2016年9月19日月曜日

エル・クラン

敬老の日の東京は雨。2日続けて恵比寿ガーデンシネマへ。2015年ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞受賞、パブロ・トラペロ監督作品『エル・クラン』を観ました。

1983年サン・イシドロ。アレハンドロ(ピーター・ランサーニ)はプッチオ家の三男二女の長男でラグビー・アルゼンチン代表チームのポイントゲッター。父アルキメデス(ギレルモ・フランセーヤ)は軍事政権下で情報管理官だったが民主化により失脚し、息子たちと誘拐を犯し身代金で生計を立てている。アルゼンチン人なら知らない者のない実話に基づくストーリー。

同時代のブエノスアイレスを描いた仏作家カリル・フェレのクライムサスペンス『マプチェの女』(ハヤカワ・ミステリ文庫)を読んだばかりだったので、アルゼンチンの軍事独裁政権とELN(民族解放戦線)がいかに残虐で腐敗にまみれたものであったか、ある程度の知識があったのですが、そういった前提なしに物語の背景を理解するのはなかなか難しいかもしれません。

普通の感覚では、誘拐した人質を家族6人が暮らす自宅の一室に監禁するという事態が異常に思われるのですが、監督のインタビューによると、主犯アルキメデスは罪の意識を持っていなかった、という。軍事政権下で利権を貪り豊かになった富裕層が、政権が揺らぎ始めるとみるや資産を海外に移し始め、国力が低下する。そのことに義憤を感じ、金持ちから高額の身代金を詐取しようと義賊的な志で誘拐を重ねる。その犯行の過程で多くの命が失われる。

当時のアルゼンチンの司法制度もぐだぐだにユルくて酷いです。共犯の疑いのある被疑者を当事者の求めに応じて同じ檻に収監するわ、拘留中に家族や恋人に直接接触させるわ、挙句の果てには、アルキメデスは無期懲役で服役中に司法試験に合格して弁護士の国家資格を取得したという。

El Clanはスペイン語で「一族」の意。家族の結びつきの強固さはラテン世界ならではのものかもしれませんが、昨今の日本の絆至上主義ともいえる空気に違和感を持ってしまうのは、同族的、単一的な価値観が大義を得たときにファナティックな行動に向かうことに対して本能的な恐怖を感じるからでしょう。

手ブレとフォーカスアウトを意図的に多用したカメラワークがクールなのと、CCRThe KinksDavid Lee Ross等、アッパーなビートの効いたサウンドトラックのおかげで後味は悪くない。むしろ爽快です。

 

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