山頂の天文台の白いドームの空撮から映画は始まる。大きなドームの中ではスティーヴン・パーキンス(Jane's Addiction)のドラム・サークルのセッション。ドラムセット、コンガ、ジャンベ、あらゆる打楽器を叩く誰もが笑顔になる。そしてうねるシンバルのスーパースロー画像から "COUNT ME IN" のタイトルバックへ。
スティーヴン・パーキンス、チャド・スミス(Red Hot Chili Peppers)、シンディ・ブラックマン・サンタナ(Santana / Lenny Kravitz)、ジェス・ボーウェン(The Summer Set)のインタビューとセッションを軸に古今のロックドラマーにフォーカスしたドキュメンタリー映画です。
マックス・ローチ、バディ・リッチらジャズドラマーがジンジャー・ベイカー(Cream)に影響を与え、その影響を受けたイアン・ペイス(Deep Purple)に影響を受けたニコ・マクブレイン(Iron Maiden)。スチュワート・コープランド(The Police)の落ち着きのない早口はヲタクそのものだし、サマンサ・マロニー(Hole)がモトリー・クルーのツアーサポートに入るエピソードも熱い。
トッパー・ヒードン(The Clash)やラット・スキャビーズ(The Damned)らパンクバンドのドラマーが出てくるのもイギリス映画ならでは。一方でプログレ勢はニック・メイソン(Pink Floyd)ぐらい。ビル・ブラッフォード(King Crimson)、カール・パーマー(EL&P)、フィル・コリンズ(Genesis)あたりは取り上げられてもいいんじゃないかと思います。
ドラマーに対するクレイジーなパブリック・イメージは、キース・ムーン(The Who)が作り、ジョン・ボーナム(Led Zeppelin)が固めたといっても過言ではなく、ホテルの部屋の破壊をテレビ番組でキース本人が実演するのは衝撃映像だし、同世代のボブ・ヘンリット(The Kinks)の「キースは延長コードを繋いで電源を入れたままホテルの窓からテレビを投げていた」という証言は最高ですが、キース・ムーン生前最期の作品 "Who Are You?" の計算され尽くされたドラミングに関するスティーヴン・パーキンスの解説が僕的ハイライトでした。
女性ドラマーに対する男性オーディエンスからの偏見、1980年代のLinn Drum(サンプリング・リズム・マシン)の台頭についても触れられる。
鍋やフライパンを叩くが好きな子どもがクリスマスにおもちゃのドラムキットをプレゼントされたときの狂喜乱舞のホームビデオが映りますが、そのまま大人になったドラマー自身が、ベテランも若手も、好きなドラマーを語るその語り口がみな楽しげでいい。「ドラムのコミュニティはあたたかくて間口が広い」というドラムドクターのロス・ガーフィールドのコメントに尽きる。近年量産される音楽ドキュメンタリーのフォーマットを借りているものの、ミュージシャンの伝記映画につきまとうドラッグなど負の側面がなく、好きなことについてしか話さない。ずっと観ていたくなるハッピーな映画です。
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