2023年1月28日土曜日

ピアニシモ、ラルゴ2

冬晴れ。マイクスタンドを担いで都営地下鉄三田線で白山へ。JAZZ喫茶映画館にて開催された詩の朗読『ピアニシモ、ラルゴ2』に参加しました。

小夜さん石渡紀美さんのこの二人会は2019年3月に同じくJAZZ喫茶映画館さんにて第一回が行われ、コロナ禍を経た第二回も前回同様、フライヤー制作やご来場受付などで制作協力しました。

詩の朗読会はいつでも第一声が特別に大事だと思います。この日の冒頭は「触れるなら/届いたのか/届かなかったのか/わからないほど/淡く」という小夜さんから始まる、前回の『ピアニシモ、ラルゴ』のときに書かれた二人の連詩。

そして石渡紀美さんのソロ。「自分の詩を読むというのは、ともすれば傲慢にもなってしまう。自分の詩だから自分ではわかっているけれど、独りよがりだったり、速すぎたり。聴いている人にも気を配らなくちゃならないなと思うようになった」。実際に朗読のテンポはスローダウンし、ひとつひとつのフレーズがより受け取りやすくなったと感じます。

一方、小夜さんは「伝えたいということを伝わってもらいたいように書くと伝わって当たり前になってしまうから暗号みたいに書いて伝わる人に伝わってほしいと思っていた」と言う。ひと呼吸ごとに置かれる言葉と声の湿度は心地良く、インティメートな触感の秘密を教えてもらったような気がしました。

短い休憩を挟んで再び二声の朗読へ。「きっぱりと来たおしまいをはじまりへつなぐように/私より早く大人になりはじめた少年が恥ずかしげに会釈する」(fall into winter2)、「四月が流れていく/側溝に流れきれずに/八重桜の花びらがたまっている」(春から夏へ)。二篇の連詩では、異なるイディオムとコンテクストを持ち、対照的な声質の二人が、スープ、永遠に来ない春、靴ひも、といったキーワードを介して共振する。

小夜さんの「ゆうべ、夜は」、紀美さんの「ひかり(Winter's Tale)」の二声のシンフォニアは相互理解とリスぺクトの賜物。僕の「fall into winter」を二人の声で聴けたのもうれしかった。ずっと続いてほしい朗読二人会です。

 

2023年1月8日日曜日

ノラバー日曜生うたコンサート&デザートミュージック

冬至から二週間。すこしずつ日が伸びてきました。ノラバー日曜生うたコンサート&デザートミュージックに出演しました。ご来店のお客様、配信を視聴してくださったお茶の間の皆様、ノラさん、梨ちゃん2号、ありがとうございました。

リスペクトするミュージシャンノラオンナさんが2017年に西武柳沢にオープンしたノラバー。その前身である阿佐ヶ谷Barトリアエズで毎週日曜日に開催されていたアサガヤノラの物語、更に以前の銀座ときねの銀座のノラの物語から数えると10年以上のお付き合い。折に触れてお声掛けいただき大変感謝しております。

そんなノラバーもコロナ期間中は苦しい時期を過ごし、僕も2020年7月12月に配信ライブのサンデーモーニングコンサートに参加しましたが、今回が2019年12月以来、3年ぶりの有観客ワンマンライブでした。

 3. 永遠の翌日
 4. スターズ&ストライプス
 5. 名前
 6. ケース/ミックスベリー
 7. 11月の話をしよう
14. 舗道
15. 夕陽
16. 答え

以上が1部、有観客部分のセットリストです。ノラさんのインコ梨ちゃん2号がぴよぴよ合いの手を入れてくれました。2021年12月から書き始めた「過去の歌姫たちの亡霊」シリーズが6篇になり、今回 "The Ghost Of Divas Past" というタイトルの小詩集にまとめてご来店のお客様にプレゼント。

ライブ1部終了後にはお楽しみのノラバー御膳。玉子焼き甘いの出汁がけ、きんぴらごぼう、大根の油揚げ巻、さばみりん、ポテトサラダ、かぼちゃ煮、煮込みハンバーグ、コーヒーごはん、水菜の味噌汁の9品。ノラオンナさんの手料理は家庭的なのに一工夫あって絶妙なさじ加減。今回でいえばデミグラスソースの煮込みハンバーグとほのかにほろ苦いコーヒーごはんのマリアージュが至高でした。

お客様と同じカウンターテーブルでおいしい食事とおしゃべりを楽しんだあとはインスタライブで配信するデザートミュージックへ。


1998~1999年頃に下北沢の書店フィクショネスでご購入いただいたというカワグチタケシ初期詩集をお持ちくださったお客様がいらして、僕の朗読会は初めてとおっしゃっていたので、第2詩集『International Klein Blue』、第3詩集『世界の渚』からも作品を選びました。液晶画面の向こう側でもお楽しみいただけていたら幸いでございます。

