2016年1月24日日曜日

こーいにおーちそシャバダバダでいーいのよ@谷中ボッサ

Kitchen Table Music Hour vol.4 の興奮をそのまま連れて、坂を下り、坂を上り、谷中まで。谷中ボッサさんノラオンナさんの2016年歌い初めワンマンライブ『こーいにおーちそシャバダバダでいーいのよ@谷中ボッサ』に行きました。

まずノラさんのひとりウクレレ弾き語りで「愛におぼれている」から立て続けに10曲。インディゴブルーのワンピースがボッサの白い土壁に映える。みんな背筋を伸ばし、息を詰めて聴いています。

ウクレレの弦は4本、それに声。物理的には同時に最大でも5つの音しか存在しないはずなのに、風や湿度や光景や感情の揺れを鮮やかに伝える。そして時折訪れる弛緩の瞬間。

僕のすぐ目の前、最前列のソファに、美しい母親に連れられた小学校低学年の美少女がお行儀良く腰掛けています。美少女が「ママ、キスってなに?」と耳打ちする。「チュウのことだよっ。したことある? まだ早いか」とノラさん。そんなやりとりを客席が笑顔で見守る。弾き語りならではの自由なタイム感。

梨愛たっぷりなインターバルの演出のあとは、Kitchen Table Music Hour を終えたばかりの古川麦くんのギターが加わり、僕的2015年を代表する名盤『なんとかロマンチック』のナンバーを中心に十数曲を披露しました。

『なんとかロマンチック』の曲群は、レコードでは複雑な表情を持つバンドサウンド。デュオ演奏が楽曲の骨格である歌詞と旋律をシンプルに際立たせ、麦くんのギターがその行間に差し色をエレガントに添えて進みます。ハナレグミのカバーもノラさんの名曲「流れ星」も決まって。

通りに出ると雨が通り過ぎた跡に街灯が滲んでいる。美しい音楽の一日。JAZZ喫茶映画館でこのライブを知ってハシゴしたお客様が何人もいらっしゃって、終演後に直接感想を伝えてくださいました。どうもありがとうございます!


2016年1月23日土曜日

Kitchen Table Music Hour vol.4

土曜日の雪の予報はハズレ。白山JAZZ喫茶映画館にて Kitchen Table Music Hour vol.4 でした。僕の日常を彩る音楽を「いかがですか?」と丁寧に手渡すような小さな音楽会の第四弾。2014年9月のvol.3以来、1年半ぶりの開催です。

これまでは初共演の2組をブッキングしてきましたが、今回は趣きを変えて。ちみんさん古川麦さんは3度目の共演(初回は2014年12月のPoemusica ol.35)、ふたりとも中村大史(annie)さんとは別々に旧知の音楽仲間。

事前の打ち合わせやリハーサルから「これは間違いない」と思える回もありますが、今回は少々アクシデント含み(笑)。でも、麦くんが満員の客席を縫ってマイクの前に腰掛け、"Voyage"の短いギターのイントロダクションを爪弾き、第一声を発した瞬間に、会場全体が豊かで清新な空気に満たされました。

ケニー・ランキン武満徹。2曲のカバーのあと、annieさんが加わってデュオでオリジナルを3曲。そして、ちみんさんの弾き語りで「夜」「すべて」。誰にも真似できない特別な声。再び麦くんとannieさんが加わり、3人のアンサンブルに。

ちみんさんの小さな宝石のようなオリジナル曲と「Moon River」「The Water Is Wide」「蘇州夜曲」、アンコールは宮澤賢治の「星めぐりの歌」。ノスタルジックで優美なアコーディオンの音色。フラットマンドリンの繊細なパッセージ。長身痩躯のannieさんの柔らかな存在感は、まるでケルト神話の妖精のようです。

どの瞬間も静かに光を放っている。寒い冬の午後にあたたかく灯る美しい音の波に身を委ねているうちに、あっという間に90分の幸福な時間が過ぎました。

ご来場のお客様、JAZZ喫茶映画館の吉田ご夫妻、才能溢れる3人の音楽家のみなさん、どうもありがとうございました。こんな時間をまた皆で共有できたら幸いでございます。


