2018年1月27日土曜日

ザ・モニュメント 記念碑

高田馬場駅から早稲田通りを西へ。残雪が凍結する坂道の途中にあるプロト・シアターで、コリーン・ワグナー作、川口典成ピーチャム・カンパニー)演出の二人芝居『ザ・モニュメント 記念碑』を鑑賞しました。

ステージ後方中央に置かれたSONYの液晶テレビに映るファレル・ウィリアムスの "Happy"。そして暗転し、ふたりの役者が登場する。ステッコ(神保良介)は帰還兵。戦場で23人の女性をレイプし殺した罪でいままさに電気椅子で処刑されようとしている。そこに現われたメイラ(西田夏奈子)は「死ぬまで私に従うことを条件に命を救おう」と言う。

ステッコは生命と引き換えに、メイラの暴力を受け、使役し、フィジカル的にもメンタル的にも痛めつけられる。メイラはステッコを詰問するが命じない。選択肢を示してステッコに決めさせる。どの選択肢を取ってもステッコはダメージを受ける。ダメージを受けながらも心から反省や後悔はしない。

「結局痛みが決め手になるんだよ、何につけても」「謝るってそういうこと。俺が謝る。世界が許す」。命じられて(あるいは空気を読んで)女性たちを殺したステッコだが、ウサギを殺すこと、自傷することは拒む。非戦闘員に対する性暴力と殺戮を倫理の側から告発するメイラ。組織の論理で正当化しようとするステッコ。その応酬は最後まで噛み合わない。噛み合わなさを暴力で埋めようとする。

西田夏奈子さんの舞台は『俊読2017』で共演する以前から、劇団フライングステージの客演などで何度も拝見しています。今回の役はほとんどの場面で大声の命令口調ですが、声がしっとりしていて品があるので全然やかましさを感じません。「嘘だ」という嘘の空々しさ、「許さない」と言いながら心のどこかで許している深い悲しみを湛えた眼差し。良いお芝居をしていました。ステッコ役の神保良介さんが翻訳した台詞も素晴らしいです。

終演後、ファレル・ウィリアムスの "Happy"のMVが再度流れるのですが、その意味合いが開演前とはまったく違うものに感じられました。

戦争や災害、事故などの慰霊碑は旅先でときどき目にしますが、いままであまり気に留めす過ぎてしまっていました。集団や人数ではなく、ひとりひとりの犠牲者とご遺族に思いを馳せ、立ち止ろうと思います。

 

2018年1月24日水曜日

TRIOLA a live strings performance

路肩に残る雪が夜気をしんと冷やしています。下北沢leteTRIOLA a live strings performance に行きました。TRIOLA波多野敦子さん(作曲、5st Viola)と須原杏さん(Violin)の二人による最小単位弦楽アンサンブルです。

二部構成のワンマンライブの前半は即興中心のセット。深めのリバーブをかけた無調性のピチカートのループからスタートし、そこにポルタメント、スラーを多用したロングトーンが幾層にも重なり響く "Yellow Boys" からサンプルディレイによる二声のフーガがまどろみを呼ぶ "Parade 2"、そしてtriolaが大文字のTRIOLAになってから長いイントロダクションが加えられた三拍子のタンゴ「雨」へ。いずれも10分を超える長尺アンビエントナンバーでした。

短いインターバルを挟んで後半は強いビートを持つ楽曲を矢継ぎ早に繰り出す。ビートといっても打楽器やベースが入るわけではありませんが、9本の弦と2本の弓が生み出す律動性はやはりビートとしか呼びようのないもの。

2016年の再起動後に創られた作品には表題がなく "tr6"、"tr8" とナンバリングされていますが、その印象のまま抽象化/記号化されたパルスと小刻みにゆらぐ調性を持つ音楽は他にはないものだと思います。

波多野さんのヴィオラのメランコリックな肉声と長調も短調も適切に輝かせる杏さんのヴァイオリンの音色の重なり合いの妙。特に最近書かれた等拍のリフレインにきらめく旋律の断片が絡む "tr10"、"tr11"、"tr14" など2桁の楽曲群のテクノ/エレクトロニカの影響を感じさせる緻密なスコアを自らカッターナイフで切り刻むような生々しい演奏は新生TRIOLAの真骨頂か。