配信が加わったことでトータル90分になりました。全21作品の長尺ライブにお付き合いいただきありがとうございます。終始集中してテンションを保ちメリハリの効いたパフォーマンスができたのはノラバーの環境と熱心に聴いてくださるお客様のおかげだと思います。インスタライブのアーカイブを帰宅後に再視聴して、ノラバーの場合はアングル的にほぼ上半身のみになるのですが、MC時のトーク内容と目線の先の連携や手指の動きなど、配信に関して修正点が発見できたのも収穫でした。

 

2023年1月5日木曜日

ケイコ 目を澄ませて

冬晴れ。ヒューマントラストシネマ有楽町三宅唱監督作品『ケイコ 目を澄ませて』を観ました。

2020年12月、小河恵子(岸井ゆきの)は荒川区出身のプロボクサー。2019年のデビュー戦を1R1分52秒でKO勝ちしている。感音性難聴で生まれつき耳が聞こえない。

現存する東京最古ボクシングジムでトレーニングをしているが、会長(三浦友和)が高齢となり施設も老朽化しており、廃業が決まった。

聴覚障害者が主人公ということですが、オープニングからエンドロールまで劇伴も主題歌もなく、同居している弟(佐藤緋美)が部屋でつま弾くアコースティックギター(と小音量だが商店街やホテルのBGM)以外に音楽がありません。そのかわりに、便箋に手紙を書くペン先の音、氷を嚙み砕く音、遠い救急車のサイレン、鉄橋を電車が渡る音など、微細な生活音が画面から聴こえてきて、それで逆に聴覚が鋭敏に研ぎ澄まされるような感覚になりました。

16mmフィルムで撮影された本作は、99分というコンパクトな尺にもかかわらず、過不足ない演出と役者陣の気迫で充実して感じられる。逆説的に商業映画一般においては観客の情緒を刺激するための音楽に要する時間が長いのだと気づかされます。

「話したってひとりじゃん」。岸井ゆきのがTVドラマやバラエティ番組で見せる子犬のような愛嬌を封印し、ストイックで感情表現の不器用な主人公を見事に演じ切っている。元体操選手だけあって身体能力が高く、冒頭と終盤のコンビネーション・ミットのシーンのリズム感の良さ、パンチの歯切れ良さは特筆すべきかと思います。

 

2023年1月2日月曜日

ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY


1983年、合衆国ニュー・ジャージー州ニューアーク。20歳のホイットニー・エリザベス・ヒューストンナオミ・アッキー)は歌手である母シシー・ヒューストンタマラ・チュニー)の厳しいレッスンを受けている。両親は不仲で口論が絶えない。

ある真昼にストリートでロビン・クロフォードナフェッサ・ウィリアムズ)と出会って意気投合し、母のバックコーラスを務めるナイトクラブ Sweet Waters に誘う。アリスタレコード社長でプロデューサーのクライヴ・デイヴィススタンリー・トゥッチ)が客席にいることを知った母シシーは仮病を使いホイットニーにソロで歌わせ、才能を感じたクライヴは「OK。私のOKは契約と投資を意味する」と言う。

「手に入れた後でも愛には努力が必要」。類稀な美声と圧倒的な歌唱力で、人種、年齢、文化を超えて愛された1980年代を代表する歌姫ホイットニー・ヒューストンの48年の短過ぎる生涯を描いた。2018年公開の『ホイットニー ~オールウェイズ・ラヴ・ユー~』は本人の映像と関係者の証言を編集したドキュメンタリー映画でしたが、本作は役者が演じています。

役者が演じている分、ドキュメンタリーでは証言のみで映像化されていなかったオフステージの姿がより鮮明に描かれており、序盤は同性の恋人ロビンとの生活、中盤はプロデューサーのクライヴ・デイヴィスとの信頼関係、終盤は結婚生活の破綻と薬物依存を軸に物語が進みます。

珠玉の名曲群の誕生の瞬間。自分で作詞作曲しなかったホイットニーがクライヴのもとに送られてくる数多のデモテープ(1990年代に入るとデモCD-R)をふたりでオフィスで聴き、自分が歌うことでどのように楽曲の魅力が増すかイメージして選曲する過程が繰り返し登場する。

契約のためにはじめてアリスタのオフィスを訪れたホイットニーはLEVI'Sのスウェットにストレートジーンズ。スーパーボウルの国家斉唱というアメリカ人歌手として最高栄誉の場においても、用意されたドレスを断り「私らしく」とジャージでグラウンドに立ち、史上最高と言われる「星条旗よ永遠に」を披露します。

レコーディングとライブのシーンではホイットニー本人の歌声が使用され、ナオミ・アッキーはリップシンクしています。会話中の鼻歌やレッスンシーン、仮歌的に軽く歌うシーンはナオミの声。なかなかの美声でミュージカルもイケるんじゃないでしょうか。