2017年10月31日火曜日

通り過ぎた記憶、生成する景色

四谷三丁目 The Artcomplex Center of Tokyo で今日から始まった日本画家櫻井あすみさん1年ぶりの個展『通り過ぎた記憶、生成する景色』に行きました。

在学中から数々の受賞歴を持ち、今春東京藝術大学大学院博士課程を修了。最近では書籍の表紙画も手がけています。

一見して、小さな作品が増えたな、と思う。展示室の白い壁を右から辿ると「a piece」とだけ名付けられた小品が9点、そして視線はより大きなサイズの作品に移行する。

2年前の展示ではカフェの壁を覆い尽くす大作の仄暗くも新鮮な輝きに魅了されました。それは若い作家が世界と対峙しているまさにその境界を示しているように見えました。それから時を経て、世界との対峙はより人々の暮らしに向き合うような意識に変化しているように感じます。

従来多用されていた銀箔がアルミ箔に代ることにより画面の輝度は落着きましたが、ランダムに千切られて岩絵具と膠にコーティングされた軽金属は、対象となる風景や人物と作者の間にある空気の、それも均質ではない雪片や塵や化合物が浮遊し光線を乱反射させる大気の存在を気付かせる。

DM(画像)にもなっている「viewpoint」という作品が印象に残りました。ビルの屋上から眺める風景は無彩色に近いが色がある。雪の降り出す直前のような曇り空の下で道路の騒音以外にそれを示すものがないが確かに人々の暮らしは息づいている。微かな熱を感じる作品です。

初日ということもあり、作家ご本人が在廊でしたので、不案内な日本画の技法についてすこし質問をして教えてもらうことができました。


2017年10月29日日曜日

ノラバー日曜生うたコンサート

台風22号が関東地方に接近するなか、開場直後のノラバーのドアを開けると既に2人のお客様が。強い雨に打たれて傘や足元をびっしょり濡らして次々に到着する人たちは、なぜだかすこしはしゃいでいるみたいに見えます。

ノラバーが西武柳沢に引っ越ししてから、mayulucaさん7月16日に続き2度目のご出演です。ドレスコードはブルー。ネイビーからライトシアンまで、サテンやニットや、思い思いのブルーを纏った人たち。

カウンターだけの細長い店の一番奥の席で前回は聴きました。今回はバス通りに面した席で曇りガラスにもたれながら、mayulucaさんの演奏するギターのサウンドホールからわずか数十センチの至近距離。小さめの音量で爪弾かれる正確なフィンガーピッキング、低音弦のユニゾンの揺らぎ、ボディを指先や第一関節でコツリコツリと叩く音、微細な音の表情が手に取るように伝わる。演奏者本人はこういう音を聴いているのか。ごまかしの利かない距離でギタリストとしての確かさを感じる。

「朝が来て/昨日が昨日になってゆくのです/失いがたいものたちを/ひとつずつ抱きしめるのです」(チャイム)、「このあいだ前に住んでいた町の駅まで続く緑道を/ひとり歩いていたら心痛くなりました」(ほんとうのこと)。

これら1stアルバム『君は君のダンスを踊る』収録曲の澄んだ抒情は、2nd3rdと進むにつれてすこしずつ抽象化し、寓話的もしくは音韻重視に変化しましたが、今年書かれた2曲「3am」「doubt blue」の英語詞はよりシンプルでストレートに、カレッジフォーク的な曲調を伴って回帰しているのも興味深かったです。

店主ノラオンナさんの手料理ノラバー弁当は定番のポテトサラダが南瓜サラダに変わったハロウィン仕様。自家製の胡瓜と大根のぬか漬けに小茄子の昆布出汁漬けは台風サービスということで、お客様の差し入れの純米酒が進みます。

すっかり夜も更けて表に出れば、雨はすっかり上がって、透き通った深いブルーの夜空にきれいな半月が浮かんでいました。


 

2017年10月19日木曜日

TQJ Poetry Reading Live

雨が降って急に気温が下がりました。かすかに冬の匂いがします。そちらはいかがですか? 晩秋の白山で朗読会のお知らせです。

カワグチタケシ、究極Q太郎ジュテーム北村。ファーストネームの頭文字を並べて「TQJ」と名付けました。

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TQJ Poetry Reading Live

日時:2017年11月18日(土)15:00open 15:30start
料金:1500円+1drink order
出演:カワグチタケシ、究極Q太郎、ジュテーム北村
会場:JAZZ喫茶映画館 〒112-0001 東京都文京区白山5-33-19
   03-3811-8932 http://www.jazzeigakan.com/
   ※会場の地図はこちら

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1986年に18歳で現代詩手帖賞を受賞し、ゼロ年代のトーキョーポエトリーシーンで唯一無二の異才を放った究極Q太郎氏の10年ぶりのライブ。僕にとっては、カート・コバーンが実は生きていてワールドツアーの日程が発表された、ぐらいのインパクトがある大事件です。

先日のウエノ・ポエトリカン・ジャム5でもひときわ大きな歓声を集めたひとり、ジュテーム北村氏は生涯オープンマイカーを名乗り、ライブのブッキングを受けることはあまりありません。今年5月の『胎動 Poetry Lab0. vol.6』の客席で久しぶりに顔を揃え、今回の共演を決めました。

実はこの組み合わせ、中野VOW'S BAR2004年5月に一度切り開催されたことがあります。そのときは8畳のお座敷に40人以上のお客様というなかなかな混雑ぶりでした。そんな3人による13年ぶりのレアなライブをお楽しみいただけたらこれ幸い。

会場はおなじみJAZZ喫茶映画館さん。都営地下鉄三田線白山駅下車A3出口裏徒歩1分。1978年開店のヴィンテージ物件。マスター手作りの真空管サウンドシステム。壁にはヌーヴェルヴァーグのポスターと沢山の振り子時計がチクタク鳴っている。猫もいます。

ご予約は不要ですが、「行くよ!」とおっしゃっていただけると俄然モチベーションが上がります。皆様どうぞお運びください!