2016年1月21日木曜日

Poemusica Vol.46

僕にとっては2016年最初のライブ。下北沢Workshop Lounge SEED SHIPでPoemusica Vol.46 が開催されました。

サトーカンナさん。ギターのウエグチサトシさんと。解放弦を効果的に絡めた8ビートのアルペジオにループステーションで多層的に声を重ね、1990年代UKサウンドを思わせるオープンニング。かと思えば、ブルージィな展開やポップな曲調もあり、音楽的な引き出しの多さを感じます。アンニュイな表情のボーカルとクリスプなギターが補完し合う息の合ったデュオ演奏でした。

riry*monaさん。まつ毛が超長い。ショートカットのゆるふわ美少女的ビジュアルで、ハイテンション。ギター大和田亮さん、パーカッション小久保里沙さん、ピアノはソロでPoemusicaに何度かご出演いただいたこともあるはらかなこさん。そんな強力布陣に全く負けていないボーカル。さらさらと抜けの良い高音とコアのある中音域、天性のポジティブネスで客席を明るく照らす。

札幌に活動拠点を移してから、約3年半ぶりにPoemusicaに帰ってきてくれた田野崎文さん。身長175cmのモデル体型(画像参照)、ハスキーで翳りがある歌声。すこし大人になって、こんなに優しいピアノの音が出せるようになったんだなあ、と驚きました。オフは気さくな方ですが、ステージではいつも静寂をまとったような雰囲気があって、彼女が歌うと会場の空気がしんと落着きます。
 
僕は3組のアクトの前に1篇ずつリーディングしました。12/26~2/13のライブ限定「クリスマス後の世界」、2日後にお誕生日を迎えるSEED SHIPスタッフわかちゃんに「バースデーソング」、そして「新しい感情」。この詩は2012年夏に田野崎文さんに歌詞提供したときに自分用に書き直した作品です。続けて文さんが彼女の「新しい感情」をアカペラで歌ってくれました。

カンナさんは青森、riry*monaさんと文さんが北海道出身ということで、僕的ガールズフロムノースカントリー祭。リハーサルから楽屋から終始和やかで笑顔の絶えないライブに。ご来場のお客様、共演者のみなさん、会場スタッフのおふたり、ありがとうございました。

Poemusicaは2月はお休みして、次回Vol.47は3/6(日)の夜開催。いおかゆうみさんが大阪から歌いに来てくれます。SEED SHIP開店5周年の記念日です。平日はなかなか足を運べないという方も是非!

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Poemusica Vol.47 ポエムジカ*詩と音楽の夜

日時:2016年3月6日(日) Open18:00 Start18:30
会場:Workshop Lounge SEED SHIP
    世田谷区代沢5-32-13 露崎商店ビル3F
    03-6805-2805 http://www.seed-ship.com/
    yoyaku@seed-ship.com
料金:予約2,500円・当日2,800円(ドリンク代別)
出演:いおかゆうみ(大阪)
    梨帆
    桂有紀乃
    おつかれーず
     カワグチタケシ

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2016年1月11日月曜日

ガラクタの城 vol.2

成人の日の夜は新高円寺STAX FREDへ。『新春!mue solo one-man live 「ガラクタの城 vol.2」』に行きました。

まず前半はエレピで9曲。最近では毎年4月11日周年ライブ以外はほとんどギターなので、mueさんのピアノ弾き語りをまとめて聴く機会はレア。かなり新鮮です(そういえば4年前にはじめて共演したときはアップライトピアノを弾いていました)。左手のクラヴィコードと右手のオルガン音に3声のコーラスをループさせて、コーダは逆回転サウンドというホワイトアルバム的サイケデリックな構成。

前半終わりは観客のハンドクラップに乗せて即興ソング。普通ならステージのミュージシャンが主導するところですが、イニシアチブはなぜか客席にある(笑)。

「だけど言いたいことは全部言っておきたい性格」(笑ってほしい)。

後半はいつものガットギターに持ち替えて、新曲も蔵出し曲もヒットパレードも並列に。ステージから「…楽しい?」って聞かれて、笑顔で大きく頷く僕ら。

完璧なライブなんてものは存在しない(完璧な絶望が存在しないようにね、と村上春樹なら付け加えるところ)。我々観客だって、完璧な演奏を聴きたいのならCDやレコードを聴けばいい。むしろ小さな綻びやためらいや言い淀みに演奏家の人間性を見る。そのためにライブに行くのだといっても過言ではない。

