2020年3月20日金曜日

あなたの好きな花の名前

春分の日。Pricilla Label presents 石渡紀美 新詩集『「ママは、ばらの花が好きだな」と彼女は言った。』出版記念ライブ “あなたの好きな花の名前” が幡ヶ谷jiccaさんにて開催されました。

路地に面した大きな窓から差し込む午後3時の明るい陽光のなか、まるで縁側にいるように椅子に腰掛けて、新詩集に収録されている全20作品を頁順に、各篇の創作の動機や書いているときの身の回りのできごとなどを交えて約70分間。落ち着く声でゆったりと語りかけました。

前作『十三か月』は東日本大震災後を描いていましたが、今作のモチーフになっているのは子どもとの日々です。ありがちな子ども子育て賛美でもなく、苦労譚でもなく、日常に潜む不穏な感情、本来理性的な性格でありながらもそこからどうしてもはみ出してしまう動揺をポジティブなものもネガティブなものも等しく見つめ、名前をつけることに力を注いでいます。

紀美さんの端正な文字表現で読むぶんには淡く感じられるそのまなざしが、声に乗せることで生々しく増幅され伝わってくる。

イベントタイトルにちなんで紀美さんが客席のみんなに好きな花の名前を尋ねる場面で僕はうまく答えることができませんでした。ここで故岸田衿子氏のエッセイから引用させてもらいます。

 “木の名前や、草の名前を、正確に覚えたほうがいいと思っているが、いくら調べても、すぐに忘れてしまう花の名がある。そんな時は、かりに自分でつけた名前のほうは本当らしくなって、気にいってしまう――。「コギツネアザミ」などもそうだった。何度も人に聞かれるので、本名を調べてみるが、すぐに忘れてしまう困った名前だったので、やっと覚えた今でもそのかりの名前を使っている。”「花の名前」(1999)

花は自身の名前を認識していない。親の願いを託した名前を子どもにつけるように、花にも自分の好きな名前をつけたらいいですよね。

MCで紀美さんも言っていたように、どんな状況下でも子どもは生まれてくる。詩も詩集も生まれる。それを絶やさないこと、各々が最良と考える方法で祝福すること、それこそが希望であると僕は考えます。

新しい詩集は正方形で濃いピンクの表紙。僕が装幀デザインし、用紙を一枚ずつカッターで裁断して、インクジェットで出力して手折りしたものをホチキスでとめました。これらの作業はすべて自宅のキッチンテーブルで行っています。

外出してライブイベントに参加する判断が難しいときにご来場くださったお客様、jiccaのトリちゃん会場展示する原画と今日のために特別なスタンプを作って貸し出してくださったはんこのこまちさん、どうもありがとうございました。

詩集『「ママは、ばらの花が好きだな」と彼女は言った。』の通信販売も始まっております。詳細は こちら をクリックしてご覧ください。

 

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