交通量の少ない一本道を走るVOLVOを運転しているのは26歳の新人映画監督サムキ(ツェリン・ヤンキ)。免許を取り立てのサムキの運転は危なっかしく助手席の父(ノルブ・ツェリン)は運転を替われと言う。サムキが路肩に寄せると、野生のヤクがVOLVOを追い越して行く。
中華人民共和国チベット自治区の首府ラサ。故郷を舞台にした映画を製作するために北京から帰郷したサムキは、撮影可能なリンカ場を探している、リンカとは、チベット族が短い夏を楽しむために家族や友人たちと屋外で食事や飲酒をしたり、歌ったり踊ったりすること。
12歳のサムキ(ツェキィ・メトック)は、幼馴染の親友ラモ(デチェン・バンゾム)の家に泊まった夜、ラモの部屋にあったネパール刺繍の財布の美しさに魅了され、盗んでしまう。翌日も一緒に登校するふたりだが、天真爛漫なラモは「財布が見つからない。幽霊に取られた」と言う。ある日のリンカで、サムキは財布を拾ったと父に告げる。ドキュメンタリー番組を制作している父は、娘が財布を拾った経緯をインタビューしテレビで放送する。
成績優秀なサムキは選抜され上海の中学校に入寮する。高校受験を控えた15歳の夏、祖父の法要のためラサに帰省し、ラモと再会する。
ラサ出身の女性監督カンドゥルン氏は1995年生まれの31歳。自然光の捉え方が抜群に上手い。少女期の映像は大人になった主人公が撮影している映画という、三重の入れ子になっています。実体験をモチーフにしているものの、合コンで再度再会したラモ(タンサン・ラモ)と自身の記憶に齟齬が生じる。実体験はモチーフに過ぎず、映画はフィクションなので、制作側に都合よく作っても問題ないのだが、それは自身の苦い経験に対して誠実な態度と言えるのだろうか。高地で空気の薄いラサの短い夏の眩しい逆光を背景に、静かに葛藤するサムキは、監督の姿でもあるのでしょう。
中国語の原題は『一个夜晚与三个夏天』。一つの夜と三つの夏の日です。タイトルバックとエンドロールはチベット語、漢語、英語のトリリンガルで、オープニングテーマはレゲエ、エンディングテーマはヒップホップ。現代のラサのユースカルチャーが垣間見られる一方、伝統的なチベットらしさといえば、背景に聳える峻険なヒマラヤ山脈、5色のタルチョ(祈祷旗)、仏塔を周回して巡拝するコルラ、民族楽器の独特の音階など。グローバルな観客のニーズに応えるバランス感覚に優れています。背の高い並木道の両側に平坦な田園が広がる俯瞰ショットは『勝手にしやがれ』や『気狂いピエロ』のオマージュでしょうか。
唯一気になったのが、静謐な映像に対して音が若干うるさいことです。Wang Chuan のアンビエントな劇伴は耳に心地良いのですが、街角の喧騒や住居内の生活音が結構なボリュームで常に収録されています。都会の暮らしではそれがリアリズムでもある反面、映画館の密室においては圧が強い感じがしました。







