2022年3月25日金曜日

余命10年

桜の候。TOHOシネマズ日比谷藤井道人監督作品『余命10年』を観ました。

2011年春、まつり(小松菜奈)は10年後生存率数%の難病である肺動脈性肺高血圧症を患い、大学を中退して入院中。同室の患者(安藤聖)からハンディカムを遺品として譲り受ける。

2013年8月に退院、翌2014年初頭、生まれ育った静岡県三島市で中学校の同窓会に出席し、和人(坂口健太郎)と再会する。

和人と次に会ったのは病院。三島で会社を経営する父親と断絶して東京で就職したが、鬱病で解雇され、ベランダから投身した和人。命に別状はなかったが足を骨折して入院していた。和人の父親が同級生のタケル(山田裕貴)に病院に行くように依頼し、タケルがまつりに知らせた。和人の希死念慮を前に「真部君のことよく知らないけど、それってすごくずるいと思う」と言い放ち、まつりは病室を飛び出す。

文学とは、美女が死んで男が生き残る物語のこと。小説家の藤谷治氏の言説であるが、その意味では『ボヴァリー夫人』以後使い尽くされた定型であり、日本映画にも枚挙にいとまない。

原作者の小坂流加自身が循環器系の難病を患い、2017年に38歳で亡くなっている。『新聞記者』の藤井道人監督だが、「中学ぶり」「ぶっちゃけ」といった現在ではあまり使われなくなった口語表現をあえて使用しており、2007年刊行の原作小説に対するリスペクトを感じました。

ハンディカムが恋愛の幸福な瞬間を切り取る小道具となり、死の間際メモリをひとつひとつ消去する痩せこけたまつりの悲しみを強調する。総じて抑制の効いた演出で、声量的にもとても静かで好印象です。

小松菜奈の長いまつげと坂口健太郎の不安げな口元。確かな芝居も含め、主役ふたりの魅力を鑑賞する映画。そして、まつりの家族役の松重豊原日出子黒木華、大学の同級生役の奈緒、主治医役の田中哲司、脇を固める名優たち。

主人公家族の自宅が日暮里という設定で、夕焼けだんだんや谷中ぎんざ商店街が映り、ガストと谷中霊園を結ぶJR日暮里駅の陸橋の以前は橋上の喫煙所で現在は撮り鉄スポットになっているあたりが恋人たちの重要な場面に使われます。

脚本は、岡田惠和と『ムチャブリ! わたしが社長になるなんて』の渡邉真子。『にじいろカルテ』『ファイトソング』と難病ものが続く岡田惠和には、『泣くな、はらちゃん』や『スターマン・この星の恋』みたいに変てこな作品をまた書いてほしいです。

 

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