木箱のようなleteと小さな木箱でもあるヴァイオリンとヴィオラの共鳴。不協和音。表層的な意味ではなくコアの部分で「美しくあろうとする意志の強さ」そのものを実体化したような音楽が現在のTRIOLAなのだと僕は感じています。


2018年1月20日土曜日

ノラバー日曜生うたコンサート

寒さがすこし和らいで、街路樹の沈丁花や白木蓮のつぼみが膨らんできました。来週はまた気温が下がるようですが、春は確かに近づいています。

3/4(日)ミシンの日。早春の大潮の十六夜の夕刻に、西東京市保谷町(最寄は西武柳沢駅)のノラバーで、生声の朗読と美味しいお食事とハイボールをお楽しみいただける完全予約制先着11名様限定のお食事付ワンマンライブがございます。只今絶賛ご予約受付中です!

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ノラバー日曜生うたコンサート

出演:カワグチタケシ
日時:2018年3月4日(日) 17時開場、18時開演、19時~バータイム
会場:ノラバー 
   東京都西東京市保谷町3-8-8
   西武新宿線 西武柳沢駅北口3分
   ○吉祥寺からバスもあります。
料金:4,500円
   ●ライブチャージ
   ●6種のおかずと味噌汁のノラバー弁当
   ●ハイボール飲み放題(ソフトドリンクもあります)
   ●スナック菓子3種
   以上全部込みの料金です。
   
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銀座のノラの物語アサガヤノラの物語でお世話になり、超リスペクトしているミュージシャンのノラオンナさんが、昨年7月にご自身のお店ノラバーを持ちました。とても落ち着いた雰囲気のあるお店です。こちらには昨年9月に続いて2度目、銀ノラ、アサノラと通算すると10回目の出演になります。

西武柳沢? どこそれ遠そう、ってお思いの方、高田馬場から約20分です。うちからだと阿佐ヶ谷に行くのと10分しか変わりません。

恒例のご来場者全員プレゼントは、大変ご好評いただいているノラバー限定カワグチタケシ訳詞集の第4弾 "suger, honey, peach +love4"(CD付)。トッド・ラングレンELOダン・フォーゲルバーグなど、1960~80年代の甘いラブソングの名曲をカワグチタケシ訳で(この訳詞シリーズを始めた経緯はこちらのリンクをご覧ください。

そしてお料理は必ずご満足いただけるクオリティ。ノラバー弁当は季節ごとの素敵なメニューをノラさんが考えてくださいます。

*銀ノラ、アサノラより1人増えた先着11名様限定の完全予約制です。
 ご予約は rxf13553@nifty.com まで。お名前、人数、お電話番号を
 お知らせください。お席に限りがございます。どうぞお早目に!

 

2018年1月3日水曜日

新世紀、パリ・オペラ座

今年も三賀日は映画館へ。渋谷Bunkamuraル・シネマで、ジャン=ステファヌ・ブロン監督のドキュメンタリーフィルム『新世紀、パリ・オペラ座』を鑑賞しました。

パリ・オペラ座には、ガルニエ宮オペラ・バスティーユというふたつの建物があります。そこで350年以上にわたり毎晩上演されている世界最高峰のオペラとバレエ。

新キャストのオーディション、プレス対応、主役級の突然の降板、従業員のストライキ、演出家の無茶振り、悩める芸術監督、降りかかる大人の事情。ステファン・リスナー総裁はじめとする裏方たちの奮闘の日々を記録しています。

昨年同館で観た『パリ・オペラ座 夢を継ぐ者たち』はバレエダンサーに焦点を当て、身体表現者たちの息づかいや足音をダイナミックに切り取った思い切りの良いドキュメンタリーでした。本作は、入場料設定会議からキャスティング、リハーサル、本番に至る過程に関わる膨大な人数のスタッフ、清掃係やランドリー担当者まで、ひとりひとりの表情を素早いテンポの編集できめ細かく見せる。

インタビューカットやナレーションはまったく入らず、テロップも最小限。日本の地上波テレビの説明過剰に慣れた目にはあまりにそっけなく感じられるかもしれませんが、それでも関係者個々の心情が痛いほど伝わってくるのは撮影と編集に力があるからでしょう。