「なぜなら伝えたいことがひとつあるの。その鍵で扉が開く」(無題の新曲)。

だったらその綻びやためらいや言い淀みの部分を抽出し増幅させて、生のまま提示してみたらどうなるのか。自信なさげな姿を堂々と見せたっていいんじゃない? で、実際にやってみたら、予想を超えるチャーミングな何かが生れてしまった。そんなライブ。

それはもちろん曲の良さや透明感溢れる歌声、卓越した演奏力があってのことですが。周年ライブの細部まで構築されたエンターテインメント性と普段のブッキングライブのタイトなミュージシャンシップ、そしてこの『ガラクタの城』の魅惑のガラクタ感。トータルで見たらやっぱりmueさんは、優れたバランス感覚を持つ大人のミュージシャンなんだなあ、と思いました。


2016年1月10日日曜日

母と暮せば

暖冬ですね。ユナイテッドシネマ豊洲で、山田洋次監督作品『母と暮せば』を観ました。

1948年8月の長崎。坂の上に住む助産婦伸子(吉永小百合)のもとに3年前の原爆投下で亡くなった医大生浩二(二宮和也)が現われる。

井上ひさしの戯曲『父と暮せば』の翻案ではありますがオリジナルストーリーといって差支えないと思います。「父」では広島の原爆投下で亡くなった父親がひとり暮らし娘の押入れに住んでいる。2004年に黒木和雄監督が宮沢りえ原田芳雄で撮った劇場版映画は名作です。

浩二は伸子の見ている幻影であり、実際には伸子の内面の葛藤を表している。葛藤とは、死んだ息子を通して共依存関係にある浩二の恋人町子(黒木華)とのリレーションシップを継続するか否かにある。

その葛藤の解決に向けて物語が収斂していく以上、あのエンディングは不可避とも言えるのですが、天使の合唱のなか被昇天というあまりにヘヴンリィな演出に対しては疑問を禁じ得ませんでした。被曝後遺症の悪化が示唆されているものの、ジェノサイドにより家族を失い、そのことで得た疑似家族さえも去ったあと、孤独を生きる姿を描いてほしいというのは求め過ぎなのでしょうか。

8月9日の原爆投下は、当初小倉が標的であったが、天候不順により長崎に変更された。投下直前のB29爆撃機内の緊迫感と地上の路面電車の通学風景の日常性の対比。そのふたつを被爆の瞬間の光線と轟音が一気に結びつけ崩壊させる。冒頭数分のモノクロ画面は、戦争の非情さ、理不尽さを存分に描いた素晴らしい演出です。

キリスト教会や高台から見下ろす長崎の街並みを切り取るカメラワークは流石の安定感。坂本龍一のサウンドトラックもヘンデルからシェーンベルクに至る古典音楽の系譜を俯瞰したかのような小編成弦楽アンサンブル中心の大変美しく感動的な音楽です。


2016年1月6日水曜日

"Kitchen Table Music Hour vol.4"

僕が普段自宅や移動中聴いている音楽を「いかがですか」と、親しい人たちに丁寧に手渡すような小さな音楽会 "Kitchen Table Music Hour"を、1年半ぶりに開催します(僕は出演せず、企画とプロモーションのみです)。

ちみんさん古川麦さん中村大史(annie)さん。素晴らしい音楽家たちを皆様にご紹介できることがなにより幸せです。真冬の土曜日の午後、坂のある街、猫のいるジャズ喫茶へ。皆様お誘いあわせの上、是非お越しください!

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カワグチタケシ presents "Kitchen Table Music Hour vol.4"

日時:2016年1月23日(土)  Open15:00 Start15:30
出演:ちみん 歌とギター
     古川麦 歌とギター
     中村大史(annie) ギター、マンドリン、アコーディオン、etc.
会場:JAZZ喫茶映画館 〒116-0013 東京都文京区白山5-33-19
    03-3811-8932 http://www.jazzeigakan.com/
料金:無料(1drink order)+投げ銭
※会場の地図はこちら

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ちみん 
大阪出身、在日コリアン3世。2004年11月にミニ・アルバム『ゆるゆるり』でデビュー。CD『ぽむぽむ』『みつけてあげよう』『住処』他。素晴らしい美声の持ち主。特にファルセットの美しさは筆舌しがたいです。ジャジーでソウルフルでクリア。静かに降る雨のように心地良い。その歌声には過酷なバトルフィールドを通過して自分の居場所を見つけた人だけが持つ静謐さと包容力があります。⇒YouTube「チョコレート

