2026年7月12日日曜日

ノラバー日曜お昼の生うたコンサート&デザートミュージック

真夏日、西武柳沢へ。『ノラバー日曜お昼の生うたコンサート&デザートミュージックmayulucaさんの回に行きました。

開演時刻14時半にmayulucaさんが取り出したのは、円筒形のオルゴール。赤いきのこの傘の下でうさぎたちが、W.A.モーツァルトのオペラ『魔笛』のプリンセス・パミーナと鳥刺しパパゲーノの二重唱「愛を知る者たちには」に乗って踊るイントロダクションから「君は君のダンスを踊る」へ。

2曲目の「きこえる」の「陽の沈む音だろう」という歌詞は、僕の「森を出る」という詩で引用させてもらっています。続く新曲「虹の中にいる」は今年4月に東京に大きな虹が出たときに、普段は強い言葉で罵り合うSNSにそのときだけは多くの虹の画像が共有されているのを見た「わたしなりのPeace Song」だと言う。

「彼と彼女のそれぞれ」は3人の登場人物がいるんですね。物語を描く彼と遠い町を旅する彼は同一人物だと勘違いしていました。「昼下がり」の「君のこと/好きになってしまったようで/君も僕を/好きになってくれるといいな」という歌詞に「大好きよ、トリラブユー」と答えるノラバーのバイトインコの梨ちゃん3号も絶好調。毎週カウンターでGOOD MUSICを浴びて、音楽の機微を会得しつつあるようです。

青空」「あなたにとって光とは」「箱庭」の3曲は、おそらく次回作の軸になる楽曲群だと思っています。本編ラストの「アネモネ」は恒例になった客席参加型。「デザートミュージック」では、インスタライブのコメント欄にコーラスで参加する方も。

そして、ノラバー店主ノラオンナさんのアイデアが光る季節の果物と野菜のサラダはしゃきしゃきのスイカとベビーリーフとかいわれ。先々週のChiminさんのライブでもいただいたノラバーさわやかポークカレーもダークチェリーが乗ったノラバープリンもまったく飽きのこない味です。

ノラバーの東向きのすりガラスの大きな窓から優しい光が差し込んで、空を見上げる人と空を描いたmayulucaさんの歌声と正確なギターを柔らかく照らす。鳥のおしゃべりとコーヒーの香り。穏やかな時間の流れに身を任せる夏の午後のノラバーでした。

 

2026年7月11日土曜日

癒しのサロンコンサート vol.1 ~ Summer 2026

真夏日。西武池袋線でひばりが丘へ。Studio La Subalaで開催された『癒しのサロンコンサート vol.1 ~ Summer 2026』で、Chiminさん(Vo)、野本晴美さん(Pf)、井上 "JUJU" ヒロシさん(As、Fl)の演奏を聴きに行きました。

La Subalaさんは住宅街の一戸建て。一部吹き抜けの広いダイニングルームのステージに野本さんJUJUさんが登場し、6/8拍子のスウィングナンバーで会場をあたため、Chiminさんを呼び込む。リリカルなピアノのイントロに導かれた1曲目は2004年のデビュー盤収録の「たどりつこう」。野本さんの左足の踵がバックビートを踏む。

言葉ひとつ」は先々週ノラバーで聴いた繊細な表現から一転、力強く歌い上げる。そして「まるで昔のことのように」「茶の味」と2012年の名盤『住処』収録曲が続く。野本晴美さんこそが『住処』でピアノを弾いているご本人。今日のライブではトリオ用にリアレンジされているものの、要所要所で立ち現れるアルバムのフレーズに心躍ります。

野本さんとChiminさんの共演は、表参道にあったPRACA112014年に聴いていますが、その後Chiminさんがライブから離れていたけっして短いとは言えない数年間、何百回とリピートして聴いていた『住処』のアトモスフィアが2026年の初夏に、瑞々しい輝きを保ったままアップデートして再現されていることに胸が熱くなりました。

後半の「残る人」「時間の意図」「」も『住処』のナンバー。サンバのリズムの「残る人」ではJUJUさんがフルートの歯切れ良いタンギングで応え、スローな「時間の意図」「」は野本さんの左足の四分音符が床伝いに響くことで、楽曲に内在する静かなグルーヴを感じる。そしてリハーモナイズされた「住処」のイントロ。

「野本さんのピアノありきでJUJUさんが編曲した」というMCの通り、Chiminさんの濁りないロングトーンに寄り添うJUJUさんの管楽器のウォームな息遣いと野本さんのピアノのひんやりとしたタッチがアルバムのトーンを決定づけていましたが、ライブでは、あるいは十数年後に聴いたためか、野本さんのピアノから乾いているのに柔らかい優しさを受け取りました。

