2017年8月5日土曜日

静かなる情熱 エミリ・ディキンスン

薄曇りの土曜日。神保町岩波ホールテレンス・デイヴィス監督脚本『静かなる情熱 エミリ・ディキンスン』を観賞しました。

生前発表された詩はわずか数篇。没後発見された2000篇近い草稿群が出版され、19世紀のアメリカを代表する詩人としていまも人気の高いエミリー・ディキンソンの半生を描いています。

舞台は1848年、エミリーの女学校中退から始まり、1886年5月の葬儀で終わる。

エミリー・ディキンソンといえば、マサチューセッツ州アマーストの自宅で、白いドレスを着て部屋から一歩も出ず、また誰も部屋に入れなかった。病気で往診に呼んだ医師でさえ、ドア越しに診察させたという。そんなコミュ障のひきこもり詩人。という印象だったのですが、それは43歳で父親を亡くしてから12年間のこと。それまでは一応当時の一般的な社会生活を営んでいます。服の色もさまざま。

よく言えば才気煥発で好奇心旺盛。既存の価値観には疑問符をつけ自分で検証してみたくなる。納得いかないことには必ず反発し、人間関係円滑化のために表面上同調するという選択肢を持たないので組織のなかでうまく立ち回れない。今風に言えば「生き辛い人」。結構キレやすくて、教師や親類や友達に酷い悪態を投げつける。

詩作品の主題も世界に対する呪詛に満ちているのだが、その呪詛をこの世のものとは思えないほどの美しく表現できる類稀なスキルを持つ。主人公エミリーを演じているのが『セックス・アンド・ザ・シティ』のバリキャリ弁護士ミランダシンシア・ニクソン

しかしこの映画の真の主役はエミリーの妹ヴィニーことラヴィニア・ディキンソン(ジェニファー・イーリー)だと思います。エキセントリックで才能豊かな姉とお調子者の兄、厳格な父親と病弱な母親、という厄介な家族関係の綻びをなんとかうまく修復しようと終始気を遣い努力する。最後まで報われることはありませんが、その真摯な姿には心打たれました。

ディキンソン家の数十年の時の経過を数秒で表現した肖像写真のモーフィング技術もエレガントで鮮やかです。

0 件のコメント:

コメントを投稿