キャストの出ハケから照明の切り替えまで、舞台袖から秒単位で目まぐるしく指示を投げ続ける女性舞台監督が、お気に入りのアリアになると全力で歌い出す。微笑ましくも愛情溢れるシーン。

フランス、イタリア、ドイツ、ロシア、アメリカ、カナダ、アジア系、アフリカ系。世界最高峰を目指すことでキャストは完全にグローバル化しており、会話も仏語、英語、独語。国立の施設においても自国人の雇用より至高の芸術を優先するのがフランスの懐の深さか。

2015年、パリ市内で起きたシャルリー・エブド紙襲撃事件とサッカースタジアムおよびコンサート会場における同時多発テロの直後に、旧約聖書の出エジプト記を題材にしたシェーンベルクの未完のオペラ『モーセとアロン』を上演するにあたり「公演を続けることが無差別テロに対する最大の抗議。芸術を、表現を止めてはならない」というリスナー総裁のスピーチは感動的です。



2017年12月29日金曜日

パーティで女の子に話しかけるには

年末の地下コンコースの大雑踏を抜けて。新宿ピカデリージョン・キャメロン・ミッチェル監督作品『パーティで女の子に話しかけるには』を観ました。

舞台は1977年。ロンドン郊外の寂れた街クロイドンで母親と暮す男子高生エン(アレックス・シャープ)は、地元のパンクバンド The Dyschords のライブの打ち上げ会場を見つけられない。窓から洩れる原色の照明とエレクトロニカに誘われて入った空家。そこで開かれていた6つのコロニーに属する異星人たちの摩訶不思議なパーティで出会った少女ザン(エル・ファニング)との48時間のロマンスを描くファンタジー。シャイ・パンクス meets 美少女エイリアン。

冒頭のシーン。主人公エンが自室で目覚め、パンク仕様にカスタマイズした制服に着替えて、道すがら金髪革ジャンのヴィク(A.J.ルイス)とサープラスのツナギ姿でぽっちゃり体型のジョン(イーサン・ローレンス)をピックアップして自転車3人乗りで疾走する。ザ・ダムドの "New Rose" に乗せたコマ落としのスピード感にアドレナリンが上昇する。

そしてパーティから一夜明け、公園ではじめてのデートをするザンとエン。このシークエンスのエル・ファニングの尋常ならざる可愛さ。2017年時点の全人類を代表する美少女が、常識からすこしずつずれた異星人ゆえの行為を演ずる。その破壊力は計り知れません。

エイリアンの6つのコロニーは各々シンボルマークとテーマカラーを持っています。ザンの所属するイエローの第4コロニーのマニフェストは「個性の尊重(individualism)」。それを一斉に唱和する様は individualism (個人主義)とは真逆のアイロニー。カンニバリズムはユースカルチャーを食い物にするマスメディアの隠喩か。

同コロニーで唯一のアジア系異星人を演じているのが、ロンドンとベルリンを拠点に活躍する Hinako Mastumoto さん。台詞こそありませんがひときわ目を引きます。

パンクに関して様々な角度から言及されますが、ニコール・キッドマンスージー・スー的メイクとファッションで怪演するヴィヴィアン・ウェストウッドの元店員でローカルシーンの女元締めボディシイアの「パンクはブルースの最終形。既成概念を覆せだの、自分らしく生きろだの、どうでもいい」という台詞が僕の考えに最も近いと感じました。

オリジナルスコアは Nico Muhlymatmos が担当しています。



2017年12月17日日曜日

銀河鉄道の昼

冬晴れ。高円寺純情商店街を一本入った裏路地。狭い階段を上り靴を脱ぐ。大陸バー彦六は週末の午後喫茶東京鼠になります。

詩人馬野ミキさんが今年8月に始めた月例イベント『銀河鉄道の昼』に行きました。

いまお。彼と出会ったのは確か2004年、大学コンソーシアム京都で開催されたポエトリーリーディングワークショップに僕がゲスト講師として招かれたときの参加者でした。初めて人前で朗読したというそのときのひりひりした感じをいまでも鮮明に憶えています。「詩の朗読は、詩を朗読することではなく、朗読が、詩を実現することだ。」という彼の一行が今回のイベントの惹句。幼子に「なんで朗読するの?」と無邪気に尋ねられ「話すのが下手で、書き言葉の孤独に耐えられないからだよ」と答える。

