2001年12月生まれ、現在19歳の世界的ポップアイコンが、13歳のときにダンス講師に転送する目的でサウンドクラウドにアップロードした自作曲Ocean Eyes(作編曲は兄フィニアス)で注目を浴びてから、2020年1月に18歳でグラミー賞6部門のトロフィーを手にするまでの約4年間に密着したApple TV+オリジナルコンテンツの劇場公開です。
ロサンゼルス郊外の雑草だらけの平屋に両親と兄と老犬と暮らすビリー・アイリッシュ。作曲もレコーディングも兄フィニアスのベッドルームで。その制作スタイルはセレブとなった現在も同じで、変わったのは手持ちのダイナミックマイクがポップガード付きのコンデンサーマイクになったことぐらい。
たとえ鼻歌でもスクリーンの中で彼女が歌いはじめれば劇場の空気がビリー・アイリッシュ色に染まるのが、当たり前なのに鳥肌が立つ。共同制作者の兄との関係性は歳の近い十代の兄弟らしく、幸福な内輪ネタの笑いとじゃれあいで満ちている。ビリーにピアノとウクレレを教えたのは母親。進歩的で優しく、コマーシャリズムにも配慮しつつ、基本的には兄妹がやりたくないことからは守る、距離感が絶妙。そして役者の父親は娘を穏やかに見守る。ビリー・アイリッシュを通して、アメリカのリベラルな家族の肖像が描かれています。
過度なストレスにより発作が出るトゥレット症候群(チック)、捻挫癖のついた右足首、リストカット、恋人Qとのすれ違い、ライブ後のミート&グリートに対する苦痛。マネジメントサイドがよく許可したなと思うぐらい赤裸々ですが、ぶっちゃけが持ち味な彼女だから、それも魅力的に映りました。
なぜ多くの人たちがこんな自分を好きになってくれるのかわからなかったが、自分が彼らと同じ問題を抱えているからだと気づいた、と言う。飛び降り自殺を暗示させる歌詞の必然性を母親に問われて、歌うことで実際にしなくて済む、と答える。
ライブの観客は同世代の女子がほとんど。歌詞、サウンド、絶妙にダサいファッションとヘアメイク、思春期ならではのぽっちゃり体型。クラスの勝ち組でない層には自分事として刺さるのでしょう。
コーチュラフェスティバルで15万人の聴衆の前で堂々とパフォーマンスし周囲は絶賛するも新曲の歌詞をトバしたことを悔やむが、直後に会場で憧れのジャスティン・ビーバーにハグされ、激励のDMを音読してうれし涙を流す。このシークエンスがハイライトと感じました。
ショーは好きだが作曲は嫌い、ということですが、僕が一番テンションが上がったのは自宅での制作シーンです。兄妹がベッドに腰掛けて、生ギターと2声で旋律と和声を組み上げる繊細な作業が、エレクロトニックな重低音を暴力的に増幅した最終形態においても存在感を失わない。それこそが彼女の音楽の最大の魅力ではないかと思います。
Apple TV+の配信でも視聴可能ですが、大音量で聴いてこその彼女の音楽ですので、映画館で鑑賞してよかったです。
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