2012年9月30日日曜日

王様とボク

暑かった9月も今日で終わり。台風の前の明るい午前、ユナイテッドシネマ豊洲で、やまだないと原作、前田哲監督『王様とボク』を鑑賞しました。注目の若手俳優が共演するこの映画。単館上映で、都内では新宿と豊洲だけ、という謎の配給。豊洲が舞台なわけではないです。

6歳のときブランコから落ちて昏睡状態にあったモリオ役に菅田将暉仮面ライダーW)、事故現場にいたふたりの幼馴染、ミキヒコ役にNHK朝ドラ『梅ちゃん先生』で全国区になった左利きの松坂桃李シンケンレッド)、トモナリ役に相葉裕樹シンケンブルー)。ジュノンスーパーボーイから戦隊モノのヒーローという王道キャリアを歩む3人。そしてモリオの恋人キエ役に二階堂ふみ

12年間の昏睡期間に身体だけが成長し、精神的には6歳のまま。それでも、親友の長い眠りからの目覚めを屈託なくよろこび、共に生きていこうとするミキヒコ。「忘れたりしねえよ、だいたいのことは。忘れたふりしてんだよ」と、最後までモリオと会おうとしないトモナリ。「お前らは何か起きないと面白くないんだろ。俺は何も起こんなくても面白いんだよ」と屈託ありまくり。

そんな男子3人のがんばりにもかかわらず、映画全体の印象をひとりで攫ってしまう二階堂ふみの大物女優ぶり。『ガマの油』といい、『熱海の捜査官』といい、『ヒミズ』といい、無邪気で、天真爛漫で、傍若無人に人の気持ちに土足でずかずか踏み込むような役を演じたら当代一。なので、無邪気で、天真爛漫で、傍若無人な女子に土足でずかずか踏み込まれたい人は必見。

板倉陽子のカメラワークは淡く明るく優しい光に満ち、川内倫子の写真集をめくっているみたい。吉岡聖治のサウンドトラックと調和して、静謐な画面を構成しています。主人公たちの衣装もお洒落な、約80分の可憐な小品。

 

2012年9月29日土曜日

Thousandth Kitchen Revue

2007年秋に小森岳史と始めたポエトリー・リーディング・ショー"TKレビュー"が6回目を迎え、今回もレアな女子ゲストをお迎えして、10月8日体育の日、谷中に帰ってきます。
小森岳史カワグチタケシのイニシャルはともにTK。ということで名づけたTKレビュー。現在ほぼ年一回のペースで開催しています。

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芸工展2012勝手に協賛企画
Double Takeshi Production Presents Poetry Reading Series vol.06
Thousandth Kitchen Revue(サウザンス・キッチン・レビュー)

日時:2012年10月8日(月・祝) Open 17:30 Start 18:00
会場:古書ほうろう 東京都文京区千駄木3-25-5 03-3824-3388 
料金:1000円
出演:豊原エス児玉あゆみ小森岳史カワグチタケシ 

■会場の地図はこちら
■TKレビューのアーカイブはこちら

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僕個人の最近の活動としてはミュージシャンとの共演が多かったのですが、今回のライブは全員が詩を朗読します。

豊原エスさんは京都から。左京区サブカルシーンには欠かせない一人。東京でのライブはひさしぶりです。

16歳の児玉あゆみさんの登場は衝撃的でした。あれから8年。最近はライブを控えめにしていましたが、2年ぶりに表舞台に立ちます。

会場の古書ほうろうは千駄木の名店、不忍ブックストリートの中心的な存在。本好きな人なら必ず掘り出し物に巡り合えるお店です。

この日前後は芸工展2012という、谷中、根津、千駄木エリアの各所、カフェやギャラリー、アパート、銭湯、神社仏閣で、たくさんのアートイベントが開催中です。秋の下町散策のついでに、皆様お誘いあわせの上、是非ご来場ください!




2012年9月22日土曜日

村田活彦 poetry reading ソロライブ 2012秋

清澄白河を流れる掘割、小名木川が隅田川に接続するポイントにかつてあった深川芭蕉庵は『奥の細道』の出発地です。その一角にあるそら庵は、木造の印刷工場を改装した、インクの匂いの残るカフェ。村田活彦さんのソロライブで受付と物販のお手伝いをしました。

5月の「新・同行二人」では、ギターの生演奏をバックに朗読していましたが、今回は自作の打ち込みトラックを全編に使用。これが、70~80年代のブラックコンテンポラリーをベースにした緻密なつくりのもので、とてもオーソドックスであることが、リーディングの特異性を引き立てていました。

村田さんの声は、明るく、良く通り、色気があって、滑舌が良く、朗読の技術も確かなので、ひとつひとつの言葉がきちんと聞き取れます。ヒップホップのグルーヴとも散文朗読の流れの心地良さとも違う、何か過剰に農耕民族的とでもいうような響きがあり、その異物感、滑稽味が特徴です。囃子のリズムに乗せた「星まつり」で特にその感じが際立っていました。