2部冒頭のデュオはCarla Bleyの "Lawns"。以前、同曲の加藤エレナさんのピアノを「夏の夜露を含んだ芝生」と形容したことがありますが、野本晴美さんのピアノに、日の傾きかけた公園の芝生を駆ける子どもたちの姿を想像しました。

 

2026年7月10日金曜日

トロフィー

真夏日。テアトル新宿孫明雅監督作品『トロフィー』を観ました。

木製の床に西日が差している。バレエシューズの足元、軽やかなターン。カメラは視線を上げ、生徒たちの全開の笑顔を写す。舞台は現代、荒川沿いの東京下町。東京朝鮮第一初中級学校の中等部3年生のソヒ(恒那)は在日コリアン4世、朝鮮舞踊部に所属している。全国大会に向けて顧問(ちすん)が発表したテーマは「芽生え」、主役に親友リョニ(原田花埜)が選ばれ、ソヒは二番手を務めることになった。

地元の公立中学との交流会が開かれ、ペアを組んだ日本人中学生未来(梨里花)とソヒはBTSの同じバッジをつけていることで意気投合する。未来は観光でソウルに行ったことがあり、BTSの東京ドーム公演にも当選していた。ソヒの父サンジュ(井浦新)は朝鮮民主主義人民共和国籍でソヒたちの学校の校長だが学校経営は厳しく、大韓民国籍の母ミリョン(市川実和子)はパートで家計を支えているが、故障した洗濯機を買い換えられないほど困窮している。

未来はソヒにハングル語を教わるかわりにフリマサイトの使い方を教え、ソヒの自宅にある中古品を売ってファンクラブの会費とライブのチケット代を作ろうと提案する。父が所有していた北朝鮮歌謡のCDが5,000円で売れたことで勢いづいたソヒは、父が引き出しに保管していた勲章を無断でオークションに出品したところ50,000円の値が付いた。

長編第一作となる孫監督は大阪出身の在日コリアン3世。是枝裕和監督の弟子筋です。大きな事件は起きないが、ささいな表情や仕草に登場人物たちの感情の揺れを映すことに長けています。未来を初めて自宅に招いたとき、帰宅したサンジュの表情の変化を見て「未来も在日だよ、言葉はアレだけど。ソン・ミレイ」と噓をつく。そう言われた未来の微妙な表情。母ミリョンは嘘をすぐに見抜き、未来の帰宅後、コインランドリーの帰り道にソヒに尋ねるが決して責めない。

テレビからミサイル発射のニュースが流れ、家族の食卓に割り切れない空気が流れる。排外主義者のYouTubeを視聴して「北朝鮮って悪い国なの?」と小学生の弟テイリ(千就)に聞かれ「北朝鮮って言うなよ。ウリナラだよ」と答えるサンジュ。ミリョンは「アッパ(パパ)は遠くを見ているの。昔はそれがかっこいいと思ってたんだけどね。足元も見てほしいよね」と言う。3世である親世代は、自身のコミュニティを「同胞」と呼ぶ。かつて住居や就職で差別された過去があるのだ。

是枝組の常連俳優であるYOU、未来の祖父で鉄工場の社長を演じるきたろう。ふたりのベテランの示す矜持がいい。主役の恒那さんの透明感。思春期の生意気さと不安定な感情。冒頭の朝鮮舞踊の練習場面では貼り付けたような不自然な笑顔が、主役リョニの怪我により不意に任されたセンターの重圧と自身の嘘によって失われるが、ラストの競技会の舞台では心からの表情に感じられました。

 

2026年6月29日月曜日

ガラクタの城 meets 廃品回収車

月曜夜。吉祥寺MANDA-LA2へ。mue×タカスギケイガラクタの城 meets 廃品回収車』を聴きに行きました。

「アウトプットが足りないから」と始まったmueさんの毎月ライブの3回目は、4月11日のバンドセット、5月20日のソロ弾き語りに続き、ギタリストのタカスギケイさんとのデュオ。「今ごろ君は知らず/お月さまと眠ってる/今夜も僕だけが/君のことを思ってる」という歌詞のmueさんにはめずらしいラブソング「お月さまと」でスタートしました。

続く4ビートの「蜘蛛の糸」。いつものエレガットではなく、4月に初披露した真赤なGibson ES-335を全編にフィーチャーし、直挿ししたRoland Jazz Chorus 120(ギターアンプ)のコーラスエフェクトできらきらした音色を響かせます。煙草やコカコーラといったシンボリックなアイテムが歌詞に描かれた3曲目のブルースナンバーでは1弦のグリッサンドのみで押し通す豪快なギターソロも。

共演機会の多いタカスギケイさんと呼吸の合ったアンサンブル。「Woman "Wの悲劇"より」の空間処理、「朝の15分の静寂」のサビではピッチシフターを通した重厚なベース音が効果的でした。

