舞台は1980年代のアイオワ州エンドーラ。草原の真ん中にぽつんと建つ家にギルバート・グレイプ(ジョニー・デップ)は家族と暮している。
父親は7年前に自殺し、ショックで母親(ダーレーン・ケイツ)は過食になり、200kg超の巨体で何年も家を出ていない。弟アーニー(レオナルド・ディカプリオ)は重度の知的障害のあるトラブルメイカー、高校生の妹エレン(メアリー・ケイト・シェルハート)は生意気盛り。姉エミー(ローラ・ハリントン)が家事を担い、小さな食料品店で働くギルバートと家庭を支えている。
10歳まで生きられないと医師に診断されたアーニーが18歳の誕生日を迎える6日前。ベッキー(ジュリエット・ルイス)と祖母(ペネロープ・ブランニング)がトレーラーハウスでエンドーラに現れる。誰もが通り過ぎるだけの町だが、キャブレターの故障により町外れの湖畔にしばらく滞在することになる。
「音楽のないダンスのような町」と自ら評する故郷で自我を殺して家族のために生きるギルバートは、「見た目はどうでもいい、何をするかが問題なの」というベッキーに望みを尋ねられても「妹が大人になること、ママにはエアロビクス、アーニーには新しい脳」と家族のことしか思いつかない。自分は? と再度促されてやっと絞り出した答えが「いい人間になりたい」。
ギルバートは誰に向かってもけっして問いを投げることをしない。諦観しすべてを受け入れようとしている。1993年の制作当時にその呼称はなかったか、知られていなかったが、これはヤングケアラーの物語。
すべてのカットが美しく且つリアリティを持ち、無駄なシーンがひとつもない。役者たちが全員はまり役で完璧な芝居をして、カメラワークも音楽も素晴らしい。地平線まで何もない広大な景色が狭いコミュニティで生きる若者だちの閉塞感を増幅し、小さな気まずい事件が次々に起こるのだが、最終的に心温まり優しい気持ちになれるという奇跡の一本。
VHSに始まってDVDやBS放送も含め7~8回は観ている作品で、ディカプリオの早熟の天才ぶりに都度圧倒されてきましたが、今回あらためて映画館の大スクリーンで観て、ジョニー・デップの繊細な演技と美術の精妙さに感動しました。
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