2020年7月24日金曜日

ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語

長梅雨。TOHOシネマズ六本木ヒルズグレタ・ガーウィグ監督作品『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』を鑑賞しました。

1870年代のNY。原作では『続若草物語』の時代。文芸誌ボルケーノに短編の原稿を持ち込んだ主人公ジョー(シアーシャ・ローナン)は編集者ダッシュウッド(トレイシー・レッツ)に「主人公が女なら最後は結婚させるか死なせること」と言われる。

舞台は7年前の『若草物語』期にさかのぼり、南北戦争中のマサチューセッツ州コンコード。姉妹劇で主演を務める長女メグ(エマ・ワトソン)は心配性、おてんばな文学少女の次女ジョー、病弱でピアノが上手い三女ベス(エリザ・スカンレン)、絵が得意でヨーロッパに憧れる四女エイミー(フローレンス・ピュー)。十代の四姉妹と母親(ローラ・ダーン)が暮らす家。

ガーウィグ監督とシアーシャ・ローナンの組み合わせは『レディ・バード』に続き2作目。脚本も監督自身が手がけていますが、現実と記憶を往復するときのトリガーがエピソードに自然に組み込まれており、上手いなあ、と思いました。

『若草物語』の主人公ジョーは原作者ルイーザ・メイ・オルコットの分身であり、オルコット自身は生涯独身を貫いたフェミニストだが、ジョーは小説のなかで結婚し家庭に入る。その原稿を持ち込む映画のジョーは未婚でコマーシャリズムのために物語の主人公を結婚させる。二重の入れ子構造となっています。

ベスが弾くブラームス、シューベルト、ショパンのクラシカルな響きに調和するコリン・ファウラーのスコア。ベートーヴェンのピアノソナタ第8番「悲愴」の使われ方もいい。2020年アカデミー賞衣装デザイン賞を受賞したカントリーテイストとエレガンスのバランスが絶妙なスタイリングが画面を重厚かつ可憐に彩ります。『追憶』でもそうでしたが、シアーシャ・ローナンのブルーの瞳にはブルーの衣装が映える。

ロングスカートでもシアーシャ・ローナンのランニングフォームは『ハンナ』のときと変わらず見事だし、隣家の豪邸の御曹司ローリー(ティモシー・シャラメ)は顔も性格もパーフェクトな王子様。ラストシーンが『若草物語』(原題:Little Women)の箔押し革表紙の初版本の製本過程というのもよかったです。

 

2020年7月19日日曜日

レイニーデイ・イン・ニューヨーク

4ヶ月ぶりに映画館へ。ユナイテッドシネマ豊洲ウディ・アレン監督作品『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』を観ました。

NY州北部のヤードレー大学に通う主人公ギャツビー・ウェルズ(ティモシー・シャラメ)は、アリゾナ州ツーソン出身の同級生で新聞部員アシュレー・エンライト(エル・ファニング)と付き合っている。

大物映画監督ローランド・ポラード(リーヴ・シュレイバー)の取材のアポイントを獲ったアシュレーに地元マンハッタンを紹介したいギャツビーだが、それぞれの身に起こるドタバタにつぎつぎ巻き込まれ、ふたりは物理的にも気持ち的にもすれ違ってしまう。

「現実は夢を諦めた人の住む世界よ」。アレン監督得意の洒脱な恋愛喜劇。タイトルの通り約1日の出来事で、背景にはいつも雨とジャズ。エロル・ガーナーの自作自演曲 "Misty" が主題曲ということになるのかな。元カノの妹チャン(セレーナ・ゴメス)のアパートメントでギャツビーがピアノを弾いて歌う "Everything Happens To Me" もチェット・ベイカーみたいで素敵です。

そして一夜の終わりにギャツビーの母(チェリー・ジョーンズ)が明かす自身の秘密がこのロマンチックコメディをビシっと締める。

タートルニットとミニ丈のプリーツスカートもエル・ファニングが着るとまったくもっさりしないしむしろ魅力的で強いなあ、と思いました。ラストシーン近くのセントラルパークを馬車で遊覧するときのニットポンチョとボルサリーノも最高にチャーミング。

アレン監督自身の養女に対する性的虐待疑惑により本国アメリカではお蔵入りしてしまい、出演を後悔しギャラをマイノリティ支援団体などに寄付するコメントが俳優陣のSNSで続出する曰くつきの作品になってしまいました。現時点ではあくまでも疑惑であり、たとえ敗訴したとしても、作者の罪を作品に償わせるべきではない、と僕は考えます。

 

2020年7月12日日曜日

ノラバーサンデーモーニングコンサートVOL.5

梅雨の晴れ間。約3ヶ月ぶりのブログ更新です。西武柳沢ノラバーで開催された配信ライブ、ノラバーサンデーモーニングコンサートVOL.5に出演しました。

視聴してくださったみなさま、ノラバー店主ノラオンナさん、ありがとうございました。

ノラバーでは毎週日曜日の夜に「生うたコンサート」という名前で食事付アンプラグドライブが開催されており、僕も5/24に出演予定でした。それが3月以降すべて延期になってしまい、6月から時間帯を午前中に変えてネット配信をするようになったのが「ノラバーサンデーモーニングコンサート」です。

ノラバーは店名はバーですが、ライブの日以外はモーニングとランチを出す喫茶をしています(現在はテイクアウトのみ)。JAZZ喫茶映画館で主催したライブ「The Last Day Of Our Vacation」の打ち合わせをノラバーで小夜さん、ノラさんとしたのがちょうど1年前。そのときごちそうになった白いトーストモーニングのおいしさが忘れられず、今回ひさびさの再会となったのです。

前半はトークライブ。といってもトーストやサラダ、ゆでたまごをいただきながら、ノラさんと他愛のない話をする。これが楽しかった。コロナ禍により不足していたことに気づかずにいた大切なもののひとつが他愛のない話だったのかもしれません。

約20分の朗読のコーナーでは「病院船」「Wedding Sings」の2篇を、ノラさんとのコラボ枠は港ハイライトの「やさしさの出口で」(作詞作曲ノラオンナ)の男声パートを朗読で女声パートをノラさん本人の歌で聴いていただきました。

昨今自分でもいろいろな配信ライブを視聴してきましたが、ひさしぶりに身近で聴く生うた生演奏が素晴らしくて、ウクレレの音色やノラさんの歌声が身体にすーっと沁み込むようでした。

途中機材のトラブルがあり、視聴者のみなさまを長時間お待たせしてしまい申し訳ございませんでした。すこし間を置いて再度生配信をしましたが、多くの視聴者のみなさまが根気よくお付き合いくださいました。

レス・ポールがはじめてソリッドボディのエレクトリックギターを弾いたとき、クラフトワークがはじめてライブ会場にパッチシーケンサーを持ち込んだとき。過去のテクノロジーの黎明期にも同じようなアクシデントがあったのだと思います。寛大な気持ちで時代の転換期にお立ち会いいただけたら幸いでございます。