2025年3月22日土曜日

BAUS 映画から船出した映画館

テアトル新宿甫木元空監督作品『BAUS 映画から船出した映画館』を観ました。

映写機のリール音に重なる冬景色。2014年、自身が経営する映画館の閉館日に井の頭公園の池の畔に佇む本田タクオ(鈴木慶一)。時代は1926年に遡る。青森の映画館で無声活動『カリガリ博士』を観ていた本田サネオ(染谷将太)を兄の本田ハジメ(峯田和伸)が訪ねる。日々に希望を見出せない兄弟は映画に明日を託し上京する。

ヤクザ者に追われた兄弟を偶然救ったのは、井之頭會館の社長(吉岡睦雄)だった。兄ハジメが活動弁士と知った社長は兄弟を雇い、兄は弁士、弟はサンドイッチマンとなる。弟サネオは會館の掃除係ハマ(夏帆)と結婚し二女一男をもうけ、妻の田舎に転居するという社長からその座を譲り受ける。

「言ってみりゃここに暮らす人たちの窓だね」。もともと井之頭會館は映画のみならず地域の文化拠点を標榜して音楽界や落語会を開いていた。イタリア未来派の騒音楽器イントナルモーリの演奏会は大失敗に終わり、無声映画からトーキーの時代に移り変わる中、太平洋戦争が泥沼化し、兄ハジメに赤紙が届く。

「煙と光は映画と共にある。人間が時間との闘いの中で編み出した一瞬を永遠に変える……」。東京吉祥寺に実在した映画館BAUSシアター、その前身である井之頭會館とM.E.G.(武蔵野映画劇場)をめぐる家族の物語です。実話に基づく物語は、老経営者タクオの回想という形式をとっていますが、その記憶はタクオの誕生前に遡り、井之頭會館の建築は野原に立つ一枚の書割で、ナイトシーンの背景は漆黒、登場人物が歌い出すと楽器奏者がわらわらと現れ、リアリズムから逸脱する。能舞台というか、大友良英の書く管楽合奏の劇伴と相まって、フェリーニクストリッツァのような感触もあります。

映画館が主役というよりも、息子タクオに、いつも家族の中心にいて太陽のような存在だった、と言われ、夫サネオから「俺と結婚して後悔しているか」と聞かれて「後悔しかしてないよ。後悔のない人生なんでつまんない」と答える、可憐でおおらかでしっかり者のハマを演じる夏帆さんが、この映画の主役といっていいと思います。M.E.G.の開館日にサネオが舞台で挨拶している間、客席でうたたねするハマの寝顔は神々しくも美しい。上映時間の後半は、ヒロインの不在を噛み締め寂寥感を味わう、そんな映画があってもいいと思いました。

 

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