2020年11月29日日曜日

IIOT presents "magic hour"

11月最後の日曜日、下北沢へ。CLUB251にて開催された IIOT presents "magic hour" に行きました。

IIOT(アイアイオーティ)は、ヴォーカル/キーボードのエリーニョさんを中心に結成された新バンド。ギター 石川ユウイチさんANIMA / The eri-nyo Quintet)、ベース オギノ祥弌さん(ANIMA)、ドラムス 高橋ケ無さんSOUR / Paris death Hilton)の4人組で、この日が初披露。エリーニョさんが3月に出したCDブック "urion" に2曲収録されている演奏が恰好良くて、楽しみに待っていたデビューライブでした。

ソーシャルディスタンスを意識して普段客席として使用されるフロアに半月型に配置されたバンドセットから放たれる音楽は、既にYouTubeで公開されている "Song 1" "夜の街" のMVのメロウでアーバンなサウンドとは異なり、バキバキにハードエッジです。

デビューとはいえ経験も実力もある4人の演奏はきれいにまとめようと思えばまとめられるものをあえて生のまま差し出している。"夜の街" に象徴されるコロナ禍の世界に対する不安、抑圧、愛情、希求がないまぜのMixed Up Emotionを提示しているように感じました。

特に音の抜き差しが自在でアイデアに溢れ且つソリッドに縦ノリな高橋ケ無さんのドラムプレイがIIOTの音の肝だと思います。豪放磊落なCUICUIRuì Suì Liuさんといい、知的で冷静なThe eri-nyo Quintetのヨシカワタダシさんといい、エリーニョさんのリズムセンスは抜群だと思います。

共演のmothercoatはしいて例えれば James Blake meets 井上陽水といった風情のデュオ。サンプリングされたブレイクビーツと手弾きのベースの重低音の不協和音が心地良いチルアウトミュージック。

ステージを2人のダンサーが躍動する。Yuko Tohyamaさんはコンテンポラリー、Eisakuさんはハウス風味のタップとスタイルは異なりますが、眼前で鍛えられた生身の人間が踊る姿はやはり胸を打ちます。

「身体性」というのが、この日 "magic hour" でエリーニョさんが僕たちに示したかったテーマではないでしょうか。

 

2020年11月27日金曜日

ホテルローヤル

秋の終わりの金曜夜。TOHOシネマズ日比谷武正晴監督作品『ホテルローヤル』を観ました。

第149回直木賞を受賞した桜木紫乃短編小説集を実写映画化。釧路湿原にぽつんと建つ雅代(波瑠)の両親大吉(安田顕)るり子(夏川結衣)が経営するラブホテル。従業員のミコ(余貴美子)と和歌子(原扶貴子)は創業時から20年近く勤務している。

幼い頃から同級生にラブホの娘とからかわれ家業を嫌っていた雅代だが、札幌の美大受験に失敗しホテルの仕事を手伝いはじめる。母るり子は若い恋人(稲葉友)と失踪、父大吉は深酒し元妻のところに入り浸り帰ってこない。

土砂降りに打たれて担任の野島(岡山天音)と雨宿りのためにホテルの部屋に入る親に捨てられた女子高生まりあを演じる伊藤沙莉がとてもいい。錆びついたホテルの死んでいるような登場人物たちのなかで彼女が登場すると画面が生命力に溢れ活気づきます。

しかし、まりあはホテルの部屋で3日間を過ごし野島と心中してしまう。葬式帰りの熟年夫婦(正名僕蔵内田慈)のエピソードは唯一の救いか。心あたたまりました。

松山ケンイチ演じるアダルトグッズの営業マン宮川の立ち居振る舞いが滅茶苦茶格好良く、原作者の理想を擬人化したキャラクターではないか思います。

 

2020年11月23日月曜日

タイトル、拒絶

自宅から徒歩で行ける2つめの映画館。109シネマズ木場山田佳奈監督作品『タイトル、拒絶』を鑑賞しました。

JR山手線鶯谷駅前「悪質なポン引き街娼が増えています。相手の客も処罰の対象です。」と書かれた看板前で黒いブラジャー姿のカノウ(伊藤沙莉)の独白「不特定多数のベーシックスタイル、どうなんですかこの人生?」で映画は始まります。

就活に失敗しデリヘル嬢の面接を受けたカノウだが、最初の客から生理的に受け付けず嬢は辞め、同じ事務所で運営スタッフとして「女の子」たちをサポートしている。

アツコ(佐津川愛美)、キョウコ(森田想)ら、陽キャのデリ嬢がかしましく騒ぐ事務所の片隅で膝を抱えるチカ(行平あい佳)。いつも手放さない大学ノートには「先のないことしか書いてないから。恨みとか辛みとか」。

時折笑いが起こることがあっても殺伐とした空気は常に一色即発の緊張感に満ちている。そのなかで周囲に流されず常に笑顔を絶やさない売上ナンバーワンのマヒル(恒松祐里)。輪には加わらないが、彼女を中心に場が生まれる。

誰もが感情をあらわにするが、カノウだけは感情の外側にいる、そしてそれが気にくわない者になじられる。なのに自分ではなくデリヘル嬢の側に立ち最後の最後に感情を爆発させるカノウ。

荒んだ人間模様にあって、マヒルと妹(モトーラ世理奈)が話す高架橋の背景の空の青の美しさが目に染みる。

テレ朝系深夜ドラマ『女子高生の無駄づかい』で注目したマヒル役、子役出身の恒松祐里の演技が見事です。特にラストシーンの「お腹空いた」の台詞が劇中の惨状をすべて救済している。伊藤沙莉とダブル主演と言ってもいいのではないでしょうか。

入江陽のスコアも地味ながらこの映画にドライな格調を与えています。