2024年11月17日日曜日

ベルナデット 最強のファーストレディ

曇りのち晴れ。ヒューマントラストシネマ有楽町レア・ドムナック監督作品『ベルナデット 最強のファーストレディ』を観ました。

タイトルバックにパイプオルガンと発声練習が重なり、教会で聖歌隊が「この映画は史実に基づくフィクションです。ベルナデット・シラクは1933年パリ生まれ、父親はジャン=ルイ・ショソン・ド・クールセル、母親はマルグリット・マリー・ド・ブロンドー・ドゥルティエール。繰り返しますが、これはフィクションです」と歌う。

1995年5月のパリ。左派のジョスパン候補を破って大統領となったジャック・シラク(ミシェル・ビュイエルモーズ)の妻ベルナデット(カトリーヌ・ドヌーヴ)は、集まった支持者の声援にバルコニーから応える夫ジャックと彼の広報官である次女クロード(サラ・ジロドー)に疎まれ、室内に引っ込む。摂食障害で入院している長女ロランス(モード・ワイラー)が当選祝いに贈った亀をベルナデットはマリー・アントワネットと名付けた。

新しいファーストレディに対する「所帯じみている」「古臭い」という世評を覆そうとクロードは市庁舎で干されていたベルナール・ニケ(ドゥニ・ポダリデス)をベルナデットのイメージ戦略コンサルタントに任命する。ダイアナ元妃がパリで交通事故死した日、シラク大統領はパレルモでイタリア人女優と浮気していた。そのことよりも、自宅の庭でジャックの立小便が愛亀アントワネットにかかったことでベルナデットのスイッチが入り、ニケとバディを組んで快進撃が始まる。

地方議会で発言中のベルナデットに急用だと電話を掛けるシラク大統領の質問は「生牡蠣は今が旬か?」。1995年から2007年に在位していた実在のフランス大統領夫人を主人公にしたコメディ映画は、故人も存命中も全登場人物が実名で描かれ、当時シャネルのデザイナーとしてDIESELとコラボしていたカール・ラガーフェルド(オリヴィエ・ブライトマン)やシラクの政敵で次の大統領になるサルコジ(ロラン・ストケル)、当時の米国大統領夫人ヒラリー・クリントン(本人のニュース映像の合成)も登場します。相当戯画化されているとはいえ、日本で言えば三代前の首相夫人安倍昭恵氏を主役にしたアイロニー溢れる喜劇を撮るようなもの。それを笑って受容するフランス社会の器の大きさ。

ヒロインを演じる81歳のカトリーヌ・ドヌーヴの存在感が凄い。松坂慶子にもっとドスを利かせた感じですが、貴族的な優美さや可憐さも併せ持つ。『しあわせの雨傘』(2010)、『真実』(2019)など、年輪を重ねて尚コメディエンヌとしての切れ味が増しているように感じます。

冒頭に記述した聖歌隊はテロップ的な役割で、エンドロール前には「主人公や脇役たちはこのあとそれぞれこうこうこうなりました」と歌う。ニケの模造紙によるプレゼンのしょぼさや1998年フランスW杯をテレビ観戦するシーンには爆笑しました。約90分の上映時間に多くのエピソードをテンポ良く盛り込み、女性の自立を主題とした現代的で痛快な喜劇作品に仕上げた劇場版初監督のレア・ドムナック氏の今後の活躍が楽しみです。

 

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