後半はピアノの前にポジションを移し、Jackson5の "Never Can Say Good-Bye" で再開。「ボロボロ」の的確なオブリガート、曲の入りでキーを見失い迷走するかに見せてきっちり着地した「大きな流れをつくる」など、ピアノ演奏技術の向上が昨今著しい。

英語詞の「Light Up The Future」では歌詞の和訳を、ジャズとアンビエントを揺らぎながら行き来するようなタカスギケイさんの流麗なソロギターインプロヴィゼーションに乗せて廃品回収車に寄せた自作詩を、朗読する場面がありました。僕は朗読が本職ではない人の朗読が大好物なので、とてもよかったです。また聴きたい。

「ガラクタの城」を冠したライブは過去2回、2015年2016年にいずれも新高円寺STAX FREDで聴いています。そのジャンク感、未完成な輝きと比較すると、2026年のガラクタの城は円熟味がありました。最低限の決めごとが必要なアンサンブルというフォーマットのせいもあるとは思いますが、mueさんご自身の10年間の経験に裏打ちされた音楽家としての成熟を感じました。

 

2026年6月28日日曜日

ノラバー日曜お昼の生うたコンサート&デザートミュージック

台風の翌日。西武柳沢駅に着くころに雨は上がり『ノラバー日曜お昼の生うたコンサート&デザートミュージックChiminさんの回に行きました。

1曲目の「うたかた」は2006年の2nd『ぽむぽむ』収録曲。アルバムでは特徴的なスティールパンの分散和音が、Chiminさんの爪弾くガットギターで再現されます。自分で曲を作り始めたばかりで簡単なコードしか知らなかったと言うが、音楽の豊かさがそこには確かに存在しています。

いまの季節にぴったりな「雨が止んだら」「目と目」をしっとりとメドレー構成で繋ぎ、ノラバー店主ノラオンナさんのリクエストで「」。近年はピアノで歌われることが多いスーパースローナンバーをギターのリフに乗せると原型がビートレスではないことに気づかされる。改題した新曲「ひとつのページ」も雨にまつわる歌です。

前回6月11日のライブでは冒頭1曲だけだったガットギターの弾き語りが全編という僕の希望が叶ったのと、楽曲のコアがダイレクトに感じられるのも弾き語りの醍醐味です。例えて言うなら、アリーナ級の技術と表現力を持つシンガーが奏でる極上のリビングルームミュージック。「言葉ひとつ」のサビの抑制されたウィスパーボイスにも痺れました。

Chiminさんがひとつのライブで4曲もカバーを歌うのもレアなこと。どんとドリヴァル・カイミザ・フォーク・クルセダーズヴァン・モリソン、いずれも原曲は男声ですが、Chiminさんの澄んだ声で聴くとまったく違う表情を見せます。

ノラバーの看板インコ梨ちゃん3号の語彙は4月に会ったときより更に増え、お昼の生うたコンサートの定番メニュー、大きな白いお皿に三日月型のカレーと半球状に盛られた白飯のノラバーさわやかポークカレーはさながら魔法陣のようでおいしさもマジカル。どの季節にも合いますが、梅雨時は格別です。

 

2026年6月13日土曜日

KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ

真夏日。ユナイテッドシネマアクアシティお台場マギー・カンクリス・アペルハンス共同監督作品『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』を観ました。

「あなたたちはポップスターであると同時にハンターなのよ」。舞台は現代の韓国ソウル。人々の魂を奪うデーモンから街を守るために、歴代の3人組ガールグループが、ホンムーンと呼ばれる結界を音楽の力で維持してきた。現在はソングライターのルミ(アーデン・チョー)、コレオグラファーのミラ(メイ・ホン)、作詞担当でラッパーのゾーイ(ユ・ジヨン)の3人で構成されるHUNTR/Xがアリーナツアーをしながら任務に当たっている。

昨年6月にNetflixで公開後3カ月間の視聴数が歴代1位の3億回超となり、アカデミー賞長編アニメーション賞受賞、劇中歌 "GOLDEN" がアカデミー賞とグラミー賞をW受賞した世界的ヒット作の期間限定劇場公開です。

このミュージカル3DCGアニメの歌唱パートは台詞の声優とは異なり、ルミをEJAE、ミラをオードリー・ヌナ、ゾーイをレイ・アミが演じており、これが感動的に素晴らしい。まず冒頭のチャーター機内で客室乗務員に化けたデーモンと闘うシーンで3人が歌うDOPEなHIPHOPチューン "How It's Done" のフロウに撃ち抜かれました。

ガールエンパワーメントやシスターフッドというキーワードは現在のK-POPカルチャーと親和性が高く、夭折したアイドルを母に持つが実はデーモンとハーフのルミ、デーモン側のメンズアイドルサジャ・ボーイズのセンターでありながら母と妹を見捨てた過去を後悔し記憶を消したいジヌ(アン・ヒョソプ)という設定が、ストレートな勧善懲悪ストーリーに影を落とす匙加減が絶妙。

