2019年12月22日日曜日

カツベン!

曇り空。クリスマス前のショッピングモールの喧噪を抜けて。ユナイテッドシネマ豊洲周防正行監督作品『カツベン!』を観ました。

舞台は大正4年(1915年)の滋賀。貧しい少年染谷俊太郎は活動寫眞の作品よりも弁士が好きなヲタク。撮影現場で友だちとふざけて警官に追われて、撮影中のオープンセットに入ってしまう。一緒に逃げた梅子に万引きしたキャラメルをあげる。

10年後、ふたりが再会したとき、梅子(黒島結菜)は端役の活動女優、俊太郎(成田凌)は窃盗団の一味になっていた。俊太郎は才能を発揮し、国定天聲という人気活動弁士になる。

少年少女時代の冒頭シーンがとてもナチュラルなコメディタッチで周防監督も大人になったものだなあ、と感心しました。10年後、竹中直人渡辺えり徳井優田口浩正正名僕蔵らおなじみの脇役陣が勢揃いすると、一気に空気はいつもの周防組のテンポに。それでも過去作に顕著だった説明のための台詞(そしてそれは学生相撲、競技ダンス、芸妓というマイナージャンルに観客を引き込むために必要だった)が極力排されており、役者の芝居にすべてを語らせようという監督の意欲が伝わってきます。

「うたかたと心に刻む秋の聲、闇の詩人、不肖山岡秋聲でございます」酒に身をやつした往年の名弁士を演じる永瀬正敏。愛する活動寫眞を汚す偽弁士と盗賊団の逮捕に執念を燃やす刑事を演じた竹野内豊(左利き)。2人のベテラン俳優がセクシーな芝居で画面を引き締めます。女優陣では、めずらしく悪役の妖艶な娘を演じた井上真央が良い。

活動弁士がスターだったこと。その話術で無声映画を大胆にアレンジしてより魅力的に見せていたこと。和洋楽器混成の生演奏アンサンブル。映写技師との共同作業であること。いずれトーキーに取って代わる存在であることを自覚していたこと。などを知ることができました。

エンドロールに流れる「カツベン節」を聴いて、奥田民生も以前なら桑田佳祐あたりが受注していたであろうこういった落ち着いた仕事をする年代になったのだなあ、と同年生まれとして思ったのでした。

 

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