明け方の薄青い街をパトカーが走っている。「眩しかった? 眠れない?」。シャオウェン(ホアン・チアチン)が『周郁芬自選集』を読んでいるベッドの傍らの壁には、隣で眠るシャオチャン(マー・シャオチュン)が撮影し大きく引き伸ばされたシャオウェンのポートレートが貼ってある。ベランダの下で銃声とサイレンが響き、白いシャツの男がうつ伏せに倒れている。
賭博場のガサ入れだった。シャオチャンは一眼レフを持って通りに降り、警官に制止されながらも一連の逮捕劇をカメラに収める。2階の窓から飛び降り、足を挫いたハーフの美少女シューアン(ワン・アン)が横断歩道を渡れず倒れるのも撮影し、彼女に強烈に惹かれた。
「それは春の最初の一日だった」。小説家のイーフェン(コラ・ミャオ)は執筆に行き詰っていた。夫のリーチュン(リー・リーチュン)は野心的な勤務医。失踪した妻の捜索を幼馴染のクー警部補(クー・パオミン)に依頼するが、イーフェンは元彼シェン(チン・スーチェ)と浮気していた。
『恐怖分子』は、エドワード・ヤン監督の『海辺の一日』『台北ストーリー』に続く長編第三作、1986年に公開されました。レトロモダンで幾何学的な病院やオフィスと、湿って猥雑な路地裏が、計算し尽くされた構築美とカメラワークで描かれています。ガラスや鏡を利用した光の美しさや風の描写はヤン監督の得意とするところで、大病院の西日で逆光のカンファレンスルームやリマスター版のポスターと予告編にフィーチャーされているシューアンの壁面コラージュが風に揺れるシーンなどはうっとり見惚れてしまいます。
同じ台北でばらばらに存在していた3組の男女が、一本のイタズラ電話から絡まり合って、カタストロフに至るプロットの構成も天才的。二通りの結末が順番に提示されますが、観客が迷うことはないと思います。同監督作品中随一の陰鬱さでありながら、映画にとって美とは何か、と強く問いかけ、深く記憶に刻まれる一本です。







