2026年9月12日土曜日

ルックバック

小雨。ローソンユナイテッドシネマアーバンドックららぽーと豊洲是枝裕和監督作品『ルックバック』を観ました。

画用紙を鉛筆がこする音。夜の窓に向かって、にかほ市立院内小学校4年1組の藤野歩(七瀬ふうり)が勉強机で4コマ漫画を描いている。漫画は学年新聞に毎号掲載され、同級生たちに人気がある。「忙しかったから5分で描いたんだよね」と嘯くが、実は毎号頭を抱えて夜更けまで執筆していた。

放課後、担任(宮藤官九郎)に職員室に呼ばれ、次号の一枠を4年2組の京本奏(岡田六花)に譲ってくれないか、と打診され、「私は別にいいですけど、不登校の軟弱者に漫画が描けるんですかね」と藤野は承諾する。翌週配られた学年新聞を見て京本の画力に敗北を感じた藤野は、書店兼文具店に走り、デッサンやパースの教則本やスケッチブックなどの画材を買い込み、帰宅すると自室に篭り、ひたすら絵を描き続けた。

2024年にアニメ化された藤本タツキ読み切り漫画の実写版を是枝監督が撮る。アニメ版の完成度が素晴らしかっただけに、同じく漫画原作の『海街diary』のように上手くいくのかな、というのは杞憂でした。出口夏希さんの藤野、蒔田彩珠さんの京本も、アニメ版の河合優実さん、吉田美月喜さんと甲乙つけがたいキャスティング。ちなみに、原作とアニメの京本は左利きで、実写版では右利きです。

58分のアニメ版に対して、実写版の上映時間は99分。アニメ版は前半30分で高校を卒業しプロの漫画家になるのですが、実写版はふたりが一緒に漫画を描き始めるまでに約40分を費やす。ロケ地秋田県にかほ市の季節の移ろいや、藤野の両親、小中学校の教師、雑誌編集者(菅田将暉)など、大人たちとの関係性をより丁寧に描いています。

山田真歩さんの使い方が贅沢。また出演時間こそ少ないですが、藤野の母親役の野呂佳代さんの存在感が際立っています。小学校の卒業式のあと、雨に降られた藤野が帰宅した廊下を雑巾で拭いて、捨てておいてと言われ一度は縛ったスケッチブックの束の紐を鋏で切る無言のシーンは野呂佳代さんのためのもの。『怪物』『箱の中の羊』に続く是枝作品への出演で、故樹木希林さんのポジションを今後担っていく気がします。

卒業証書を京本に届け、はじめてファンを得た藤野が、急に降り始めた雨の中、農道をスキップしながら鼻歌が劇伴のギターにシンクロし、びしょ濡れで全力疾走する一連のシークエンスは、『海街diary』で当時十代前半の広瀬すずさんが自転車二人乗りで桜のトンネルを通過するスローモーションに匹敵する美しさです。

無音の使い方もいい。膝まで埋まる雪を踏み締めて真夜中のローソンへ向かう二人。カメラは店外から二人を映し、少年ジャンプの新人賞掲載号を開く二人の緊張と興奮を無音の画面が増幅している。

複数の音楽作品映像作品などへのオマージュが指摘される原作漫画ですが、実写版においても、隣県の美大に進学した京野の作品が壁に多数貼られ、風でめくれるカットはエドワード・ヤン監督の『恐怖分子』の悲劇を予感させるものでした。

 

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