古川麦 
ギター弾き語りのほか、Doppelzimmer表現(Hyogen)ceroあだち麗三郎クワルテッットなど。CD『voyage』『far/close』他。確かな演奏力を持つギタリストとしても複数のプロジェクトで活躍中。フォルクローレ、ルーツミュージックに対する深い愛情、誠実なソングライティング、訥々とした歌声には青さと成熟が同居している。なにより音楽そのものにスピード感とグルーヴがあります。⇒YouTube「Green Turquoise

中村大史(annie) 
tricolorJohn John FestivalO’Jizo等、数々のアイルランド音楽バンドのメンバーとして活躍する一方、シンガーソングライターやバンドのライブや録音に多数参加している。今回は旧知のふたりのサポート役としてミュージシャンシップを発揮してくれます。⇒YouTube tricolor「Sing Bird

JAZZ喫茶映画館
都営地下鉄三田線白山駅下車A3出口裏徒歩1分。1978年開店の老舗ジャズ喫茶。マスター手作りの真空管オーディオシステムとネルドリップコーヒー。壁にはヌーベルバーグのポスターと沢山の振り子時計がチクタク鳴っている。猫もいます。⇒YouTube

"Kitchen Table Music Hour"は投げ銭制ですので、ご予約は不要です。おしまいまで聴いても夕飯のお支度に間に合う設定になっています。皆様のお越しをお待ちしています!



2016年1月3日日曜日

ストレイト・アウタ・コンプトン

ひとりで映画館に行くという行事が正月三賀日の恒例となってまいりました。今年はユナイテッドシネマ豊洲で、F.ゲイリー・グレイ監督『ストレイト・アウタ・コンプトン』を観ました。

舞台は1986年、LAの貧困地域コンプトン。17歳の高校生アイス・キューブオシェイ・ジャクソンJR.)はスクールバスで通学中、大学ノートにラップのリリック(歌詞)を書き貯めている。Dr.ドレーコーリー・ホーキンス)は21歳の子持ちクラブDJ、ギャラは一晩50ドル。イージーEジェイソン・ミッチェル)22歳、クラックのプッシャーとしてLA市警にマークされている。

ある晩クラブの駐車場で弟の喧嘩の仲裁に入ったドレーは警察に見咎められて留置される。保釈金を払ったイージーに「俺の音楽に投資しないか?」と持ちかけた。そこから始まる20世紀最大のギャングスタHIPHOPグループ N.W.A. (Niggaz Wit Attitudes)の栄光と転落、裏切りと和解の物語。

オシェイ・ジャクソンJR.はアイス・キューブの実子であり、またアイス・キューブ本人とDr.ドレー、トミカ・ウッズ・ライト(イージーEの未亡人で管財人)が制作に名を連ねているが、当人たちを美化し過ぎることもなく、且つ事実には忠実に、リアリティある作品になっているのは、当時からストリートのリアリズムを標榜していた姿勢に恥じないものです。

前半は青春サクセスストーリーとしての爽やかさがあり、後半のメンバー間の確執とイージーEの病死間際の和解も情緒に流れることなくテンポ良く見せます。きっちりエンターテインメントに仕上げてくるところはさすがDr.ドレー。というより、歌詞や言動の過激な側面ばかり強調されがちな N.W.A というグループが実はサービス精神旺盛な最上級のパーティバンドであったのだと思います。

悪役にポール・ジアマッティを起用したこともあり、どちらもカリフォルニアの光と影を描いている点で、昨夏観たブライアン・ウィルソンの伝記映画『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』と共通したものを感じました。Dr.ドレーのトラックメイキングに対する偏執狂的な姿勢はブライアン・ウィルソンに通じるのかも。

N.W.A.のメンバーはみんな似ているし、それ以外に2PACスヌープ・ドギー・ドッグなんかもそっくりさんが出てきて(見つけられなかったけどチャックDもいたみたい)、1980~1990年代にヒップホップを体験した世代ならきっと楽しめます。映画館の重低音の効いたサウンドシステムで観ることをお勧めします。