技術があるがゆえに無難に流れてしまう部分もあるのですが、「Tシャツのこと」の終盤にピアノの旋律とユニゾンで「ラララララランラン、ランラランララン」と鼻歌のような心許ない声で唄うところ、「詩人の誕生」でめずらしく噛んで言い澱むところ、急に素に帰るそんな場面が妙にリアルで、記憶に残りました。

トラックを収めたiPod nanoの選曲をするときのカタカタいう音、モータードライブのシャッター音、上階のfukagawa bansho galleryを歩く頭上の足音、窓の外のカモメの鳴き声。朗読以外のいろいろな小さな音にも耳をすませた約100分のパフォーマンスでした。

そんな村田活彦さんと僕が共演するライブが、前回エントリーでご紹介した"Poemusica Vol.10"の2日後、10/20(土)にもうひとつ。下北沢Lagunaで開催されるミュージシャンによるスポークンワーズと洋楽の邦訳カバーがテーマのライブ"Naked Songs"のオープニングアクトを務めます。どうぞよろしくお願いします!

 

2012年9月20日木曜日

Poemusica Vol.9

東京の蒸し暑さも今日まで。そんな The last day of Summer。下北沢Workshop Lounge SEED SHIPで"Poemusica Vol.9"が開催されました。

中村ピアノさん。『魔女の宅急便』のキキみたいな(自己申告ベース)黒のワンピースに大きなリボンカチューシャ。ぎざぎざの短い前髪の下には大きな瞳。真っ白な肌ときれいな歯並び。どこをとっても愛らしいお嬢さんですが、小柄で華奢な身体から繰り出すレンジの広いピアノと良く通る澄んだ声でダイナミックに聴かせます。あえて不協和音を鳴らす勇気もあって。曲調もバラッド、ロックンロール、ワルツと多彩ながら、一本筋の通ったところがあるのは、歌詞の主人公のキャラクタライズがしっかりしているからなのでしょう。ベースとドラムスを加えたトリオpique(ピケ)でも活躍中です。

Dancing Rabbitのギター&ボーカル、Shuhei Yasudaさんは北海道出身の24歳。スチール弦のアコースティックギターとループステーションで複雑なリフを作り、内省的な歌詞をときには囁き、ときには力強く重ねていきます。ボーカルの振れ幅の大きさはシューゲイザーやグランジの影響を感じさせますが、サンプリングマシーンを通していても、とても人間的で荒削りなリズム。時折ブルージィなトーンを垣間見せる演奏を聴きながら、なんとなくBECKの超初期のアルバム"One Foot in the Grave"を思い出していました。

background of the musicは、ギターの田中幹人さんと、キーボードの松本径さんのインストゥルメンタル・デュオ。ふたりとも大阪出身で現在は東京在住です。ガットギターとエレピのソフトな音色で、完璧に息の合ったアンサンブル。優しく、穏やかで、ピースフル。数多くのアーティストたちをサポートしてきた実力のあるミュージシャンですが、けっして音を詰め込むことなく。まるで腕利きの料理人が丁寧に丁寧にアクを掬って澄みきった出汁を取るように、極限までエッジを排除した音楽は、逆にエロティックですらあります。

ツアー先からの高速バスがひどい渋滞に巻き込まれたLittle Woodyですが、なんとか本番に間に合いました。いろいろな架空の動物たちが登場する、センス・オブ・ワンダーに満ちた新作ショートアニメ『YONONAKA』よかったです。

僕は今回は「月」が出てくる詩を3篇。「無題(静かな夜~)」。新作の「虹のプラットフォーム」。そして「水の上の透明な駅」では、background of the musicのおふたりに音楽をつけていただきました。本番数分前にご提案をもらい、作品を読んでくださって、リハーサルなしで、ぴったりの音を奏でる姿に、幾多の過酷な現場をこなしてきた匠の技を見る思い。とても気持ち良く朗読させていただきました。ありがとうございます。

ポップミュージック、ロック、インストゥルメンタル、映像、詩と、異業種が交錯するPoemusicaの楽屋は、楽しいカオスになること多々。この日は、ジブリと登山とゆとり世代と猫と江東区(松本さんと僕の地元)の話で楽しく盛り上がりました。

さて、次回"Poemusica Vol.10"は、10月18日(木)の開催です。Poemusica Vol.4で伝説的な演奏を聴かせた"焚き火バンド"不動のセンターmoqmoqことオカザキエミさんがソロで、そして村田活彦さんの出演が決まり、はじめての詩人2名体制で皆様をお迎えします。どうぞよろしくお願いします!