今年4月に『俊読2017』で共演したときが初対面だった吉田和史さん。音叉を叩いてガットギターを調弦するところからパフォーマンスが始まっている。リリカルかつ清澄、正確で可憐なパッセージとロマンチックな旋律に乗せ、すこし鼻にかかったハスキーボイスで歌う都市生活者の憂鬱。エドワード・ホッパーの絵画のように、人々が出会いすれ違っていく様を額縁の外から冷徹に眺めている。一人称で歌っていても乾いた眼差しが通底しているのは彼がvoyant(見者)であり、僕も自身のその傾向を自覚しているので、共感できる部分が多いです。

去年今年と最も回数多く朗読を聴いたのが小夜さんではないかと思います。畳に正座して出番待ちする姿が美しかった(画像参照)。ポエトリースラムジャパン秋大会東京Cのパフォーマンスが「動」に振り切ったものだとしたら今日は「静」。言葉と声に集中しているように見えました。「オレンジ」は昨年プリシラレーベルで1stCD『無題/小夜』を制作した際に上野動物園のフラミンゴ舎の前でレコーディングし、結局お蔵入りにした詩。もう一度あの作品に最適な環境を選んで、次のアルバムに収録したいと思います。

馬野ミキさんのポエトリーリーディングには心を掴まれるものがありますが、ガットギター弾き語りの歌もよかったです。清濁併せ呑んだ果てに小さな灯火みたいな希望と聖性をほんのすこしだけ覗かせる詩作品に対して歌詞は、より微細な繊維で濾過されたような純粋さと精神の震えめいた響きが前面に出ています。「マジでビビるこの時に/俺はひとり蟻んこを見つめている」と訳した「マイ・ウェイ」のカバーには度胆を抜かれつつ感動。

毎月最終日曜日に喫茶東京鼠で開催される『銀河鉄道の昼』。次回2018年1月28日(日)はMYヒーロー究極Q太郎氏も出演とのこと。来年を迎える楽しみがひとつ増えました。

 

2017年12月15日金曜日

冬のムリウイでノラオンナひとりウクレレ弾き語り

冴え冴えとした師走の金曜夜。祖師ヶ谷大蔵の商店街のビルの外階段を上って屋上へ。 Cafe MURIWUI で開催された『冬のムリウイでノラオンナひとりウクレレ弾き語り』に行きました。

去年の12月にも同じ会場で 港ハイライト1stアルバム「抱かれたい女」プチレコ発。このときはフルバンド編成でメンバーが料理をふるまうディナーショーでした。今夜は真っ赤なワンピースに身を包んだ ノラオンナさんが小さなウクレレを抱えてたったひとりでマイクに向かいます。

これ以上ないくらい小さく爪弾かれる繊細なアルペジオに導かれて「 愛におぼれている」で始まり「 パンをひとつ」へ。緊張と弛緩、荘厳さと軽快な大らかさを往還する波のような演奏、低音のウィスパーからソリッドなファルセットまでレンジの広い歌声で空気を振動させる。

その音楽はウクレレの4本の弦とひとりの声帯のみから発せられてはいるが、聴いている感覚としては会場全体がひとつの大きな楽器として束の間存在しているかのようです。「 港ハイライトブルーズ」「 めんどくさい」「踊りませんか?」などハイテンションなバンドサウンドで聴き慣れた曲にも欠落感はなく、歌の骨格の確かさが豊かな表情をもって奏でられ、音楽本来の愉悦に溢れています。

12月らしく"Silent Night" をイントロダクションに置いた「 流れ星」。メロウな旋律を持つサンバクラシックの " Tristeza" はあえて賑やかに。最終曲「 やさしいひと」、アンコール「 梨愛」まで途切れることのない集中力で次々に繰り出される珠玉のメロディは、一流の職人芸を目の当たりにするようでした。

来年は7年ぶりに弾き語りのアルバムを制作する予定とのこと。とても楽しみにしています。