2023年6月10日土曜日

水は海に向かって流れる

曇天。TOHOシネマズ日本橋にて前田哲監督作品『水は海に向かって流れる』を鑑賞しました。

雨の夜、部妻川駅(ロケ地は小湊鐡道の上総牛久駅)。駅舎を出る色とりどりの雨傘の俯瞰ショットから映画は始まる。

高校入学を期に叔父(高良健吾)の家に居候することになった直達(大西利空)。タータンチェックの傘を持って駅に迎えに来た26歳の会社員榊さん(広瀬すず)に連れていかれた先は、いつのまにか漫画家になった叔父、女装の占い師泉谷(戸塚純貴)、文化人類学教授成瀬(生瀬勝久)と榊さんが暮らす古民家シェアハウスだった。

翌朝、通学中に直達は河原に捨てられた子猫を見つけ、クラスのアイドルで陸上部員の楓(當間あみ)と帰り道に連れて帰る約束をする。いつも不機嫌で不愛想な榊さんも子猫には優しく話しかける。

子供はわかってあげない』の田島列島の漫画が原作、親の事情でわだかまりを持つふたりが次第に理解し合う物語です。「泣いてないし、怒ってないし、恥ずかしくなっただけ」と言い感情を抑え込む榊さんがまっすぐな直達に結果的にかき乱され「怒ったってしょうがないことばかりだけど 怒らなければ許してるのと同じよ」と変化する。感情を殺して生きることを決めた人は、仏頂面になるか、薄笑いになるか。広瀬すずの榊さんは前者です。

食事のシーンが多い。すき焼き肉を切らずに玉ねぎとめんつゆで煮ただけのポトラッチ丼、BBQのかたまり肉、カレーに生卵、大量のゆで卵など榊さんの雑な料理。トップバリュの500mlの牛乳パックにストローを刺して教室で飲む直達。

原作漫画の最終話のひとつ手前で映画は終わります。それがとても映画的。というのも、最後の数分で共感から恋愛感情に移行する過程が省略されるのがいささか性急なのを、広瀬すずの魅力で捻じ伏せて、スピッツが追い討ちをかける、主演女優ありきの演出に振り切った前田監督の勇気を讃えたいと思います。

 

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