波の音。漁港の風景に「遠くない未来」のテロップが重なる。主人公の音々(綾瀬はるか)は建築士。自宅の中庭のレモンの樹にホースで潅水していると日用品がドローンで届く。夫の健介(大悟)は工務店の社長。飼い猫のオセロはもう1週間帰ってこない。「恋人でもできたんちゃう?」と健介。
息子の翔を7歳で亡くして2年。RE birth Ltd.から届いたDMを開くとオオミズアオのホログラムが飛び立ち、亡くなった家族の動画や画像からヒューマノイドを制作するサービスのモニターを募集しているという。「ハイエナやな」と健介は言うが、ショールームで観たPR動画に音々は涙する。後日、配送車の助手席からヒューマノイドの翔(桒木里夢)が降りてくる。
はじめ音々は翔を我が子同様に溺愛するが、健介は距離を置く。時が経つにつれ、音々は自身の執着ゆえに恐れを感じ、逆に健介はすこしずつ息子を受け入れはじめる。
「箱の中の羊」はサン=テグジュペリの『星の王子さま』からの引用ですが、僕にはその隠喩が理解できませんでした。不時着した操縦士が砂漠で出会った王子に羊の絵をせがまれて描くが、王子に何度もダメ出しされてげんなりした操縦士は箱の絵を描き、中に羊が入っている、と言うと王子は納得する、という挿話です(この場面を朗読する綾瀬はるかは素晴らしい。ちなみに内藤濯訳ではなく池澤夏樹訳です)。
音々は言う「箱の中の羊は翔じゃなくて私だったのかもしれない」。ヒューマノイドとして再会した我が子に揺れる心情に自分自身の罪悪感を再認識させられたということでしょうか。
家族を描いていても家族讃歌にならないのが是枝作品です。余貴美子演じる音々の母親の嫌な感じは『海街diary』の大竹しのぶに通じ、『真実』のカトリーヌ・ドヌーヴとジュリエット・ビノシュ母娘のままらない関係性の変奏のよう。異母妹すず(広瀬すず)を受け入れた『海街diary』三姉妹の長女幸(綾瀬はるか)は、ホスピス勤務の看護師で人の死を常に見つめている。
精巧なヒューマノイドは『空気人形』でペ・ドゥナが演じたラブドールの進化形とも考えられますが、空気人形の内面が所有者である主人公の妄想なのに対して、17年後の本作では感情表現(らしきもの)をするAIがフィジカルを持つことで影響力が格段に増したように感じました。







