2026年1月3日土曜日

世界一不運なお針子の人生最悪な1日

お正月に映画館に行くという日本古来の風習にのっとり、ヒューマントラストシネマ有楽町フレディ・マクドナルド監督作品『世界一不運なお針子の人生最悪な1日』を観ました。

枯れ葉に赤い糸巻きと縫い針。地面を舐めるカメラに若い女性の死体が映る。次のカットは室内、そして火事現場。3つの死体は同じ女性のように見える。

主人公バーバラ(イブ・コノリー)は自室で目を覚まし、天井に張り巡らされた刺繡糸から垂れ下がった一本を引く。その糸は亡くなった母親の制作したトーキングポートレート(肖像刺繍)につながり、布の裏面に仕込んだ記憶媒体から幼いバーバラを起こす母の声が聞こえる。

スイス連邦チューリヒ近郊の山村で母が営んでいた刺繍店を継いだが、開店休業状態。母の顧客グレース(キャロライン・グッドオール)の3度目の結婚式の当日朝、ウエディングドレスのボタンを手を滑らせて床に落とし「汚れたボタンを使うつもり?」と責められたバーバラは、予備のボタンを取りに戻る途中、山道でバイク2台の事故現場に遭遇する。傍らには、血を流して倒れている2人の男、破れた袋から白い粉、手錠に繋がれたアタシェケースが散乱している。「完全犯罪」「通報」「直進」3つの選択肢がバーバラの頭をよぎる。

宣伝文句は「クライムサスペンス」ですが、ブラックコメディだと思います。主人公バーバラの3つの選択によってそれぞれ異なる物語が順番に展開し、そのいずれにおいても主人公は刺繍糸と縫い針と糸巻きを使い、瞬時の判断でピタゴラ装置のような滑車の仕掛けを作って窮地を脱するのですが、結局3回とも命を落とします。強欲は不幸を招く。そして4つめの選択は。いろいろと辻褄の合わないところも含め、グリム童話の現代版と思えば、とても楽しめる映画です。

最小限の登場人物、最小限の台詞、ナレーションは4回の場面展開時の主人公のモノローグのみ。亡母の回想シーンもなければ、主人公が刺繍をするシーンもなく、プロットに一切の無駄がない。乾いたタッチの暴力描写。無口な主人公がランチタイムのレストランで突然躍り狂うのは最高。役者が真剣に芝居するほど笑いを誘います。脇役では警察官兼判事兼公証人エンゲル(K・カラン)と運び屋ジョシュ(カルム・ワーシー)の父親(ジョン・リンチ)のヤバさが際立つ。バーバラのFIATでかかる古いラブソングもよかったです。

2000年生まれ弱冠25歳のマクドナルド監督の商業長編映画第一作。若さに似合わず、引き算が徹底しており素晴らしい。次回作が楽しみです。