2016年12月3日土曜日

この世界の片隅に

よく晴れた土曜日の午後、運河も凪いでいます。ユナイテッドシネマ豊洲片渕須直監督作品『この世界の片隅に』を観ました。

「うちはようぼうっとしとるじゃいわれとって」。昭和8年の広島市江波、三角州の南端で海苔の養殖を営む浦野家の長女すず(声:のん)は絵が上手な小学生。現実と空想がないまぜになった絵物語を描いて妹すみ(声:潘めぐみ)に語って聞かせる。

太平洋戦争が開戦し、18歳になったすずは呉で両親と暮らす陸軍法務局の事務官周作(声:細谷佳正)に見初められ嫁入りする。そして終戦までの12年間の物語。こうの史代の原作漫画をアニメ化。

「戦争しよっても、ちょうちょは飛ぶ、せみは鳴く」。すずの声を演じたのん(能年玲奈)が素晴らしい。のんびりしていて妙に前向きな主人公の造形を柔らかい広島弁とちょっと舌足らずなのほほんとした語り口で表現しており、シリアスなストーリーをカラッと明るく見せることに成功しています。

「なんでも使って暮し続けるのがうちらの戦いですけ」。風景、家屋や調度、炊事、洗濯、裁縫。生活のディテールがこれでもかというぐらい丁寧に描写されています。家族の物語は僕はどちらかというと苦手で、依存の空気が流れ込むと途端に居心地が悪くなってしまうのですが、このお話の登場人物たちは、まず個人として立っており、その上で身の周りの人たちには適度な思いやりを示すので、人間関係がべたつかず心地良いです。

戦争がバトルフィールドから市街地に滲出し、非戦闘員を巻き込むようになったのは、空爆が技術的に可能になった第二次世界大戦から。核兵器出現以降の我々の感覚からすると、戦場で生身の人間が斬り合ったり撃ち合ったりする行為は野蛮極まりなく映ります。でも本当に残酷なのはどちらも変わらない。人が人を殺すことで帰属する国家なり集団なりの優位性を保とうとすることは。大空襲を受け、防災無線で「呉のみなさん、がんばってください」と繰り返されても、一体どうがんばれというのでしょう。戦争中の時間の経つのの遅いこと。

タイトルバックの讃美歌 "O Come All Ye Faithful"(神の御子は今宵しも) からザ・フォーク・クルセダーズの「悲しくてやりきれない」のカバーへの流れ。コトリンゴさんのサウンドトラックも終始優しく物語に寄り添っています。

 
 

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