"GOLDEN" は構成に残る名曲。アニメ本編MVも素晴らしいのですが、中の3人がステージで歌う実写版HUNTR/Xも圧倒的。いくつか視聴した動画のなかではアカデミー賞授賞式The BRIT Awards 2026がよかったです。アメリカ製作のため、科白は全て英語、歌詞は全曲英語(一部ハングル)のテロップが付きます。

エンドロールの後半TWICEジヒョさんジョンヨンさんチェヨンさんの3人が普段着でレコーディングする姿が映るので、ONCEのみなさんは映画館の照明が点くまで席を立たないのが吉です。

 

2026年6月12日金曜日

Michael マイケル

夏日。ユナイテッドシネマアクアシティお台場アントワン・フークア監督作品『Michael マイケル』を観ました。

1966年、米国インディアナ州ゲイリー。黒人低所得者向け住宅のリビングルームでジャクソン家の5人兄弟、ジャッキー(Cho)、ティト(G)、ジャーメイン(b)、マーロン(Cho)、マイケル(Vo)は "Big Boy" を練習させられている。指導しているのは父親のジョセフ・ジャクソンコールマン・ドミンゴ)。7歳のマイケル(ジュリアーノ・ヴァルディ)は歌うのに飽きて窓に顔をつけて通りを眺めるが、父ジョセフに厳しく咎められる。母ケイト(ニア・ロング)が柱の陰から心配そうに見守っている。

初ステージを成功させて帰宅した兄弟をリビングに集め、細かいミスを指摘し練習させようとするのに反論したマイケルの尻をベルトで執拗に鞭打つジョセフ。

マイケルといえばジャクソン。ジョンやポール、ミックとキースのようにアイコン化したスーパースターのデビューから1988年の "BAD World Tour" におけるロンドンウェンブリースタジアム公演までの22年間(7~29歳)を描いた伝記映画は、主役をマイケルの甥(ジャーメインの息子)ジャファー・ジャクソンが演じています。

幼少期からショービズ界に浸かり同年代の友だちがいないマイケルは父親の暴力という現実から逃避するために「ピーター・パン」や「オズの魔法使い」などの児童書にのめり込み、心を開ける相手は動物たちと母ケイトだけ。その環境が育んだ感性は作品づくりにおいて独特の世界観を築いたが、人格形成面ではマイナス面が大きかったはず。駄菓子屋であんずボーをちゅーちゅー吸ったり、放課後マックで宿題をしたり、友だちと過ごした時間は無駄じゃなかったんだな、と思いました。

はじめての整形手術は『オフ・ザ・ウォール』と『スリラー』のあいだ。バブルス君は意外と早い時期に同居を始め、自宅の庭にキリンがいますが、あまり深く掘り下げられません。我々世代は1980年代に『スリラー』『BAD』からヒットを連発するマイケルをリアルタイムで見ていましたが、本作以後の世界を生きてきたより若い方たちは、スポーツ紙の一面に「顔面崩壊」と書かれたり、自宅をネバーランドと称して大勢の子どもたちを住まわせたり、奇行ばかりが取りざたされる変人という認識なのかもしれません。

悪役を父ジョセフに絞ったことが物語を非常に分かりやすくしている反面、「次は目を見て話す」と言いながら、レコード会社の重役や弁護士に頼って、父親と対峙しようとしないマイケルの弱さをきちんと描いているところは好感が持てる一方、顧問弁護士ジョン・ブランカマイルズ・テラー)とジョセフが雇った運転手兼ボディガードのビル・ブレイキーリン・ダレル・ジョーンズ)は少々美化されているのではないかと思います。

歌唱シーンの歌声は、マイケルとジャファーのミックスとのこと。ジャクソン5のドサ回り先のペニーアーケードで「アイル・ビー・ゼア」を歌い白人女子たちをも虜にするマイケル、モータウンレコードベリー・ゴーディラレンズ・テイト)が父ジョセフに「あんたはスケジュール調整だけしてくれ」と言うところ、クインシー・ジョーンズとの初レコーディングセッションの「今夜はドント・ストップ」、「今夜はビート・イット」のMVの撮影のためギャングスタにコネのあるビルの手引きでアンダーグラウンドのストリートダンサーたちをスカウトする場面など、心躍るシーンが多々あります。

ラトーヤジェシカ・スーラ)はたびたび登場しますが、兄弟姉妹でマイケルの次に売れ今もなお現役の妹ジャネットは名前すら出ないのは大人の事情でしょうか。モータウンのA&R担当スザンヌ・ド・パッセを演じたローラ・ハリアーの美しさには息を呑みました。