オープニングの "My Generation" から "I Can't Explain" "Baba O'Riley" "Shout and Shimmy" "Young Man Blues" の5曲の各年代のTV番組や各地のライブ映像を、インタビューやナレーションを挟まず畳みかける、その勢いで一気に惹きつけられる。
1979年公開の本作は、最も英国らしいロックバンドのドキュメンタリーではあるが、クロニクルなヒストリーではない。The Whoという現在進行形のアトラクションをThe Whoヲタクの監督が布教しようという意欲作なのだ。
先月観た『ザ・フー ライヴ・アット・キルバーン1977』はこのドキュメンタリーのために撮られたものだが、わずか2カット、しかもピート・タウンゼントのMCと演奏終了後に4人のメンバーが観客に挨拶する数秒だけしか使われていない。 "Baba O'Riley"と"Won't Get Fooled Again" はキルバーンの5ヶ月後に撮り直したもので、ロジャー・ダルトリーのボーダーのピタTなど3人の衣装は同じだがキース・ムーンのシャツが異なる、打ち込みモニター用ヘッドホンを頭が激しく振っても吹っ飛ばないように黒い粘着テープでぐるぐる巻きにしている。ピートのブラックトップのレスポールはキルバーンでは「3」のステッカーが貼られたものを弾いていたが今作では「1」と「5」、風車ピッキングで腕を振り過ぎて、シャツの右脇下の破れが広がっている。ドラマーたちにフォーカスした昨年公開のドキュメンタリー映画『COUNT ME IN 魂のリズム』でも "Who Are You?" の録音風景がフィーチャーされていたが、そのときもキースは頭に黒いテープを巻いていました。
メンバー以外では、リンゴ・スターのいい人っぷりとケン・ラッセル監督のヤバさが際立つ。歌番組の司会者ラッセル・ハーティは腰が引けながらも必死で食らいついていく。メンバー4人はテレビのトークコーナーではちゃらんぽらんな態度を貫くが、ファンの質問には真摯に答える。
初期の代表曲 "My Generation" は本作中に3つのバージョンが収録されており、最後の1967年モンタレー・ポップ・フェスティバルのライブ映像の後半には、いろいろな会場でいろいろなギターを破壊するピート・タウンゼントの姿が次々にインサートされます。そしてキース・ムーンはドラムセットを破壊する。
ギターアンプに仕込んだ火薬の爆発音こそ大きいがものの数秒で終わり、ギターもドラムも壊してしまえばあとは無音です。ライブのエンディングを盛り上げるノイズを出し続けることができるのはジョン・エントウィッスルのベースだけ。そのポーカーフェイスの裏側の気苦労に思いを馳せました。楽器は丁寧に扱いましょう。