聴覚が鋭敏に研ぎ澄まされるような感覚になりました。
16mmフィルムで撮影された本作は、99分というコンパクトな尺にもかかわらず、過不足ない演出と役者陣の気迫で充実して感じられる。逆説的に商業映画一般においては観客の情緒を刺激するための音楽に要する時間が長いのだと気づかされます。
「話したってひとりじゃん」。岸井ゆきのがTVドラマやバラエティ番組で見せる子犬のような愛嬌を封印し、ストイックで感情表現の不器用な主人公を見事に演じ切っている。元体操選手だけあって身体能力が高く、冒頭と終盤のコンビネーション・ミットのシーンのリズム感の良さ、パンチの歯切れ良さは特筆すべきかと思います。
0 件のコメント:
コメントを投稿