2017年10月15日日曜日

交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション1

小雨降る日曜日、ユナイテッドシネマ豊洲で劇場版アニメ『交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション1』を観ました。

西暦2305年、知的生命体スカブコーラルと人類の戦いにより荒廃した地球。公共福祉査察軍生化学即応軍の科学者アドロック・サーストン(声:古谷徹)は自らの命を犠牲にして地球を危機から救い、その状態を「サマー・オブ・ラブ」と名付けた。死の間際、息子レントン(声:三瓶由布子)をレイ(声:久川綾)とチャールズ(声:小杉十郎太)のビームス夫妻に託して。

2005年にMBS制作で放映されたテレビ版アニメの前日潭。アドロックが主役の冒頭約20分ノンストップの先頭シーンの迫力、ダイナミズム。CGを用いず、あえて手描きで制作されたということに驚かされます。

後半の舞台は10年後の2315年。全50話あるテレビシリーズを再構成したレントンと人型コーラリアン・エウレカ(声:名塚佳織)の物語です。PLAY BACK と PLAY FORWARD を繰返し、複数の時系列を行き来させるが、観ていて整理が追いついていかない感じがしました。

全編に日本語明朝体と英語のテロップによる登場人物、作戦、メカ、設定等の脚注が入りますが、一瞬で消えてしまうので、断片的な情報しか残らない。実際の戦闘中のスピード感と動体視力とはそんなものなのかもしれません。

「ハイエボリューション」は三部作で、来年と再来年に中編、後編が公開になるため、この「1」だけではなんともいえませんが、多くの布石が置かれているのは間違いのないところでしょう。

サマー・オブ・ラブ」は1967年に米国サンフランシスコで生まれウッドストック・フェスティバルに結実したカウンターカルチャーのムーブメントの総称です。そして「セカンド・サマー・オブ・ラブ」は1989年、英国マンチェスターのクラブハシエンダに端を発したレイヴ文化。

KLFLFOAPHEX TWINビースティ・ボーイズソニック・ユースTB-303ドンカマチックKORG製の初期アナログリズムマシン)、SK8など、1980~90年代ユースカルチャーへのオマージュ。当時を知る大人を刺激するワードが頻出する。エンディングにはボブ・ディランの"Like A Rolling Stone" の歌詞の引用も登場します。

 

2017年10月7日土曜日

ウエノ・ポエトリカン・ジャム5

一度散った金木犀がまた花をつけています。上野恩賜公園水上音楽堂で開催されたウエノ・ポエトリカン・ジャム5(UPJ5)に行きました。午前11時から午後8時まで総勢81組による声と言葉の祭典、観客数800人超。ポエトリーのイベントとしては日本国内最大級のフェスです。

自由詩、短歌、ラップ、スピーチ、プロパガンダ、独白など、表現のスタイルもさまざまですが、どちらかといえばエクスペリメンタルというよりポップ、カウンターカルチャー寄りなアクトが多いのは、1997年~高田馬場ベンズカフェ、1999年~西麻布オージャスラウンジのオープンマイクから、2000年の第1回ウエノ・ポエトリカン・ジャム、そして2003~2011年(中断期間あり)の新宿スポークンワーズスラム(SSWS)の流れを汲んでいるからだと思います。

UPJの創始者さいとういんこさんに始まり、「85歳の野外フェス・ヘッドライナー」と紹介された谷川俊太郎さんまで、25組のゲストは、好き嫌いや合う合わないはあるにしても、いずれも納得のクオリティでした。運営事務局からリツイートされてくる観客や出演者のつぶやきを見ても、各々が割と万遍なく異なるアクトを評価しており、またお目当ての出演者だけでなく初めて見聞きするアクトに反応しているのも、時々楽しく眺めつつ。これは観客の立場としては、前回2009年のUPJ4と一番変わったところかもしれません。

事前エントリー45組、当日先着順で10組のオープンマイク出演者。その中では、少年(しょーや)さんthee last bookstoreさん、小野寺さん、yaeさん1.G(Idea Pops)さんがよかった。サプライズ出演となった主催の三木悠莉さん胎動レーベルikomaさんのユニットも素敵でした。

それから司会のおふたりもクリアで素晴らしかった。文字通りの Master Of Ceremony。ゲスト枠の猫道くんはさすがの安定感。オープン枠の石渡紀美さんもちゃんと仕事していて感動しました。なによりふたりとも声がいい。

僕は過去3回、2000年UPJ、2001年UPJ2、2009年UPJ4にゲスト出演させてもらいました。今回はジュテーム北村氏(画像)が僕の「」という詩をカバーしてくれたので、僕自身はステージに上がりこそしませんでしたが、出演したような気持ちです。どうもありがとうございました。

三木さん、ikomaさん、そしてスタッフのみなさん、準備も当日も大変なご苦労をされたと思いますが、おかげさまで記憶に残る心地良い一日を過ごすことができました。最大級のリスペクトを贈りたいです。