2013年10月27日日曜日

川俣正・東京インプログレス-隅田川からの眺め

初対面の楽屋トークで「どこに住んでますか?」っていうのは定番ですが、先月のPoemusicaでもそんな話になり、僕が「豊洲ですよ」と答えると、古川麦くんが「来月豊洲で演奏します」と言うのです。彼の参加しているプロジェクトのひとつ、オルタナティブ・フォーク・ユニット「表現(Hyogen)」が、現代美術家川俣正氏のイベントに出演する。会場は僕の自宅から徒歩10分。聴きに行ってきました。

川俣氏の『東京インプログレス-隅田川からの眺め』という作品は、一種のパブリックアートで、2010年から2012年にかけて、南千住、佃島、豊洲の3箇所の公園に巨大な木造のオブジェを設置しています。そのオブジェを巡る3度のツアーの過程で公開制作された楽曲を、オブジェの設置期間が終了するこのタイミングで披露しようというもの。

表現(Hyogen)は、権頭真由 (アコーディオン)、佐藤公哉 (ヴァイオリン)、古川麦 (ギター)、園田空也 (コントラバス)の4人組。全員が歌います。今日は現代舞踊家の酒井幸菜さんが加わって、5人のパフォーマンスでした。

その音楽は風景に溶け込まず、むしろ対峙しているように思えました。それはナチュラルな素材であるがゆえにコンクリートだらけの景色に融合しない豊洲ドームの存在感にも呼応する。酒井さんのダンスが海鳥を思わせる優美な動きで、音楽と風景のあいだを取り持っているようでした。

音楽の途中で麦くんがギターをホルンに持ち替えてステージを離れ、ボードウォークの突端で吹き始めたとき。豊洲に越してきて最初の大晦日のことを思い出しました。1993年ですから、ちょうど20年前。この関東大震災の瓦礫による埋立地に住み始めた頃、ここは造船所の町で、建設資材工場や砂糖工場、冷凍倉庫などが建つ、様々な国籍の屈強な港湾労働者たちの町でした。年が明ける時に除夜の鐘のかわりに停泊している貨物船が一斉に汽笛を鳴らします。船によって微妙に音程が異なり、その不協和音を僕は美しく感じました。

5年ほど前から再開発が進み、今ではタワーマンションが立ち並ぶアーバンレジデンスにすっかり生まれ変わりました。おかしなことに、自分の知っているこの土地の風景が失われてしまってはじめて、自分が豊洲ネイティブだと感じられるようになりました。いままでの生涯で一番長く暮らしている場所ですが、そういうことではなくて。風景が記憶として固定されたときに、新しくそこに住まう人の知らない風景を持ったときに、はじめて人はその土地をホームタウンと感じるのではないでしょうか。

台風の翌日、東京湾岸は快晴。空気が乾燥してクリアです。まだ雨の名残りで湿った芝生にシートを敷いて寝転んで。風は少々ありますが、空にはゆりかもめが飛んで気持ちの良い日曜日の午後。そんなことをぼんやりと考えていました。

 

 

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