2021年12月27日月曜日

ジョン・コルトレーン/チェイシング・トレーン

クリスマスの翌々日。ヒューマントラストシネマ有楽町ジョン・シャインフェルド監督作品『ジョン・コルトレーン/チェイシング・トレーン』を観ました。

1957年、NY市グリニッジ・ヴィレッジのナイトクラブ、カフェ・ボヘミアマイルス・デイヴィス(tp)の第1期クインテットの演奏シーンから映画は始まる。モダンジャズのレジェンド、ジョン・コルトレーン(ts、ss)が1967年に40歳の若さで肝臓ガンにより亡くなるまでの約10年間を記録したドキュメンタリーフィルムです。

1926年生まれのコルトレーンが最初に影響されたのはチャーリー・パーカー(as)。第二次世界大戦の終戦後に徴兵され、海軍軍楽隊でキャリアをスタートさせる。退役後、ディジー・ガレスピー(tp)の楽団に加わるがヘロインで首になり、マイルス・デイヴィスのところもヘロインで首になり、自力で薬物を絶って再びマイルスの元で歴史的名盤 "Kind Of Blue"(1959)に参加する。その後独立し自身のコンボを率いてジャズの新しい地平を切り開く。

わずか10年余りの期間で、ビバップ、ハードバップ、クール、モード、フリージャズ、とモダンジャズの歴史を次々に塗り替えていった。

今や数少なくなった同世代のミュージシャン、継娘、3人の実子、研究家、コレクターがエピソードを語るのだが、神経質で天才肌の無口な芸術家という先入観が覆され、温厚で勤勉な努力家という一面が浮かび上がってきます。祖父はふたりともメソジスト派の牧師だったが、キリスト教以外にイスラム教や仏教、神道にも興味を持っていた。それが晩年(といっても30代後半)のスピリチュアルな作風に影響していたのは間違いないでしょう。

二人目の(そして最後の)妻アリスはジャズピアニストでサイババ信者。ニューポートジャスフェスティバルの凄まじいインタープレイが聴けます。コルトレーンは郊外の穏やかな暮らしの中で家事をするアリスに捧げる詩をいくつも書いた。

コメンテーターでは、真っ赤なニットキャップと同色のシャツを着て草臥れたサンタクロースみたいな90歳のソニー・ロリンズ(ts)のインパクトが半端ないです。

 

2021年12月26日日曜日

クリスマスの翌日に

クリスマスの翌日に、下高井戸のぎゃるりでんぐりさんで、さいとういんこさんとの二人会 Poetry Reading Live "On Second Day After Christmas"クリスマスの翌日に』に出演しました。

僕にとっては、2021年唯一の有観客ライブになりました。ご来場のお客様、ぎゃるりでんぐりのオーナー詩子さん、2020年末の『クリスマスの翌々日に』につづき誘ってくださったいんこさん、あらためましてありがとうございます。

1.
4. きんぴら(滝沢カレンカレンの台所』より)
5. アテネの学堂 ~Whitney Houstonに(新作)
6. 警鐘 ~Billie Eilishに(新作)

定番のウィンターソングに加え、現在制作中の連作詩「過去の歌姫の亡霊」から2篇とカバーをひとつ朗読しました。「過去の歌姫の亡霊」は、近年劇場で鑑賞したドキュメンタリー/伝記映画に基づいており、このあとAretha FranklinJanis JoplinJudy GarlandBillie Holidayが控えています。どうぞお楽しみに。『カレンの台所』はレシピ本ですが、文体が詩的でフレッシュで躍動感溢れ楽しいので、是非みなさん書店や電子書籍で読んでみてください。

さいとういんこさんは今年たくさん書いたという短編小説からの一作「一緒に暮らそう」を中心に、主宰するアートエデュケーションスクエアのワークショップから生まれた詩作品、最近blogで発表している一行詩のRemixと、2021年末らしいセットリストでした。

去年いんこさんと作った連詩「クリスマスの翌々日に」と、今年作った連詩「クリスマスの翌日に」をふたりで朗読したほか、我々の共通の友人で先月入籍したカップルにご来場いただいたので吉野弘の「祝婚歌」を贈りました。

