吉祥寺STAR PINE'S CAFEで開催された『ノラオンナ59.9ミーティング「ピンスポット」』にお邪魔しました。
受付から更に1フロア降りぐっと明度を抑えた会場に流れる郷愁を帯びたアイリッシュの調べ。ステージ右下の物販テーブルで矢島絵里子さん(Fl)と橋本安以さん(Fdl)の生演奏です。白い衣装のふたりは、ノラオンナさんが事前にSNSで「奏でる物販天使」と紹介していたのですが、想像以上に天使です。
2004年4月21日に松本隆氏の風街レコードからデビューしたノラオンナさんは、2016年以降は毎年STAR PINE'S CAFEで特別なライブを開催しています。還暦イヤーの2026年は上述の矢島絵里子さん、橋本安以さんに加え、外園健彦さん(Gt)、中川五郎さん(Vo&Gt)と5人編成のライブを予定していましたが、外園さんの長期療養により12月に延期、今年の4月21日は小西康陽さんとノラさんのツーマンに変更になりました。
照明が落ちて客席は完全な闇の中に。金ボタンのブレザーを着た猫背の小西さんが座るピアノスツールにピンスポットが一本。ヘンリー・マンシーニの名曲を野宮真貴さんのために小西さんが和訳した「ムーンリバー」。続いて夏木マリさんへ楽曲提供した「決められた以外のせりふ」は芥川比呂志氏のエッセイ集のタイトルから。有近真澄さんに書いた「女の都」は長崎市のバスの終点(町名は「めのと」と読むらしいです)。Kenny Rankinの "Haven't We Met" は、古川麦さんやmueさんの軽快な演奏とは180度方向性が異なり、Leonard Cohenのような趣きがあります。
ビックリマンシールの仙人のような白髪に白髭の小西さんは、老いに抗わない覚悟を決めたかのよう。その一方でかつて東京の風景をきらきらと輝かせた瑞々しさを現在も保ち続けている。
代わってバリトンウクレレを抱いたノラオンナさんの1曲目はピチカート・ファイヴの1996年のヒット曲「ベイビー・ポータブル・ロック」。続いて「夜にもたれて」をアカペラで歌い始めると空気は夜の匂いを纏う。「バニラの香り」から「流れ星」まで新旧のグッドメロディ11曲を弾き語りで。いつものノラさんでありつつ、より濃密で凝縮された空気感は、STAR PINE'S CAFEの高い天井を波打つ水面に見立てて海の底で歌うセイレーンを思わせる。「拳」「めばえ」と中盤に続けて歌った2曲には確かに hymn(聖歌)の響きがありました。
人間は群で暮らす動物なのに、時にひとりになりたがる。ひとりの時間の豊かさ。その豊かさをまた誰かと分かち合い、再びひとりに戻る。矢島絵里子さんと橋本安以さんが加わったアンコールの「野菜のはしっこ」を聴きながら、そんなことを考えた春の夜でした。







