2025年11月1日土曜日

ヤンヤン 夏の想い出 4Kレストア版

秋晴れ。第38回東京国際映画祭特別上映エドワード・ヤン監督作品『ヤンヤン 夏の想い出 4Kレストア版』を観ました。

ヤンヤン(Jonathan Chang)は10歳。初夏の晴れた日、祖母、両親、姉ティンティン(Kelly Lee)と叔父アディ(Hsi-Sheng Chen)の結婚式に出席した。新婦は妊娠しているが、新郎の希望で吉日を待っていたため、お腹が大きくなっている。

親族が披露宴を待つ間、具合が悪くなった祖母(Ru-Yun Tang)はティンティンに付き添われて先に帰宅する。控室では招かれざる客、アディの元恋人ユンユン(Hsin-Yi Tseng)が現れ泣き喚く。

2007年に59歳で早世した台湾の至宝エドワード・ヤンの遺作となった2000年公開の本作は、盟友候孝賢(ホウ・シャオシェン)監督の『冬冬の夏休み』(1984)にも似た牧歌的な邦題の通り、ひと夏の物語であるが、物語を動かしているのはヤンヤンの姉ティンティンと父NJ(Nien-Jen Wu)の二人。初恋、人生の悔恨、小さなよろこび、喪失、様々な感情が織りなす監督自身が手掛けた脚本に、カメラワーク、音響、演出、役者陣の自然且つ陰影の深い熱演が結晶した、2000年代を代表する傑作と呼んでも差し支えない作品です。

ヤンヤンの母ミンミン(Elaine Jin)は、実母が脳出血で倒れたことがトリガーになり、メンタルが崩れて職場の同僚が入信していた新興宗教に傾倒し、山中の道場に篭る。父NJは2000年当時勃興してきたIT企業の取締役、アメリカに移住した初恋の人シェリー(Su-Yun Ko)とホテルのエレベーターホールで偶然再開し、日本出張時に東京を訪れていたシェリーと会い、熱海に旅するが旅館は別々の部屋を選ぶ。

姉ティンティンは自宅マンションの隣室で外資系銀行の役員の母と暮らすリーリー(Meng-chin 'Adriene' Lin)の友だちになるが、リーリーと気まずくなった恋人ファッティ(Chang Yu Pang)の手紙を仲介するうちに恋心が生まれます。

揺れ動く家族の機微を見つめるヤンヤンの曇りのないまっすぐなまなざしは、祖母の葬儀の自筆ノートの朗読に結実する。

「なぜ私たちは初めてを恐れるのか。 人生は毎日が初めてだ」。NJの取引先である天才ゲームデザイナー太田(イッセー尾形)の台詞が隠喩と示唆に満ちている。今をときめく津田健次郎が居酒屋の店員役でワンシーンだけ出演しています。

台北のマンション、ホテルオークラの客室、熱海つるや旅館の夜景を背にした大きなガラス窓に反射した登場人物たちは、キャラクターの二面性と視点の客体化を促し、祖母の帰宅時やリーリーを待つファッティを映す防犯カメラの粗い映像は、バッドエンドを予感させる不穏なざらつきを我々に突き付ける。

アジア人らしい慎みと内に秘めた激情、諦念。60歳になったこのタイミングで本作を鑑賞できたことを映画祭に感謝したいです。

 

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