今年設けた希望者が持参した詩を朗読するコーナーは、限定10名様のうち5人が参加してくださいました。人前で初めて自作を読むという方がふたりいて、この日この場をデビュタントに選んでもらえたことがうれしかったです。オープンマイクからは数年遠ざかってしまっていましたが、それぞれの声、それぞれの語り口で発せられる言葉を聴くことの幸福感が蘇りました。

2021年の詩の仕事はこれにて終了。既に来年決まっているライブもあり、現状の環境を踏まえよりよい接点を考えていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。


 

2021年12月21日火曜日

ラストナイト・イン・ソーホー

冬至前日。新宿バルト9エドガー・ライト監督作品『ラストナイト・イン・ソーホー』を観ました。

主人公エロイーズ・ターナー(トーマシン・マッケンジー)は英国南西端の辺境コーンウォール州レッドルースで祖母と二人暮らし。自死した母親の姿が見える霊能力を持つ。

母も目指した服飾デザインを学ぶため、ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションに入学したが、ルームメイトでマンチェスター出身のジョカスタ(シノーブ・カールセン)はじめハイファッションをまとったパリピ的ライフスタイルの同級生たちに馴染めず、シャーロット通りの学生寮を出て、グージ通りのヴィンテージ物件を借りる。

古いフラットの第一夜、憧れの1960年代スウィンギンロンドンに夢で迷い込む。シラ・ブラックベス・シン)が歌うカフェドパリで出会った歌手志望のサンディ(アニヤ・テイラー=ジョイ)に自己投影する。

サンディは芸能マネジャーのジャック(マット・スミス)に自ら売り込みカフェドパリより若干小さいリアルトの舞台に職を得るが、求めていたセンターではなくバックダンサーで、裕福な中年男の客を取らされる。サンディの境遇が厳しくなるにつれ、エロイーズも悪夢にうなされるようになり、やがて現実生活を侵食していく。

エロイーズが実家の部屋のポータブルプレーヤーでピーター&ゴードンのドーナツ盤を大音量で流し自作の新聞紙ドレスで踊る華やかなオープニングに惹き込まれる。ロンドンへ移動する列車ではbeats by Dr.Dreのヘッドホンからザ・サーチャーズ。1960年代UKヒッツに彩られた本作は、後半のホラー展開においても軽快なポップチューンが流れ、それが逆に狂気を強調しています。南ロンドン出身のアフリカ系同級生ジョン(マイケル・アジャオ)のジェントルな優しさが救い。

バリー・ライアン "Eloise" やデイヴ・ディー・グループ "Last Night In Soho" の物語とのシンクロ。サンディがオーディションで歌うペトゥラ・クラークの "Down Town" は『17歳のカルテ』のオマージュなのかな。サンディ・ショウダスティ・スプリングフィールドという僕が偏愛するUK60'sアイドル2トップの歌声がたっぷり聴けるのもうれしい。

煌びやかなナイトクラブに場違いなスウェットのルームウェアのエロイーズがピンクのミニワンピースのクールなサンディと同化するシーンの鏡を使った入れ替わりの演出がスタイリッシュです。

 

2021年12月7日火曜日

ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド


1987年9月12日に英国メロディメイカー紙に掲載されたザ・スミス解散。米国コロラド州デンバーでスーパーマーケットに勤務するクレオ(ヘレナ・ハワード)はアルコール依存症の母親がソファで眠りこけるリビングでつけっぱなしのテレビからその一報に触れ家を飛び出す。

マドンナワナビーのシーラ(エレナ・カンプーリス)のボーイフレンドのパトリック(ジェームズ・ブルーア)はメイク男子。モリッシーに心酔し肉食とセックスを絶っていてシーラは欲求不満。クレオに恋するビリー(ニック・クラウス)は翌日に入隊を控えているがオナニーばかりしている。

錆だらけのフォルクスワーゲンでクレオが向かった先は地元のレコードショップ。店員ディーン(エラー・コルトレーン)もスミスファン。愛するバンドが解散したのに町は普段通り、と憤懣をぶつけるクレオ。ディーンもまたひそかにクレオに想いを寄せていた。

