2016年、英国北部ダラム近郊、炭鉱が閉鎖されて荒廃した海辺の町にシリアからの難民の乗せたバスが到着する。それを見た町の住人たちは「ここはまるでゴミ捨て場だ」と不快感を隠さない。旧英国領キプロスの不動産投資会社が空家を安く買い叩き、難民支援団体に転売している。
バスの窓から一眼レフを向けた若い女性ヤラ(エブラ・マリ)が降りてくると、ニューカッスルユナイテッドFCのレプリカシャツの男がヤラのカメラを奪い、手を滑らせてアスファルトに落ちたカメラは壊れてしまう。
寂れた町の最後に残ったパブ THE OLD OAK のボックス席では、中年の常連客たちが昼からビールを飲み、移民に対するヘイトを吐き出しており、店主TJバランタイン(デイブ・ターナー)は苦い顔はするものの口を挟まない。更に高齢の常連が「彼女がお前に何も迷惑をかけてないだろ」と窘める。
ヤラが壊れたカメラを持って THE OLD OAK を訪ね、弁償させたいので壊した男を教えてほしいと言う。TJは不景気になってから長く開けていない奥の広間にヤラを案内し、叔父の形見のカメラを3台見せるが、ヤラは受け取らない。2台売れば修理代になる、とTJはヤラのカメラを預かる。
シングルマザーと社会保障をテーマにした『わたしは、ダニエル・ブレイク』、宅配ドライバーと介護従事者の夫婦が主人公の『家族を想うとき』に続く本作は、昨今の欧州諸国の右傾化と排外主義が如何に市民生活を蝕み、分断しているのか、という点を浮き彫りにするのみならず、産業の空洞化、プアホワイト、子どもの貧困、ジェンダーギャップ、ブレクジット、古参と新規、など同時並行し10年後の現在も解決しておらず、むしろ苛烈さを増している社会課題を、その中で生きなくてはならない市井の人々の日常を通じて描くことで、2026年の日本においても我々は切実な自分事としてスクリーンに向き合わざるを得なくなる。
小学生の女の子に「大丈夫、いいことは長く続かない」と嘆息させてしまう社会に絶望するのではなく、「慈善ではなく連帯を(Solidarity, not charity)」「共に食べ連帯しよう(Eat together, stick together)」繰り返されるこれらのメッセージ、難民たちが感謝を込めて店に贈ったタペストリーに刺繍された「Soridarity, Strength, Resistance」の文字は、90歳を超えたケン・ローチ監督が次世代に託した祈りなのでしょう。
TJが飼っているジャーマンシェパードの子犬マラ(本名Lora)の愛くるしさはもうひとつの救い。マラ(Marra)は英国北部炭鉱地方の方言で「親友」「相棒」「仲間」を意味するそうです。