2012年9月16日日曜日

トリオラのリリパ

このブログでは何度も紹介している作編曲、ヴァイオリンの波多野敦子さんとヴィオラの手島絵里子さんによる最小単位弦楽アンサンブルtriola。彼女たちが、triola名義としては最初のアルバム"Unstring,string"を5月にリリース。『トリオラのリリパ』が原宿VACANTで開催されました。

アットホームな雰囲気のパーティ。個性的な食材を複数の出汁で料理する波多野さんの手際に、画家の足田メロウさんやダンサーの木村英一さんといっしょに、波多野さんのご自宅の鍋に招かれたときのことを思い出しました。

そんなパーティムードを反映してか、今日のtriolaはノイズを封印。新譜に収録されている楽曲を中心に、ひたすら美しく優雅に演奏します。インスト曲はふたりで、ボーカル曲はトオヤマタケオさんのフェンダー・ローズ(電子ピアノ)と千葉広樹さんのウッドベースを加えて。

実はtriolaのライブをPAを通して聴くのははじめてだったのですが、いつものふたりのtriolaも四人編成も素晴らしかった。ヴァイオリンとヴィオラの中高音域だけで構成されるデュオの面白さ。ベースの低域とローズの柔らかな和音が重なることで生まれる落着きと拡がり。波多野さんの歌声はヴァイオリンの演奏とは対照的に、決して強いものではないのですが、その繊細さを良く引き立たせる抑えの利いた演奏でした。ただ、ひとつだけ残念だったのは、会場のサイズに比して音量が小さかったこと。とても綺麗な音で、聞こえづらくはありませんでしたが、もっと音圧を感じたかった。

倉地久美夫さんは、10年程前に『詩のボクシング』で観たときと印象変わらず。基本ユルい雰囲気でギミックの利いた歌を唄うのですが、後半triolaのふたりが加わると良い感じに緊張感が出ました。かといって弦楽演奏が前に出過ぎることはなく、波多野さんのアレンジャーとしての力量を感じさせます。

宇治出身の兄弟デュオ、キセルの音楽の素晴らしさはみなさんご存じの通りです。良いメロディと丁寧に練られた歌詞を、誠実かつアイデア溢れる演奏で聴かせます。triolaの弦が加わると更に奥行が増し。その圧倒的な浮遊感はフィッシュマンズの正統な継承者と呼んでも差支えないと思います。

アンコールの最後に出演者全員で演奏したブレヒト/ワイルの"Mack The Knife"の選曲も波多野さんらしいヒネリの利いたものでした。

会場のVACANTは原宿の裏通りにある、まだ新しい木の匂いのするハコ。その名を聞いてSex Pistolsの"Pretty Vacant"を思い浮かべてしまった僕は1965年代生まれのPUNK第一世代です(笑)。でも、男子トイレの壁にはJoy Division "Unknown Pleasure"のポスターが。あながちはずれではないのかもしれません。


 

2012年9月8日土曜日

夢売るふたり

西川美和監督の前作『ディア・ドクター』が現実になったかのような偽医師のニュースがあったその当日に公開された新作映画『夢売るふたり』をユナイテッドシネマ豊洲のレイトショーで鑑賞しました。

「この都会の暗い地面には、自分の光を失った星たちがたくさん散らばっている」。

築地あたりで居酒屋を開いていた夫婦(松たか子阿部サダヲ)は、火事で店を失ってしまう。再建の資金稼ぎのために始めたのは、妻が計画し、夫が実行する結婚詐欺。心に闇を抱えた女たちを次々に騙していくが、ふたりの心も次第に蝕まれていく。

松たか子の現時点における代表作といえば、湊かなえ原作の『告白』だと思いますが、この『夢売るふたり』も将来キャリアを振り返ったときに必ず挙げられる一本になるはずです。楽天的で前向きな妻が、自ら計画した詐欺によって他の女と関係する夫に対して嫉妬心を持つ。その割り切れない感情を、最小限の台詞と抑えた表情で上手にかつ自然に表現しています。

序盤の田中麗奈から一連の詐欺は、ジョージ・ロイ・ヒル監督の『スティング』なんかにも通じる痛快さ。それが、デリヘル嬢(安藤玉枝)、ウェイトリフティング日本代表候補(江原由夏)あたりから、徐々に騙す相手に感情移入して、気持ちが揺れる阿部サダヲ。このあたりデートで観たら気まずいかも。そしてシングルマザーのハローワーク窓口職員(木村多江)の登場により一気にカタストロフィになだれ込む。

騙すといっても、どこまでが演技で、どこから本気なのか、おそらく騙している当人にも、操っている妻にも、はっきりと線引きできない部分があり、それがリアルで面白い反面、ちょっと息苦しい。なので、ハッピーエンドとはいえないまでも、さっぱりと気持ちの良いエンディングに救われました。

ときどき終電を逃してタクシーで帰宅するときにも感じますが、佃島の夜景は映画のなかでも本当にきれいです。