2015年8月11日火曜日

バケモノの子

夏休みの夜の映画館が好きです。ユナイテッドシネマ豊洲に、スタジオ地図製作、細田守監督作品『バケモノの子』を観に行きました。

渋谷を根城にするホームレス小学生蓮(声:宮崎あおい)は、宮下公園ガード下の違法駐輪場で声を掛けてきたバケモノ熊徹(声:役所広司)の後を追って異界に踏み込む。そこは半獣半人(顔と表皮が動物で体型と服装が人間)たちが暮らすパラレルワールド渋天街。強くなりたい蓮は弟子を探していた熊徹とWINWINの関係を結び、九太と名付けられ弟子入りする。

エンドロールに参考文献として中島敦の「悟浄出世」が挙げられていて「そうか!」と思ったのですが、前半は「西遊記」(とおそらく中島敦の「弟子」も)、後半はメルヴィルの「白鯨」の枠組を借用しつつ、細かいプロットを積み上げて、複雑な構成のストーリーを、きっちりロジカルに組み上げる手腕はお見事です。

17歳になった九太(声:染谷将太)と私立進学校生楓(声:広瀬すず)の出会いは区立渋谷図書館(Amazonにボーイ・ミーツ・ガールなし)。このふたりはあたかも『おおかみこどもの雨と雪』の花と彼の前日談のよう。

「人間はひ弱なゆえ、胸の奥に闇を宿らせる」。中島敦の小説では、元来悩みや迷いを持たない妖怪が人肉を喰らうことで自我が芽生え実存主義的自己懐疑に陥るのですが、この映画では逆にバケモノが概念化して主人公の胸に収まることで闇を打ち消す解決を描いています。

市庁舎前に広場があり、狭い階段で住居をつなぐ渋天街の中近東風の市街描写はとても魅力的。一応電気は通っているようですが、通信インフラがなく移動は徒歩です。いくつかのフラワーアレンジメントがパスワードになって渋谷の街と行き来できるのですが、人間界に戻った瞬間に流れこんでくる複数の流行歌、エンジン音、旅客機のジェット音、街のノイズの奔流がリアルです(音楽は高木正勝)。勝敗の決した瞬間にスタジアムの天井から吊り下げられた垂れ幕が砕片化し紙吹雪に変わって舞い散る様は大変美しい。

残念だったのは、作品全体にマッチョイズムが横溢しており女子キャラクターの存在感が希薄で、そのせいかこれまでの細田作品には必ず登場したヒロインの入浴シーンがなかったことです。次回作での復活を希望します!

 

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