高校を卒業したばかりの4人、クレオ、シーラ、パトリック、ビリーが自棄になってパーティをハシゴしているとき、ディーンはスミスのLP、12inchと拳銃を持ってローカルFM局に押し入り、アリス・クーパーのTシャツを着たHR/HM系中年DJフルメタル・ミッキー(ジョー・マンガニエロ)にオジー・オズボーンを止めさせ「スミスの曲をかけ続けろ」と脅迫する。


80年代UKロックファンのあいだでは伝説的な実話に基づいたストーリーをスミスの名曲を章題に4幕の青春群像劇にしています。アメリカの郊外の労働者階級の閉塞感がけっして明朗とはいえないが精緻で美しいスミスの楽曲群に彩られ、登場人物の心情に音楽がシンクロし、台詞にも歌詞が引用されて、ファンにはたまらない一本になっていると思います。

はじめはスミスを毛嫌いしていたが何時間も聴かされるうちにすこしだけその魅力に気づき、徐々に心を開いて息子のような歳のディーンに自身の半生を訥々と語りかけるフルメタル・ミッキーの優しさが沁み、自分もそっち側に来たんだなと感慨深いです。

リアルタイム世代なので、東京のクラブにもマッチョな黒人のドアマンがいたなとか、ブロンスキ・ビートとか、まあ懐かしくはあります。UKインディー系バンドでは、ザ・スミス、ザ・キュアエコー&ザ・バニーメンが人気を三分しており、僕はエコバニ派でした。

モリッシーの独特な声と歌詞、ジョニー・マーの多彩で煌びやかなギターはもちろんですが、映画館の大音響で聴くとマイク・ジョイスのドラムスとアンディ・ルークのベースがタイトでヘヴィでグルーヴィで素晴らしく、演奏力の面でもザ・スミスが希有なバンドだったことがわかる。モリッシー&マーのインタビュー映像も流れ「スミスのメンバー以外に友だちはいない」というモリッシーの言葉が泣けます。


2021年12月1日水曜日

EUREKA/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション


エウレカ・サーストン名塚佳織)は、情報生命体スカブ・コーラルが人間と対話するために作り出した人型のコーラリアン。自らもスカブを生成する能力を持っていたが、前作『ANEMONE』を最後にその力は失われた。

それから10年の時を経た2038年、24歳になったエウレカは独立師団無任所部隊A.C.I.D.(アシッド)の人型戦闘ロボットKFL(Kraft Light Fighter)を操る特殊戦闘員として、その恐れを知らないバトルスタイルから「鋼鉄の魔女」と呼ばれるようになった。

同じく24歳の石井風花アネモネ小清水亜美)はA.C.I.D.の機動部隊ブエナ・ビスタ機艦長を命じられ、かつて敵対し和解したエウレカとは同僚としてだけでなく友情でも結ばれている。

ハイエボリューション1』『ANEMONE』に続く劇場版三部作の完結編にあたる本作で、エウレカの任務は少女アイリス遠藤璃菜)を敵から救助し護衛すること。そしてかつてのエウレカと同じ特殊能力を持つアイリスとの逃避行が始まる。

前二作と比較してカウンターカルチャー、特に英国RAVEカルチャーに対するオマージュの度合いは低い。そのかわりRolandがスポンサーについたことでブランドロゴが頻出し、A.C.I.D.の管制室のコンソールのデザインはTR-606TB-303そのものです。統合政府軍の戦闘ロボットの名称ラブレスMy Bloody Valentineからか。その他に、白くまアイス森永製菓甘酒缶を登場人物が飲食するカットがありました。

このシリーズは設定が複雑で時間軸が並行し展開が早く情報量が多いため、とかく難解で本筋が見えにくいと言われがちですが、現実世界の訳の分からなさと比較したらそんなものじゃないかな、という感じがします。そもそも現代の映画観客の価値観が「わかりやすさ」に偏重し、理解できないものを排除する傾向に危機感を覚えるので、わからなさと美を両立させ、且つバイダイナムコや森永製菓、Rolandはじめメジャーなスポンサー企業を得て完結させ制作陣に賛辞を贈りたいと思います。