2018年12月22日土曜日

メアリーの総て

小雨降る冬至の午後、クリスマス前の大通りは着飾った人たちで一杯。シネスイッチ銀座ハイファ・アル=マンスール監督作品『メアリーの総て』を鑑賞しました。

19世紀初頭のロンドン。アナキストの書店主ウィリアム・ゴドウィンスティーヴン・ディレイン)の娘メアリー(エル・ファニング)は夢想的なゴス少女。ホラー小説を書き、墓地で過ごすのが好きな16歳。

フェミニズムのアクティヴィストだった母親はメアリーの出産時に死亡。継母との折り合いが悪く、スコットランドに住む父の友人に預けられる。その邸宅で開かれたポエトリーリーディングで気鋭の詩人、21歳のパーシー・シェリーダグラス・ブース)と出会い、おたがいひと目で恋に落ちる。

フランケンシュタイン或いは現代のプロメテウス』の作者メアリー・シェリーを主人公にした史実に基づくフィクション。重厚なコスチュームプレイをサウジアラビア初の女性映画監督が静謐で精妙な筆致で描く。感触としてはジェーン・カンピオンのフィルムに近いです。

タイトルバックの滝や渓流のスローモーションがその後のメアリーの奔流に巻かれるような人生を象徴している。夜のシーンが多いのと昼間でもほとんどの日が雨か曇り。実際この時期の欧州は火山灰の影響で寒冷化し、飢饉に見舞われた。スクリーンの物理的な暗さにエル・ファニングの瞳のブルーグレイが一層際立ち美しい。

コールリッジ、シェリー、バイロン。実在の詩人たちの粗野で淫蕩でインモラルな日々。バイセクシャルとして描かれたバイロン卿(トム・スターリッジ)のクズっぷりは特に振り切れており、むしろ清々しいほど。詩人=ダメンズというスレテオタイプは19世紀ロマン派がその極みだったのだなあ、と思いました。が、バイロンもシェリーも最後の最後に文学に対してだけは誠実さを見せるのが救いです。

 

0 件のコメント:

コメントを投稿